Maemoと770を携え、オープンソースと歩むNokia

Nokiaは「ものを作る」会社です――先週、LinuxWorldの聴衆を前に、プロダクト・マネージャAri Jaaksiがこう語った通り、Nokiaはこれまでソースコードを公開したことはなかった。ところが、770 Internet tabletを登場させたNokiaは、それに合わせてオープンソース・アプリケーション・プラットフォームを立ち上げ、プログラマを既存のオープンソース・プロジェクトに派遣する一方、すでにオープンソースに貢献しているプログラマにも資金を提供し、オープンソース・ソフトウェアの推進に向けて動き出した。

昨年11月に発売した770は好評を博している。電話機型の製品が待たれるところだが――このプラットフォームの将来については未定――登場するとしてもまだ先のことだ。Nokiaの製品であることから770は電話機になるだろうと誰もが思っているが、当のNokiaは、今、プラットフォームを作ることに関心があるとJaaksiは言うのだ。既存のものを新しいプラットフォームに転換するよりも新しい製品を投入した方がある意味で容易であるし、規制が厳しく認可の必要な携帯電話市場は二重に厄介だからだという。

Nokiaは自社のリサーチ・センターでLinuxカーネルを自社ハードウェアのすべてに移植したことがある。Jaaksiは「お遊び」だったと言うが、2年足らず前のこと、遊びをやめて商品化に取り組むことにした。検討の結果、大きさはWebパッド程度としたが、これは携帯電話機の補完製品と位置づけ機能的に重複しないようにするためだという。この点についてフロアから質問されたJaaksiは、PDA――大きさは770と同程度――が流行っているのはほぼ米国だけだが、スマートフォンはカレンダとPIMに関しては世界の主流だと答えた。

Nokiaは完全なオープン開発モデルを採用することにし、既存のプロジェクトを流用することも同じ開発を繰り返すこともしなかった。可能であれば既存のオープンソース・コードを組み込み、必要であれば開発を支援することにしたのだ。その結果生まれたMaemoプラットフォームはGNOMEベースとなり、XやGTK+などのいわゆる「デスクトップ」レベルのツールとライブラリが動くものになった。組み込み型機器というよりも、はるかにPCに近い。

NokiaはOMAPカーネル、GTK、GNOME-VFS、D-BUS、GStreamer、OBEXなどに参加する開発者たちを支援した。それでカバーしきれない部分は、自らプログラマを採用して開発した。Maemoインタフェース、Hildonアプリケーション・フレームワーク、Scratchboxクロスコンパイラ・ツールキットなどだが、そのいずれもをLGPLライセンスとした。しかし、たとえ企業がコードを公開したとしても、それをサポートし、バグを管理し、社外の開発者と連携する人材を配置しなければ、その投資からは何の見返りも得られない。そうした顰みに倣い、Nokiaはメーリング・リスト、バグ管理、wiki、開発者向け文書などを含むプロジェクト・サイトを作り運営を続けている。講演後サイトの運営に専従する者の人数を尋ねたところ、特別なチームを編成するのではなく、770のメンバーが全員関わっている――質問に答えたり、テストしたり、バグ報告を調べたりしているという答えが返ってきた。

Nokiaは、PC、フラッシュ・ツール、rootファイル・システムなどのためのテスト環境をアプリケーション開発者向けに提供しており、このプラットフォームの周辺にはすでに外部アプリケーションが叢生し始めた。商用製品も1本誕生している。また、Nokiaはユーザーを想定し、長期計画の中に位置づけてきたという。これは、ほかの機器――ebookなど――では見られなかったことだ。「(ebookは)かなり出回っていますが、読みたくなるようなコンテンツがあまりありません。しかも、そのほとんどにDRMが設定されています。しかし、(770に)DRMはありません」

Nokiaの見るオープンソースの利点

Nokiaにとって、オープンソースの利点は何だろうか。保守コストを分散できること。高品質のコードが手に入ること。Linuxに組み込める既存のサブシステムが使えること。こうした利点をすぐに挙げることができる。ところが、Jaaksiによると、さらに驚くべき利点があるという。オープン・プラットフォーム上で新製品を作る方が容易だというのである。

商用コンポーネントを使うにはライセンスや契約交渉やこまごまとした「手間の掛かる」法務を経なければならず、6〜12か月掛かることも珍しくない。これに対して、オープンソース・ソフトウェアでは、こうした問題はすべて、とりわけ知的財産権と著作権に関する条件は明確な形で開示されている。ライセンスの提供者があらかじめ検討し結論を出しているからだ。

さらに、オープンソースでは、先行技術と使用許諾が調べやすく確認もしやすい。Jaaksiによれば、委託の際、プロの開発者は誰もがこの点を気にするため、これは重要な点だという。また、開発者と直接連絡できるため(何人もの管理職を通す必要がない)、開発体制が簡潔かつ機敏になる。何でも弁護士に通さなければならないということがなく、計画やバグについて胸襟を開いて率直に語ることもできる。

もう一つ重要なことは、開発状況が思わしくないとき――そうしたこともあるとJaaksiは言う――そのままの状態でコードを引き上げ、修復をほかの開発者に託せることだ。これはクローズド・ソースの契約では不可能に近い。

過渡期の問題:オープンソースとその将来

講演の最後に、Jaaksiは、オープンソースがこの市場の将来に与える影響について触れた。Maemoプラットフォームは順調だが、今のところNokiaはオープンソースだけでなくクローズド・ソースも使わざるをえない。他社がコードを開示しないと言えば打つ手はなく、ものを作る会社であるNokiaとしては、それを自社の機器に使う方法を探すほかはないのだ。それを実現しつつ、しかも同時にGPLに対する義務を果たすには? その答えを見るのが楽しみだとJaaksiは言う。

Jaaksiは、Nokiaの仕事ぶりについてLinus Torvaldsに尋ねたことがあるという。「Nokiaはオープンでしょうか」とJaaksiが尋ねると、Torvaldsは今は心配していないと答えたという。「心配はいりませんよ。Nokiaがソフトウェア戦略を作りますね。すると、後からPanasonicが来て自分たちの戦略を作る――もう少しよいもの、もう少しオープンなものをね。すると、Nokiaも同じように、もう少しオープンな戦略にする。その繰り返しなのです」

Jaaksiは最後に次のように述べた。「Nokiaのような企業にとって、これがどれほど大きな変化であるか、いくら強調しても強調しきれません。まったく違う方法で製品を作ろうというのですから」

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