ITオンブズマンの意義
IT部門と社内ユーザとの間で生じる問題の多くでは、業務に関連する具体的な事柄のみならず、感情面も同じくらい大きな比重を占めている。感情的になると、各当事者は往々にしてかたくなな態度になりがちであり、解決への道を拒んでしまうことが多い。そして、問題の解決に向けた進展がないと、事態は悪化の一途をたどる。その結果、最初はささいな懸案だったはずなのに、次第に大問題へと膨らんでいってしまうおそれがあるのだ。
そして悲しいかな、問題から目をそむけるというのが、企業生活での処世術となってしまう。その結果、当事者すべてが、現状の範囲内で可能なことしかしないという取り組み方になる。それでは、グループ間の対立という根本的な問題を緩和するための策が一切講じられない。結果として、企業全体に損失が生じる。
そろそろ、IT部門と他部門との間の隔たりを埋めるための新しい方法を考えるべき時である。当然ながら、IT関連の作業では、すべてにおいて難題が付き物である。稼動スケジュールに間に合わせるための作業であろうと、既に稼動中のシステムに修正を加える作業であろうと、新しい技術の導入であろうと、複雑なビジネス・アプリケーションの開発や実装であろうと関係ない。リスクは常に高いのだ。
こうしたリスクが具体的問題として表面化し、社内のITユーザに問題や失望が生じると、怒りが高まってくる。ユーザたちは、IT部門が問題に対処できないものと解釈し、事態への対応でイライラし始める。一方、IT部門のスタッフたちは自己防衛的になる。打開に向けて一丸となって取り組まなければ、事態は収拾不能な方向へと進んでしまう。
ITには大きな費用がかけられ、技術や手法の変化は激しく、ITの機能に対する依存度は企業全体で高まっている。そんな中、もしITのパフォーマンスが低いとなれば、それが現実にせよ、仮定の話にせよ、受け入れられないのは明らかだ。IT部門と社内ユーザの間の関係を向上させることは、企業にとって(特にIT部門にとって)不可欠だ。
ITスタッフと社内ユーザの対立関係に対処する方法の1つが、中立的な第3者をITオンブズマンとして任命し、感情がくすぶっているユーザやITスタッフの不満や苦情を調査するというものだ。この方法がうまくいくかどうかは、以下のような条件が満たせるかどうかにかかっている。
- ITオンブズマンは、社内の人を任命する方法と社外から招く方法の両方が考えられるが、社外から招くのはあまりよい方法ではない。その理由は2つある。1つは、外部の人を招くためにかかる費用の問題だ。もう1つはもっと重要な問題で、オンブズマンの効果を最大限に高めるためには、その企業の文化を理解している人がよいということだ。企業にとって何が最適かを判断するときには、さまざまな部門間の関係や、企業内での業務の進め方の微妙な違いについて理解していると、ITスタッフと社内ユーザの間の問題に対処するうえで非常に大きなプラスになる。
- 社内の人をオンブズマンに任命する場合は、IT部門に直接関与しない部署から選出するようにする。オンブズマンのプロセスを成功させるためには、客観性が鍵となる。IT部門に対してひそかに反感を抱いている部署の人を選ぶと、客観性が怪しくなる。
- オンブズマンは、解決のために提示されたトピックについて検討するときに、常に広い心で臨むよう努める必要がある。すべての場合において目指すべきは、必ずしも公平や共感といったものではなく、会社にとって最もプラスとなるように行動するということだ。
- ITオンブズマンは、各トピックに関連するすべての主張に耳を傾け、それらの主張の詳細すべてを丹念に比較検討したうえで裁定を下せるようなスキルと忍耐力を備えている必要がある。
- オンブズマンは、いったん裁定を下したら、それを支援するよう努める必要がある。
- オンブズマンをうまく機能させるためには、オンブズマンが企業の上層部から全面的なサポートを得られる必要がある。
具体的取り組み
オンブズマンが真っ先に取り組むべきは、IT部門と社内ユーザの間のいさかいの調停をどのように進めるのか、プロセスを確立するということだ。このプロセスでは、調停に入るための規則の枠組みを示し、当該の問題についてどのような方法で裁定を下すかについてはっきりさせる。関係するすべての人が調停のプロセスを完全に理解することと、すべての対立が同じガイドラインにのっとって扱われることがきわめて重要である。
時には、オンブズマンの下した裁定に対し、その影響が及ぶ一部のグループ(場合によってはすべてのグループ)から、批判的な反応が生まれることがある。オンブズマンの裁定には拘束力があるという形にするのが一般的な規則だが、感情的なしこりが大きくて再検討が必要というケースが生じることもある。その場合は、裁定について企業の上層部に上訴できるようにしておく必要がある。オンブズマンの役割の妥当性を維持するためには、上訴は希なケースとなるようにすることが必要だ。上訴に関連する判断は、企業のCEOが行い、最終的な裁定を下す。再検討のプロセスは、きちんと管理および施行しておかないと、やがては、オンブズマンが下した裁定がすべて上訴されるようになり、プロセス自体が崩壊することになる。上訴のプロセスで企業の上層部の関与が必要な形にしておくことは、最初の裁定をひっくり返してやろうという気勢をそぐうえで効果がある。
IT部門と社内ユーザの間の問題の解決をITオンブズマンに任せるようにすると、両者の間の対立が緩和される可能性がある。ただ、この方法は本当にうまくいくのか、という疑問が沸き起こりがちなのは当然だ。これは、IT部門とユーザの関係にまつわる他の面と同様に、その会社の文化に左右される部分が大きい。会社の上層部も含め、関与する人たちが問題を認識し、その改善に向けて真摯に取り組めば、オンブズマンを利用する方法で成果が出せる。
逆に、各人が改善に向けて取り組むという気概に欠ける企業では、関与する人たちのめいめいの取り組みがうまくいかない理由がオンブズマンになすりつけられる可能性があり、オンブズマンの導入やサポートは失敗するおそれがある。だが、成功することに賭けてトライしてみるというのは、その結果としてIT部門と社内ユーザの関係が改善されるのであれば、やってみるだけの価値はある。
ITオンブズマンは万能薬ではない(ITには万能薬などない)。だが、ITオンブズマンがいれば、IT部門と、そのサービスを利用する部門との間の対立が和らいでいく可能性がある。そして、対立が和らげば、信頼関係やチームワークが次第に向上してくるはずだ。そうなれば、皆にとって満足のいく結果となる。
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