米国への航空機乗客データ引渡しは違法──欧州司法裁判所が判決

欧州司法裁判所は5月30日、欧州連合(EU)諸国から米国に向かう航空機の乗客の個人情報を米国当局に提供できるとした2年前のEUの決定に対して、欧州議会の主張どおり、違法であり無効とする判決を下した。

EUの決定は、2001年9月11日の米国同時多発テロ事件をきっかけに、米国のいわゆる「テロとの戦い」を支援する目的で下されたものだ。欧州委員会(EUの行政執行機関)が働きかけ、EU加盟25カ国の政府(当時)によって承認され、米国政府との間で2004年5月に、航空機乗客記録のデータ引き渡しを可能にする協定が取り交わされた。

しかし、欧州議会は、この協定に反対して欧州司法裁判所(ルクセンブルク)に上訴し、欧州委が欧州市民の個人データを米国当局が適切に保護すると判断したのは不適切であり、各国政府が米国政府とのデータ引き渡し協定を承認したのも不適切だったと主張した。

欧州司法裁判所は、欧州議会の主張を全面的に認め、欧州委と欧州理事会の判断をともに無効とした。「委員会の決定も、理事会の決定も、適切な法的根拠に基づいたものではない」と同裁判所は声明で述べている。

今回の判決は、市民権活動家らにとっては朗報だが、旅行関連業者、特に航空会社は法的に板挟みの立場に置かれることになる。同時多発テロ後に成立した米国連邦法では、航空会社に対して乗客データを収集して米国当局に引き渡すことを義務づけ、引き渡さない航空会社には罰金を課すことができると定められているからだ。

米国政府は、テロリストらしき者を事前に排除できるように、欧州からの航空便の乗客についての情報を離陸の15分前までに提供するよう航空会社に求めている。そうしたデータには、乗客の氏名、住所、クレジットカード番号、旅程など30余りの個人情報が含まれる。現協定が失効すれば、罰金以外に、欧州便乗客の米国入国手続きに何時間もかかるようになるなどの影響も考えられる。

だが、EUと米国政府が2年前に締結した協定は打ち切りを通知してから90日間有効であるため、欧州司法裁判所は、今回の判決が9月30日以降に法的効力を持つように配慮している。それまでの4カ月の猶予期間に、欧州委や各国は米国との間で代替策を探すことになる。

英国など一部の国の政府は、米国当局と航空機乗客データの交換を続けるために米国と2国間協定を結ぶことを検討している。

米国政府の担当者の1人は、「われわれは欧州委と協力し、この判決を全面的に尊重した暫定的なデータ引き渡し方法を見つけるべく最善を尽くす」と述べている。また、4カ月の移行期間中に、欧州・米国間の航空便についての対応を調整しつつ、高いセキュリティ・レベルを維持することを目指すとしている。

欧州委の広報担当者、ヨハネス・ライテンベルガー氏によると、この判決が与える影響について検討中だが、テロとの戦いと人々のプライバシーの尊重に注力する姿勢に変わりはないという。欧州司法裁判所は、2004年に結ばれた協定の内容を無効としたわけではなく、一連の決定の法的根拠を問題にしている、と同氏は強調する。

また、欧州委は、欧州議会が決定に参加できるように検討しているという。欧州議会が搭乗者データの引き渡し関する決定に反対した理由には、その意思決定プロセスから外されていたことも含まれていると見られる。

欧州司法裁判所
http://europa.eu.int/cj/en/instit/presentationfr/index_cje.htm

(ポール・メラー/IDG News Service ブリュッセル支局)

提供:Computerworld.jp