Web 2.0 2日目 ─ そしてWeb 1.0の美酒

サンフランシスコ ─ 昨晩はすっかり仕事をサボってしまった。「Microsoftとの語らい」と銘打った夕食会に行く代わりに、Web 2.0 Conferenceを数時間抜け出して、数ブロック先のバーで開かれたWeb 1.0 Summitに出かけたのだ。そこでは、みんなが1998年のふりをして、絶対儲かるドットコム・ビジネスのプランをお互いにプレゼンしていた。もっとも、Web 2.0に関する真面目な観察も得ることができた。

今日の午前中に(これを書いてるのは10月6日の木曜日)、「オープンソースはオープンでいられるか?」と題したディスカッションが、Web 2.0で開かれた。ゲストは、Tim O’Reilly(O’Reilly Media)、Mitchell Baker(Mozilla Foundation)、Jonathan Schwartz(Sun Microsystems)という顔ぶれだ。ディスカッションのハイライトは、この部屋でOpenOffice.orgを使っている人は手を挙げてくださいと言ったSchwartzが、数人しか手が挙がらないのを見てガッカリした瞬間だった。

このカンファレンスには、骨の髄までのFirefox派が800人いる。昨日、デフォルトで使ってるブラウザを100人に尋ねてみたら、58人がFirefox、28人がInternet Explorer、そして残りが他のブラウザを挙げた。”その他”カテゴリで一番多かったのは、CaminoとSafariだ。だが、このグループにはまだOpenOffice.orgの姿はない。ここでは、Microsoft Officeがだんとつでナンバーワンのオフィススイートである。

でも、怖がる必要はない。オープンソースはここでは安泰だ。たとえ大企業が、オープンソース・ソフトウェアを開発するために立ち上げられた小企業を次々とむさぼり食ったり、Webビジネスの基盤をオープンソースに置こうとも。

数時間後に、別のパネルでオープンモデルとクローズドモデルについて討論された。要点を箇条書きにしてみよう。

  • 高スキルの若い開発者が、オープンソースの実績を山ほどひっさげてYahoo!などの企業の門をくぐっている。実際、こういったオープンソースの手腕が、そもそも彼らを招き入れる理由だったことも少なくない。そしていったん入社するや、企業は学ぶのだ。興味を追い続けることを彼らに許すのが得策だと ─ 業務の一部として直接手がけるのであれ、業務時間外に会社の好意により手を染めるのであれ。
  • 成熟した企業に新しい才能を獲得することを主な狙いとして、オープンソースベースの新興企業が買収されることがある。新興企業を買収することで、若い才能と後で競争になることを事前に回避できることも多い。
  • ものごとをオープンにするということは、ベンチャー投資家や古い「顧客を囲い込め」の文化を歩いてきた人には最初は不思議に見えるが、長い目で見ると、Webベースのビジネスを展開するならオープンでやっていくことが良い結果になる。その場合でもビジネスの一部をプロプライエタリ・ソフトウェアで展開することはできるが、少なくともオープンなAPIを用意し、オープンな標準を使って、あれこれ囲い込まないようにする必要がある。顧客やサードパーティの開発者が製品を拡張できるようにすると、長い目で見て、より忠実な顧客ベースが形成され、開発者の生態系も大きくなる。

生態系! 生態系と言ったぞ、あの男!

これは、Web 2.0で一番多く耳にする専門用語の1つだろう。”コミュニティ”もよく使われる。昨日のWeb 2.0レポートでは、”マッシュアップ”について書いた。だが、生態系やマッシュアップ、中間業者排除(disintermediation)、タギング、RSSフィード、RSSフィードに基づく警告(Microsoftが一押しする)がザワザワと語られる中で、Barry Dillerは、ブログやコミュニティやビデオ検索ベンチャーがいくつ現れようが、Web生態系の大きな基盤となるコンテンツを供給できる才能は限られている、と指摘した。

Dillerの指摘について廊下で交わされた非公式の会話の中で、あるメジャーなヨーロッパのブログ・ホスティング・サービスのCEOは、彼の会社のサーバーで始められたブログの少なくとも80%はすぐに放置されると言った。広告売り上げはたっぷりあるが、さらに多くの ─ さらに一貫性のある ─ 広告が、ブロガーたちの目玉を引き付けるために必要だという。それに今や、Yahoo!からGoogle、さらに最近デビューした映像配信サイトBrightcoveにみんなが目移りしているので、ビデオコンテンツのクリエイターに作品の提供が声を限りに呼びかけられるという状況になり、才能のプールはさらに枯れつつある。

多分、文章をキーボードで入力したりビデオカメラを回したりする僕らのようなタイプの人間は、オンラインコンテンツの大海を漂うプランクトンとたいして変わらないのだろうが、僕らが食物連鎖の底辺にいないとブロガーがリンクを張れる記事は存在しないだろうし、検索や配信をするたびに目を奪う30秒の広告が最後にくっついてくるビデオなんかも存在しないだろう。Web 2.0のパネリストが言うには、その手の広告は、他の種類のWeb広告と比べてはるかに高い料金で売れるのだ。

専門用語に話を戻そう。そこらじゅうに溢れかえってるし、わざとらしく使ってるのも自分だけではない。また聞きでこんな逸話がある。昨晩の夕食会「Microsoftとの語らい」では、テーブルに付いた全員が一致して、耳にタコができた専門用語が飛び出すたびに感極まったように歓声を上げることにしたそうだ。「そうしたのはね、本当に中身のないプレゼンテーションだったからだよ」、その場にいた一人がそう言った。「退屈で死にそうだった。Web 1.0に行きたかったけど、会社の代表で出席したから帰るわけにいかない。Web 1.0でこんなに専門用語は出なかったと思うね」

Web 1.0 Summit

専門用語ひたすら感心氏(ここで匿名にする理由はいわずもがなだが)にはあいにくだが、Web 1.0は専門用語だらけだった。そりゃあもう、専門用語あってこそだったのだ。なにしろキャッチフレーズからして”Scaling Extensible Whatever with Blah Blah Blah Across the Enterprise(TM)”である。まさに僕の胸バッジに躍っているのがこの一節だ。なんでバッジが配布されたかというと、これなしではWebやインターネット関連のカンファレンスに参加できないからだ。

手に入ったのはWeb 1.0のプレス・バッジだけだった。なかなか誇らしいバッジである。たとえ自分で”PRESS”と手書きしないといけなかったとしても。だが、これはそういった類の集会だった。基本的に、企業が新規上場のために”肉体改造”したときに、特に何をやらせる当てもないのに大量の社員を新規雇用したおかげで何年もメシを食ってる、そんな人々の集まりなのだ。僕が袖を通したのは、古典的なEFFの”ブルドッグ”Tシャツだ。他の人を見ると、とっくに廃れたドットバブル期のTシャツやその時期のApple製品の拡販用Tシャツばかり。でっかい旧型の(もはや通話できない)携帯電話をベルトのホルスターに差すのが、最高にクールなアクセサリーだった。そうそう、ビジネス・プランのプレゼンもやっていた…     

…特に傑作なものは、このリンクで見ることができる。ここからWeb 1.0画像の巨大なギャラリーに飛ぶこともできるし、Web 1.0オーガナイザーMerlin Mannの少しばかり卑猥な(抱腹絶倒の)閉会の大言壮語をMPEG-4ビデオで鑑賞できる。

このイベントの見所は、狭い部屋にすし詰めになった趣味の悪い服の群集に向かって、大勢の人が各自2分間の持ち時間でビジネス・プランをプレゼンしたことだ。上のリンクから行けるCueCatのプレゼンを含め、どれもこれも1998年にふさわしい代物である(特にこれは忘れがたい)。Squirrel.comもそうだ。リス尽くしの(ひょっとするとリスだけを対象にした)このWebサイトには、見てわかるような収入モデルは全然ない。また、O’Reillyの関係者 ─ 本物の ─ は、ドットコム・ブーム時代のO’Reilly本をタダで配っていた。

企業が使いたがる専門用語を口にする者は、決まって笑い顔で、アルコールが入っていた。で、周囲からは拍手だ。つまり、笑い声、拍手、酔っ払いがたっぷりというわけである。しらふの集まりではなかった

だが、明日の大金持ちが早々とワインに酔いしれる姿は、あのドットコム・ブームの饗宴の一部ではなかっただろうか? もうじき豪邸とか外国製スポーツカーなどの成功の報酬が、この新しいメディアとそれを基盤とする終わりなきブームから手に入るという思いに、僕らみんながちょっとは酔わなかっただろうか?

誰もが若く(少なくとも今よりは)未来が無限に広がるかのように見えた時代に数時間ひたるのは、またとない経験だった。

この僕も、くだらない1998年タッチなビジネス・プランをプレゼンした。小さいWeb企業が、Midwesternカレッジの学生に人気の「コンピュータマニア向けニュース」Webサイトを買収し、新規上場するというプランだ。他のプレゼンテーションと同じぐらい笑いがとれた。

Web 2.0に戻る

それは古き良き時代だったが、一方でWeb 2.0には新しき良き時代がある。この時代にSquirrel.comはないかもしれないが、Dogster.comは本物の(しかも人気がある)Webサイトだ。今日、というのは木曜日だが、Mark Cubanが、RIAAとMPAA、そして加盟企業がDogsterの顧客を訴えた本当の理由を教えてくれた。

彼の指摘によると、この件に関与するのは10から12ほどの映画スタジオやレコード会社の経営陣で、そこに属する企業トップは、数百万ドルとスターの卵、リムジン、ありとあらゆる種類の享楽を手にしており、人生の最大の使命は株主のために利益を上げることでもなければ、アーチストを支援することでもファンを大切にすることでもなく、ただ楽な仕事を守り通すことなのだ。

さらにCubanが言うには、業績低迷の責任をなすり付けることができる悪役がいる限り ─ 悪質なインターネットの違法コピーが悪い、と言っていれば ─ 彼らがクビを切られることはない。収益減は私どもの失敗ではありません、いやいや、とんでもない。

The Future of Entertainment(エンターテイメントの未来)をディスカッションしたフェロー・パネリストのMichael Powellは、往々にして大企業には創作よりも訴訟の方が簡単なのだ、と発言した。会場からは、かなりの笑いが起きた。

3人目のパネリストReed Hastings(Netflix CEO)は、メールではなく夜間のダウンロードで映画を配信する事業にWebを利用しているが、映画スタジオにとってDVDソフトをライセンスする方がダウンロードをライセンスするよりも管理がしやすい、と指摘した。

だが、パネリスト全員が、4人目のパネリストEvan Williamsの意見には同意だった。彼は、Webベースのコンテンツ配信は存続し、映画スタジオやレコード会社の反発にも関わらず成長すると言った。彼らがやろうとしなくても、とまらないのだ。他の誰かが、飢えたインターネットの胃袋を満たすことになるだろう(あなたかも?)。

まだパーティーが!

今夜は、NewsGator主催のVIPパーティーがある。その後は、AT&Tのカクテル・レセプションがあって、それが終わったら、類は友を呼ぶセッションが、プログラムによると、”サンフランシスコのあちこちのレストラン”で開かれる。

明日の金曜日は、7:30の朝食でスタートだ。スポンサーはNewsGator。この日の最後に、Yahoo!がスポンサーとなったクロージング・レセプションがある。午後5時開始だから、たぶんそれに出席してるうちにフロリダへ帰る夜間の便に乗るのに空港に向かう時間になるだろう。

僕にとって懐の寂しくなるカンファレンスである。でも、ここに来るのに2800ドルも支払い、元をとろうと決意を固めた人にしてみれば、僕どころじゃなく懐が寂しくなるはずだ。間違いなく、大勢が。雇われた情報屋が、そこらじゅうをうろついてる。ベンチャー投資家が投資のチャンスを探しているし、血眼で投資家を探してる起業家もたくさんだ。誇大宣伝と専用用語のはざまで、検討や協議が盛んに進められ、新しい、面白いアイデアが提示されている。ビジネスが進行しているのだ。ここではビジネスが創出されている、と言ってもいいだろう。そのとおりだ。少なくとも若干のケースでは。

Web 1.0に出かけて1998年のドットコム狂騒を再現し、酔狂な日々のレトロな数時間を過ごしたのは楽しかったが、2005年のWeb 2.0がいろいろな意味でその時代の精神を失ってしまったわけではない。Webは今の姿を超える何か(Web 2.0 ─ とか?)になるだろうと大勢が考えているし、コミュニティをベースとするブロードバンド・マルチメディア・インターネットの実現によって、誰もが豪邸に住む大金持ちになれるわけではないとしても、僕らの多くが好きなことをしてまずまずの給料をもらう(あるいはもらい続ける)ことはできるだろう。

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