人材募集: コントラリアン求む
ITアプリケーションのプロジェクトでは、当該業務に付き物のリスクを徹底分析せずにプロジェクトをそのまま承認することが珍しくない。ITアプリケーションのプロジェクトを提案するときは、メリットを並べ立て、リスクについては黙殺しないまでも、できるだけ大したことないかのように話すのが普通だ。
マーケティング手法としては効果的でも、プロジェクトの初っ端で見過ごしたリスクが消えてなくなるわけではない。後になって立ち現れるのはほぼ確実だ。そうして姿を現したリスクはプロジェクトの進行と共に深刻な問題へと発展する。コントラリアンの活動は、提案されたプロジェクトにリアリティを与える手段と位置づけられる。
それほど多くのITプロジェクトを見たわけでないが、理屈上、プロジェクトのメリットと潜在的問題点を前工程で十分時間をかけて検討すればプロジェクトが成功するチャンスは高まるだろうから、ITプロジェクトを成功に導く可能性があるならどんな方法であろうとも慎重に検討すべきである。
責任の範囲と役割
コントラリアンが果たすべき職務とは、提案されたITアプリケーションの全プロジェクトについて、それらが承認される前に入念な検討が確実に行われるようにすることである。新規のアプリケーションだけでなく、既存のアプリケーションの改訂もその範囲に含まれる。さらに、検討すべき対象は社内だけでなく社外にも及び、購入したソフトウェアの成果物も対象となる。
コントラリアンの活動では、提案されたプロジェクトの実現可能性に焦点が当てられる。焦点がずれぬよう、以下の点を押さえて調査することが大切である。
プロジェクト提案書添付の開発計画を入念に調査する。
プロジェクトの予算案とライフサイクルを現実に即して検討する。
提案されたプロジェクトと当該ビジネス機能との間にずれはないか、また会社としての目標は何か。この点を詳しく調査する。たとえば、調査対象のプロジェクトが、一連の新たなIT技術導入を目標に掲げていたとする。このとき、そのようなやり方が会社の長期的利益にかなうかが問題となる。また、新技術への移行時に生じるストレスについて、当該技術への適合性と企業文化の対応能力も検討する必要があるだろう。
IT部門と各事業単位にプロジェクトの運営に必要な管理能力が備わっているか検討する。
プロジェクトの進行に支障を来す要素がIT部門、関連事業単位、経営陣の文化的側面に存在しないか。プロジェクトのストレスに会社が耐えられるか、文化的観点から検討する必要がある。
プロジェクトへの支援を社外に求めるか? また、その規定がない場合、どう対応するか?
しかし、プロジェクトの成否と最終品質を予測することはコントラリアンの職務範囲に含まれない。プロジェクトの成否と品質は、あくまでもプロジェクト・チームの問題である。プロジェクトをこのまま進めるかどうか、提案書を書き直すかどうか、活動を中止するかどうか。こうしたこともコントラリアンの職務範囲には含まれない。
プロジェクトのさまざまな構成要素を分析し、その分析結果を組織の技術水準や能力と突き合わせて評価し、プロジェクトの実現可能性に関して分析レポートを提出する。ここまでがコントラリアンの役割である。プロジェクトを承認するかどうか、中止するかどうかは経営陣の責任で決定される。
コントラリアンの活動
コントラリアンの活動はプロジェクト提案書の完成を受けて始まる。提案書が経営陣に回覧される一方で、コントラリアンはプロジェクトの全ドキュメントをつぶさに調査する。この調査は、調査工程を一定の道筋で進めるために開発された一連の標準に基づいて行われる。この標準は2つの領域をカバーしなければならない。第1は、業界標準のプロジェクト管理手順を包含する一般プロジェクト開発ガイドラインが存在すること。第2は、そのガイドラインに会社固有の標準も含まれること。以上2点である。
それらの標準をベースとする一定の手順に基づいてプロジェクトの最終的な決定を確実に行うことが大切である。ガイドラインに従うことで、プロジェクトの広範囲にわたる目標が提案書の各項目と対応付けられ、社内でプロジェクトの進行を改善するために検討される一連の項目が評価工程を形成する。
ガイドラインの目的は、それをテンプレートとして利用して社内のプロジェクトをさらに発展させることにある。確立された一定の調査手順をすべてのプロジェクトに適用すれば、プロジェクトの品質が偏りなく向上する。また、提案されたプロジェクトの実現可能性を判断する際、これらの標準とその目的を周知させることも重要だ。それで、プロジェクト・チームは、提案書の構成を標準に揃えれば承認をより簡単に得られると悟るのである。
コントラリアンは、調査に際して、プロジェクト・チームの仕事に難癖をつける誘惑にかられないようにしなければならない。コントラリアンの個人的偏見がそのレポートに入り込む余地はない。
完成したレポートは、然るべき経営メンバ、プロジェクトに関係する事業単位の管理者、そしてプロジェクト・チームのメンバに配布され、期限までにその内容についての意見を求められる。その間、各グループでそれぞれレポートが検討され、コントラリアンは質問にいつでも答えなければならない。
求められる技能
コントラリアンに求められる最も重要な技能。それはITアプリケーション・プロジェクトの管理について幅広い知識と経験を有すことだ。管理すべきプロジェクトの規模のみならず専門性においても、その経験が活かされなければならない。
コントラリアンの任に当たる者は、会社の文化的側面を理解する能力を持たねばならない。この能力が必須とされるのは、多くのプロジェクトで文化の問題がプロジェクトの最終結果を左右するからだ。そのため、提案されたプロジェクトが会社の文化に即していることをさまざまな側面から検証すること。それを一連の標準手続きのひとつに含めることが重要だ。プロジェクトの求める技術について、社内にその知識がほとんど備わっていないとしたらどうなるか。新技術の洗礼を受ける人々は、その技術をうまく使いこなすことができか。文化的な面から拒否反応は生じないか?
最終選考
客観性を失う結果となるので、コントラリアンは社内の他の仕事を兼務しないこと。この独立性を維持するには、レポートの提出先をCEOか、会社の経営陣で構成される委員会か、重役会か、そのいずれかにすることが大切だ。このレポート絡みの結びつきで鍵となるのは、コントラリアンが調査対象プロジェクトひとつひとつの実現可能性を中心に据え、社内の文化や政治的な問題に触れないことである。レポートをCEOに提出すれば、プロジェクトの承認に利害関係を持つ人々から不当な圧力を受けることもない。
コントラリアンの職位を検討すると反発を受けることもあるだろう。たとえば、そのような職位は承認の工程に余計な管理階層を積み上げてプロジェクトの承認を遅らせるだけだとの意見がある。また、多分あからさまに表明されることはないだろうが、プロジェクトを推進する人々を後からとやかく批判する立場にある人は、抵抗を受けるものである。
なるほど、コントラリアンの活動はプロジェクトのコストを上昇させ、プロジェクトを遅らせる。また、社内に文化的な緊張をもたらすことは間違いない。多くのITプロジェクトが当初の予算をオーバーし、(時として劇的に)予定遅れとなり、約束の期日にカットオーバーを迎えられないことはよくあることだ。強力な経営陣が有能なコントラリアンに仕事を付託すれば、完璧でないにしても、こうした問題をせめて軽減するきっかけとはなるはずだ。
コントラリアンという職位の意義は、プロジェクトに潜在する問題をプロジェクトの前工程で一刻も早くあぶり出すことにある。問題を早期に特定して対策を講じれば、本番移行後に対処するよりも圧倒的に安くつく。