中国のLinux業界の病
2004年末にRed Hatが中国市場に参入したとき、アジアのディストリビューション・ベンダであるTurbolinux社のある役員はこう語った――「Red Hatが中国市場で成功を収めるのはそう簡単ではないだろう。そのためには『中国ルール』を理解する必要があるからだ」。「中国ルール」では、ソフトウェア企業は政治力、個人的人脈、および個人的利益を用いて成功を収めなければならないのだ。
中国では、ほとんどのLinux企業がそれぞれ独自に政府とのつながりを持っている。中国のLinux業界の象徴、Red Flag Softwareの株主はChinese Academy of Science(CAS:中国科学院)であり、Turbolinuxの親会社は上海当局を後ろ盾にしており、Sun Wah Linuxは江蘇省政府の支援を受けている。これらの企業がそれぞれの勢力範囲を握っているため、よそ者が入り込む隙はない。彼らはLinux市場で競争しようなどとは思っておらず、ひたすら中国ルールに力を傾け、政府からの「施し」を待っている。その一方で、政府をバックに持たない民間企業は、どんなにクリエイティブであっても、どんなに努力をしても、貧困から抜け出せないのが実情である。
この中国ルールは、国内企業保護のための施策ではない。「Microsoftはたいていの国内企業よりも中国ルールを熟知している」――ソフトウェアディーラーであるChen氏は、2004年12月にMicrosoftが四川省の政府調達プロジェクトを勝ち取った際にこう語った。「四川省はMicrosoftの縄張りだ。あの入札はただの茶番劇だよ」。
外国のソフトウェア企業がいくつか中国に進出してきているが、彼らは政府との間に新しく親密な関係を築くための力と資金を持っている。Microsoftは新たな関係構築に成功した。Novellも成功した。まもなくRed Hatも成功するだろう。国内企業は、そろそろ中国ルールのぬるま湯から目を覚まさないと、自社の勢力範囲をどんどん削り取られていくことだろう。Novellの勝利は悪夢の始まりにすぎないのだ。
しかし、中国のLinux企業に目覚めるつもりはないようだ。彼らは国内企業を保護するよう政府に要求している。中国政府は2年前に、中国の政府ソフトウェア市場から外国企業を締め出すことを定めたSoftware Government Procurement Regulation(SGPR:ソフトウェア政府調達規定)を成立させた。しかし、中国政府は今年7月のアメリカとの貿易交渉において、繊維やカラーテレビといった他の重要な産業に便宜を図ることと引き換えに、SGPRを凍結することを約束した。これにより、中国企業は引き続き外国企業と市場を競わなければならないことになった。
中国企業が試みたもう1つの対抗策は企業合併だ。8月には、中国のいくつかの大手Linux企業が、外国企業の攻勢に対抗するために合併の道を模索した。しかし、各社の背後にいる政府機関の目的がそれぞれ異なっていたために、交渉はすぐに決裂した。
だが、仮にこの合併話がまとまっていたとしても、あるいはSGPRが最終的に公布されていたとしても、このような中国ルールに基づく競争という慣習は、中国のLinux業界に決して良い結果をもたらさなかっただろう。
中国のLinux市場が成功を収めつつある今日では、政府は特定のLinux企業の支援をやめ、中国ルールによる市場操作を廃して、市場をすべてのLinux企業――特に、政府と何のつながりも持たない独創的な企業――へと公開するべきである。これが実現したならば、政府はLinux発展の第一段階において、国内企業に保護的ながら公平な市場競争をさせることができるだろう。そうでなければ、中国政府は過去数年間にわたるLinuxへの投資をすべて無駄にし、さらに悪くすれば、ソフトウェア業界の将来をも台無しにすることになるだろう。
「国内のLinux業界の将来については不安を感じている」――ある国内のLinux企業の役員は最近のインタビューでこう語った。この言葉は、中国のLinux業界の現状をよく表している。
中国政府はこれまで、政府調達や間接的な補助金などを通じてソフトウェア業界を支援してきた。このような方法は、未熟なLinux市場にとっては重要かもしれない。しかし今日では、そのような試みは業界にとって害になりつつある。
Chen Nan Yang — 中国のフリージャーナリスト。前職では地方政府の投資開発局のIT責任者を務める。
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