ITパフォーマンスレビューの価値を認識しよう

IT管理で軽視されがちなことの1つにパフォーマンスレビューがある。これを面倒な仕事としか考えないIT管理者は多く、そのため、レビューがしばしばおざなりになったり、まったくスキップされたりする。パフォーマンスレビューを行わないのは問題外として、これに真剣に取り組まない管理者は怠慢を責められてしかるべきだろう。パフォーマンスレビューがなぜ重要かを以下に述べる。

すべての従業員は、それぞれのパフォーマンスを管理者から定期的に評価してもらう権利がある。このレビュー情報は、従業員が間断ない自己開発によって成績を伸ばしていくためのツールとなる。

残念ながら、このパフォーマンスレビューをいいかげんにされたという経験を持つIT労働者は実に多い。管理者がレビューに身を入れず、さっさと終わらせることしか考えないから、そういうことが起こる。やっつけ仕事のパフォーマンスレビューは、単なる時間の無駄以上に有害である。それは、管理者が部下に関心を持っていないことの現れであり、組織としての失敗を意味する。組織の成功は、どのような組織であれ、元気で活発なIT部門を抜きにしては考えられない。そして、その元気はITスタッフから生まれるものだから、IT管理者がスタッフメンバーを支援していくことは絶対に必要である。

IT部門は技術だけで成り立つエンティティではなく、それ以上に、人間から成り立っているエンティティである。組織はこの事実を絶対に見失ってはならない。技術にいくら巨額の資金を注ぎ込んでも、ITスタッフへの支援と励ましを忘れる企業は、IT投資から最大の効果を引き出しているとは言えない。IT投資から安定的に大きな利益を生んでいる企業とは、ITスタッフに大きな関心を払い、その成長を絶えず促しつづけている企業である。

パフォーマンスレビューは、管理者が部下の仕事をじっくりと観察し、適切に指導するためのよい機会であるし、そういう機会にしなければならない。効果的なレビューとは、正直で、正確で、包括的なレビューを言う。

すぐれたレビューは、従業員のパフォーマンスの肯定的側面だけでなく、弱点にも注目する。管理者のなかには、なるべく対立を避けようとするあまり、改善が必要な分野を見つけても、指摘することをためらう人がいる。だが、たとえ批判と受け取られようとも、改善が可能な分野について従業員と話し合うことは、その従業員自身のためにもなることである。

従業員のパフォーマンスを正確に評価するために、管理者はレビュー対象期間における必要なパフォーマンスデータを集め、分析しなければならない。それには努力と計画性が欠かせない。主張をデータで裏付けることができなければ、レビューに何を書いても空論にしかならない。

パフォーマンスレビューに必要なデータの収集は、レビューから次のレビューまでの全期間を通じて行わなければならない。部下の作業の正の部分も負の部分もよく観察し、それを記録しておいて、レビューに含めることが必要である。こうすることでレビューそのものの質が向上することはもちろんだが、仕事を逐一観察するほど管理者が自分に関心を持ってくれていることが部下にもわかり、それがよい結果を生む。

レビューという重荷は、管理者1人ですべて担うべきものではない。レビュー期間中に達成した仕事や発生した問題を従業員自身に記録させるよう、管理者から働きかけるのが賢いやり方である。こうすることで、管理者が見逃した問題も拾い上げられる可能性が出てくる。従業員自身と管理者の両方のデータを並べ、それをもとに率直に話し合えば、結果として説得力のある包括的なレビューが得られる。

レビューで取り上げる事柄によっては、管理者・部下どちらの提起によるものであっても、多少の緊張関係を生み出すことがあるかもしれない。どのような問題を取り上げるときでも、レビュー面接の目的が「部下に学んで成長してもらう」ことであるのを忘れず、両者ともできるだけ客観的な姿勢でそれと向き合うようにしなければならない。

従業員は、レビュー対象期間中に発生した問題以外にも、レビューで取り上げてほしい事柄があれば、それも記録しておくとよい。レビューでは、過去・現在・未来にわたりパフォーマンスのすべての側面をカバーするという姿勢をつづけることが重要である。その意味で、従業員がレビューに積極的に参加すればするほど、レビューの効果は大きくなる。従業員の姿勢が消極的で、レビューに参加せず、ただ聞くだけに終始すると、本来得られるはずの成果も得られない。

レビューの成果の1つとして、従業員のキャリア目標が設定され、そこへ到達するための計画ができあがることが望ましい。IT部門全体の戦略・戦術と噛み合うように目標を設定できれば最高である。

1つ例をあげてみよう。いま、IT部門が1組のビジネスアプリケーションを新しく買うことを考えているとする。この場合、従業員の目標の1つは調査プロジェクトであるべきだろう。つまり、さまざまなパッケージとそのベンダを調査して、情報を入手することである。調査の期限を切って結果を報告させるが、管理者側にも、その報告に正しく対応できるよう準備しておくことが要求される。調査内容についてのコメントは、当然、次回パフォーマンスレビューに含められることになる。

パフォーマンスレビューの作成には、熟慮と時間と努力が必要である。よく、レビューを避けることの言い訳として、時間がないことや、ほかに優先すべき管理上の仕事が多いことが使われる。だが、組織全体にとっての――それ以上に、個々の従業員にとっての――レビューの重要性を考えれば、レビュー作成のためには必要なだけの時間を確保するのが当然だろう。

管理スタイルを理由に、公式なパフォーマンスレビューなど不要だと言う管理者もいる。自分は積極管理を心がけ、部下といっしょに多くの時間を費やしている。だから、どの従業員も、仕事ぶりをどう見られているかを理解している。したがって、公式レビューなどという面倒なことはいらない、という意見である。

部下のために多くの時間を使い、注意を怠らないのが、よい管理スタイルであることは疑いない。だが、それは定期的な公式レビューに取って代わるものではない。管理者が部下と頻繁にコミュニケーションをとる管理スタイルは、「巡回管理」と呼ばれる。これの問題点は、話し合われる内容が単なるおしゃべりに堕し、指導やカウンセリングになっていないことである。

実際にレビューを行ってみると、多くの場合、巡回管理方式にあまり効果がないことがわかる。管理者は、これだけ部下と接触し、ざっくばらんに話し合っているのだから、部下との間に強いラポールが成立しているはずだと思い込んでいる。だが、いざレビューの場に臨んでみると、取り上げたいくつかの項目に対して、部下から意外感が表明され、管理者が思っていたほど両者間のコミュニケーションが深くなかったことが明らかになる。

部下と数分間立ち話するだけですまさず、ときにはもう少し時間を割いてやるようにすると、積極管理スタイルが実のあるものになる。レビューから次のレビューまでの期間中に何回か、管理者は長めの時間をとって、部下と仕事上の問題などをじっくり話し合うようにすべきである。この話し合いは非公式が望ましい。取り上げる問題を事前に決めておかず、記録も残さない。ただ、流れに任せて、仕事全般について語り合う。話し合いの場所も、邪魔が入らず、安心して個人的な話ができるような場所が望ましい。

ITにおける労働移動率の高さは、いつも管理者の頭痛の種である。とくに、優秀な労働者ほど転職率が高く、おざなりなパフォーマンスレビューがその傾向にいっそう拍車をかけている。有能な従業員は、能力を正当に認識してもらえず、あって当然の支援も励ましも指導ももらえないと、すぐに能力をもっと生かせる場所はないかと探しはじめる。不幸なことに、管理者はその事実を認めたがらない。部下の転職に直面したとき、IT管理者は給料の問題だと考えがちである。もちろん、給料の問題はいつもあるが、多くの場合、それは二次的な問題である。

確かに、少ない給料を求めて転職するIT労働者はまずいないだろう(それが起こるような状況は悲惨だ)。だが、給料の不満は実は表向きの口実であり、従業員のニーズへのケア不足が真の理由であることが多い。

離職を決意して人事部との面接に臨むとき、その従業員は必ず転職先での給料を尋ねられる。これに対する答えは、ほとんどの場合――実際には、まれながらそうでないケースもあるはずなのだが――「増える」である。従業員が転職先で給料が上がると答えれば、給料問題が離職の理由だと結論するのも、管理者側としては無理からぬことかもしれない。

パフォーマンスレビューを適切に行うことの重要性は、単に有能な従業員を引き止めるだけにとどまらない。ある従業員のパフォーマンスが、とうてい受け入れられない水準だった場合を考えてみよう。管理者としては、当然、その従業員のどこがまずいのかを説明し、必要な改善のための方法を提案し、その従業員と協力して改善計画を作成し、それが実行されるよう見届けなければならない。それを行わない管理者は職務怠慢である。

成績の悪い従業員に転職してもらいたくて、わざとパフォーマンスレビューをしないという管理者もいるかもしれない。だが、それがうまくいくことはめったにない。そういう従業員はもともと意欲が低く、自分から新しい仕事を探すことはないし、仮にどこかの社員募集に応募しても、採用されることはまずない。したがって、強い説得がないと、いつまでも職場にとどまることになる。その従業員の働きぶりに改善の見込みがないと管理者が判断したときは、パフォーマンスレビューが役に立つ。レビュー面接の場で、外に新しい機会を求めてもらうのが双方にとって幸せであるという、強いメッセージを送るとよいだろう。

パフォーマンスレビューを定期的かつ効果的に行うことは、IT管理者の重要な責務である。年に1回、形だけのレビューで事足れりとしてはならず、常に進行形のプロセスとして推し進めなければ効果的なパフォーマンスレビューにはならない。確かに時間がかかる作業だし、従業員と「正直に」向き合うことで、困難な話し合いになる事態も予想される。だが、どちらもレビューを避ける理由にはならないし、レビューの真似事でお茶を濁す理由にもならない。

部下と通じ合えないと悩んでいる管理者には、ぜひパフォーマンスレビューへの態度を再考することをお勧めしたい。レビュー作業を注意深く見つめ直し、どこに改善の余地があるかを探り出して、必要な修正を施してほしい。それが従業員のためであり、IT部門のためであり、組織全体のためでもある。