LinuxWorldの総括

今年のLinuxWorld Conference & Expo Bostonは、明らかに落ち着いた雰囲気だった。同僚の1人は「眠気を誘う」とこぼしていた。IBMやHPのような大御所が出展していないのを不思議がる者も多かった。この展示会はBoston Convention Centerで開催された。同時に2つか3つの展示会が行える、広大で複雑な構造をした会場だ。セミナー室から展示フロア、報道関係者ロビーまで歩く距離が展示会の規模の判断基準だったとしたら、確かに大規模な展示会だといえるだろう。しかし、展示フロアを埋めつくすほどの出展者数ではなく、多くのブースでは説明員が時間をもてあましているように見えた。

ここ数年間は、フロアが活気に満ちていた。ハッカー風のマニアからスーツ姿の企業役員まで、大勢の人々がフロア全域にひしめき合い、ブースのコンパニオンが魅惑的な笑顔とその他の「仕掛け」で観客を集めていたものだ。今回はマニア色が強くなり、華やかさはかなり失われたように感じた。また、参加者の多くは、企業の社員ではなく個人事業者のようだった。ブースにいるベンダからも話を聞いてみた。始めこそ、とても有意義な展示会だ、と語ってくれたが、話し込むうちに、たいていの人は「今年は客足があまり延びない」と本音を漏らしていた。

今年のLinux業界で重要なのは何かという問いに対して、出展者は、それぞれの観点から異なる回答をしていたが、そこには共通のテーマが1つあった。それがデスクトップ、とりわけマルチメディアのサポートだった。UbuntuブースにいたOg Maciel氏は、次のように語った。ユーザビリティが重要だ。開発者たちはLinuxデスクトップをWindows並の扱いやすさにする各種ソフトウェアの実装に熱心に取り組んでいる、とのことだった。LinuxQuestions.orgのJeremy Garcia氏は、Vistaのリリース延期がLinuxの普及と需要拡大への全面的な追い風になっている、と話していた。

Black Duck Softwareのプロダクト管理ディレクタ、Jim Berets氏は、次のように話してくれた。GPLv3(General Public License version 3)の影響について顧客から問い合わせが来ている。Black Duckは、10,000以上ものプロジェクトのデータベースを管理することによって、企業のプログラムがライセンス上問題がないかの確認を支援するという。顧客のアプリケーションで使われているコードがデータベース登録されているプロジェクトの「指紋」に一致した場合、Black Duckがそのプロジェクトに関するレポートを生成する、というものだ。

X.orgのブースに応援に来ていたのは、Project.netのSridhar Bidigalu氏だ。彼は、近いうちにOpenSolarisはLinuxの対抗馬になるだろう、と語った。デスクトップでは、マルチメディアのサポート強化がLinuxのさらなる普及に向けた特効薬になるだろう、とも話していた。

Symantecのブースには、以前から同社で働いていた説明員はいなかった。実は、Symantecは昨年Veritasを買収したところだ。Veritasといえば、ストレージおよびバックアップ関連製品を扱い、Symantecよりもずっとオープンソースに明るくLinuxに好意的なベンダである。SymantecブースにはVeritasの名は見当たらず、Symantec一色に染まっていたのだが、Veritas社の製品の一部は以前のままVeritasブランドで扱われる予定だ。きっと読者も紛らわしいと思われるだろう。ブースの説明員たちにそう告げたところ、彼らもその意見に同意してくれた。

この展示会のブースの中でも、最も熱気を漂わせていたのが、OpenOffice.orgのLouis Suarez-Potts氏だ。事実、オープンスタンダードの重要性について語り、次の標準を決めるにあたってどのような取り組みをすればよいかを話してくれた彼は、跳びはねんばかりの勢いだった。次の標準を見定めるには時間がかかるが、それが当然だ、と彼は話し、その理由を、標準は絶対にベンダにとって中立であり、プラットフォームにとらわれないものでなければならないからだ、と説明した。ベンダのコンソーシアムがオープンスタンダードのサポートに対する抵抗を取り払ってくれるだろう、とも彼は話していた。また、オープンソースが本気で市場を支配するつもりなら、ライセンスの無駄を排して簡素なものにする必要がある、と確信していた。

私が行った非公式な調査によれば、オープンスタンダードのプラットフォームが、業界の隅々にまで認知されるのはまだまだ先になりそうだ。「.org(非営利団体)エリア」および「企業エリア」の各ブースでオープンスタンダードの重要性について質問してまわったところ、OpenOffice.orgブースを別にすると、誰しもこの質問に面食らったようで、明確な回答はどこからも得られなかったのだ。

今年のLinuxWorldは例年より地味で、これまでのような面白さや強引さはなかったが、それは必ずしも悪いことではない。Linuxはその存在をアピールするために、もう年に2、3回も大規模な展示会を行う必要はないのかもしれない。我々の発展はまだ始まったばかりなのだ。

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