次期DebianプロジェクトリーダーAnthony Towns氏に訊く

投票の結果、Debian開発者でLinux Australiaの事務局長も務めているAnthony Towns氏が2006年4月17日付けでDebian Project Leader(DPL)に就任することが決まった。向こう1年間の抱負についてNewsForgeからの質問に電子メールで回答したもらった。

DPLは、任期が1年で、Debian Technical Committeeの任命、全体決議の提案および修正、プロジェクト資産に関するSoftware in the Public Interest(SPI)の意思決定など数々の権利や責任が与えられている。それでは、質問および回答の内容を紹介しよう。

NewsForge: DPLとしての直近の予定を聞かせてください。また、それ以降の数カ月間の予定についても教えていただけますか?

Anthony Towns: まずは頭の中にあるさまざまなアイデアを整理することだね。本当にやる価値のあるものを見極めて優先順位を付けるためだ。それに、今回DPLに立候補した皆やその支援をした人たちのアイデアを無駄にしないようにしないと。

今は数カ月先どころか数週間先のことで頭が一杯だよ。最近Joey Schulzeの跡を継いだ、Andy BarthとMartin Zobelは、Debian 3.1(sarge)の次期ポイントリリースの最終段階に入っている。etch(来るべき次期バージョンのコードネーム、12月にリリース予定)へのAMD64の取り込み準備はほぼ完了だ。そして、DPLとして覚えないといけないことが山のようにある。5月の今頃には、年に一度のDebian Conferenceに出席するためにメキシコに向かっているはずだ。

NF: 期間が長すぎて参加を考えている開発者がその気をなくしてしまう、とDebianの新規メンテナプロセスがよく批判されています。メンテナの定期的な資格更新を求めたTed氏の提案には同意されませんでしたが、このプロセスの短縮を考えていますか、それとも現状のままで構わないとお考えですか?

AT:この1年の大半をかけてあるアイデアについて何人かと話し合ってきた。基本的には、限られたレベルで開発者資格を導入するという内容だ。比較的容易かつ迅速に取得することができ、しかも何ができるかについてよりきめ細かい基準を設けている。

既に提案されていたアイデアだが、以前の私はこれに反対していたのだよ。すべての開発者が同等の能力を持ち、誰もが仕事をこなせて問題が起これば仲間に救いの手を差し伸べられる、それがすばらしいのだ、とね。だが、それができるためには、それぞれの開発者が仲間たち全員から深く信頼されていなければならない。そういう信頼関係を築き上げるまでにはあまりにも長い時間がかかるので、別のやり方を探したほうがいい、という考えに至ったわけだ。

このことは今日のブログにも書いたので、これをきっかけに数週間かけて面白い議論ができればいいと思っている。最終的には実質的な変化が生まれることを期待しているのだが。

NF: Debianをよく知らない人たちのために、現在活動をされているプロジェクトとこれまでDebianに関わってきた経緯について教えてください。また、DPLになると今関わっているDebianの仕事には時間を取れなくなりますか?

AT: 今はバグ追跡システムとアーカイブ管理ソフトウェアの開発とメンテナンスを担当している。かつてはDebianシステムのインストールに用いる”debootstrap”という抽象度の低いツールや、ネットワークインターフェイスの設定に使う”ifupdown”を開発した。それに、Debianのバージョン2.2(potato)と3.0(woody)のリリースマネージャも務めていた。

NF: ここ最近、Debianの存在はどれほど「重要」だとお考えでしょうか? これについては多くの意見が出ています。たとえば、UbuntuによってDebianは時代後れのものになった、というものもあります。もちろん、この意見には賛同なさらないでしょうが、現在のDebianにはどれくらい意味があると考えていますか?

AT: 誰にとっての「重要性」なのかをはっきりさせなければ、Debianがどの程度「重要」かについて言及はできない。毎日Ubuntuを愛用している人にとってはDebianは少しも重要でないだろうが、実際にUbuntuを作った人々の多くはDebianに対しても思い入れがあるのだよ。たとえば、Mark Shuttleworthは、Debianの重要性を改めて認め、プロジェクトのアカウントを復活させて今回の選出に投票したくらいだ。

Ubuntuは、Debianを時代後れのものにしたというより、Debianのテクノロジと理念をより多くの人々にもたらす、というすばらしい役割を果たしたのだ、と私自身は思っている。それに、両プロジェクトの関係は、確かに複雑ではあるけれど、依然として健全で、今後はよくなる一方だろう、と考えている。

NF: これからの1年、Debianにとって最大の課題は何ですか?

AT: 大きな課題は、Debianに貢献したいと思っている人たちの希望をかなえる方法を見つけ出すことだ。この点でも、我々の新しいメンテナプロセスが問題になってくるわけだが、本当に助けが必要な状況でいいアイデアをもらうのは難しいのだよ。それに、Debianのようなボランティアベースのプロジェクトでは、協力が得られるなら、そのすべてを活用していかなくてはならない。

NF: 今度は反対に、フリーソフトウェアプロジェクトとしてのDebianの強みは何ですか? また、その強みがDebianに追求できて、ほかのプロジェクトにできなかったのはなぜでしょうか?

AT: 純粋にボランティアベースのプロジェクトであり、従来から強いリーダーシップには頼らないことによって、プロジェクトは非常に多様性に富んだ存在になっている。開発者たちやそのスキルと経験、提供するソフトウェア、その対象とするシステムや使い方、どれをとっても多種多様だ。Debianでできそうなことを見つけてそれをやってみたいと思ったのなら、ただプロジェクトに参加すればいい。誰にも許可をもらう必要はない。

NF: etchはあなたの任期内にリリースされると思いますか?

AT: そう思っているよ。リリースマネージャのAndy BarthとSteve Langsekには豊富なスキルと経験があり、etchのリリースに向けた計画も申し分ない。そのうえ、インストーラチームとセキュリティチームの双方からサポートを受けていることも大きい。インストーラチームは既にetchのベータ版を2回リリースしているし、セキュリティチームは来るべきリリースに絶えず取り組むサブグループを設けている。これにより、これまでのリリースを遅らせる原因になった2つの大きな問題は解決されるはずだ。etchの開発者は、身体中にSteveとAndyに対する信頼がみなぎっていることだろうね。数カ月後には、予定どおりのリリースを確実にする重要な活動が始まっているものと期待している。

NF: 今回の選挙に投票したのは、投票権のあるDebian開発者の半数足らずだったと聞きましたが、これについてはどのようにお考えですか?

AT: 1つ考えられるのは、投票権を持つ開発者の数には、現在プロジェクトに関わっていない開発者も含まれている、ということだ。しばらく活動を休止している開発者にまだプロジェクトに関わる意志があるかを問い合わせるメールを送るのだが、最後に送ってからずいぶん時間が経っている。だから、現時点での本当の開発者数を把握するのは難しいね。

NF: Debianプラットフォームを3つの言葉でまとめるとしたら、と尋ねられて、「バイタリティ、リクルーティング、ディレクション」とお答えになりましたが、読者にわかりやすく説明してもらえますか?

AT: Debianは大規模なプロジェクトだが、さまざまなことについて議論や熟考を重ね、立てた計画の一部を漫然と進めるだけに終わらないようにすることで前に進むことができる。「バイタリティ」は、言いっ放しで終わるのではなく、実際に何かを実行することを表している。

「リクルーティング」は、まったくの未経験者がプロジェクトに加わるのか、プロジェクト内の経験者が新たな分野に移るのかに関係なく、新しい人たちを受け入れることを表している。

そして「ディレクション」は、この先ずっと同じ方向を目指して活動を続けるのではなく、ユーザの役に立てることを新たに考えながらソフトウェアをよりよいものにしていくことを表している。

それから、私が掲げた綱領の全容も参照してもらえるとありがたいね。

Debianをジョギングする人にたとえれば、バイタリティは心臓の鼓動だ。我々は力強く規則正しい鼓動を必要としている。リクルーティングは肺にあたるものだ。十分な量の酸素を手に入れれば、生気のない空気で活動しなくて済む。そして、ディレクションは頭脳だ。自分のしていることを絶えず把握していれば、路上の窪みにつまづいたり、車の前に跳び出したりすることはない。

NF: 質問にお答えいただき、ありがとうございました。Debian Project Leaderとしての新たなご活躍を期待しています。

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