OSDLのCEOに聞く――レイオフ、Bitkeeper、SCO

今年の春に勃発したBitKeeper騒動でLinuxカーネルの開発は混乱したが、Open Source Development Labs(OSDL)のLinux開発者たちは、今、かつての勢いを取り戻しつつある。一方、OSDLは知的財産権問題と欧州への浸透に向けて梶を切り積極的に取り組むが、Linuxユーザーとプロバイダに対する今や「死に体」のSCO訴訟は静観する。OSDLのCEO、Stuart Cohenは、このように語った。

インタビューは、オレゴン州ビーヴァートンにあるOSDLのオフィスで行った。OSDLは、先月、全部門から9名をレイオフしたが、それは経営の健全化と新しい目標に向けた活動に必要なことだったと、Cohenはインタビューの中で説明した。OSDLは自らをベンダーに中立的なLinuxの守護者であると規定し、Linuxを生んだLinus Torvaldsとコア・カーネル開発者たちを擁している。このことからLinux開発者のレイオフはOSDLの使命に反するという意見もあろう。しかし、Cohenは、今回のレイオフは業務上必要だったと主張した。OSDLの業務は、ソフトウェア・コードだけではないというのである。

「Linuxの普及は、ただコードを開発するだけでは達成できません。ビジネスの問題があり、マーケットの問題があり、ITの問題があり、政府の問題があり、価格性能比の問題があります――コードを書く以外にもいろいろな問題があるのです。残念なことですが、OSDLの現状では一部の技術者に他所で働いてもらう他はなく、それが財政的に賢明な施策だったのです」

Cohenによれば、レイオフはOSDLの主要目標を変更した結果だという。2004年はISV活動・カーネル開発・SCO訴訟に絡む著作権問題・アジアへの浸透を主要な目標に据えたが、今年は著作権に代わって知的財産権(IP)を掲げる他、ライセンスの増殖問題・GPL 3.0・欧州への浸透を主要目標とすることにしたのだという。

さらに、今回のレイオフ――技術部門は「2人」だけで、ビジネスとマーケティング部門の方が影響が大きい――は、OSDLの経営の健全性を維持することも目的の一つだったという。

「こうした諸々のことのために、財政的な立場から必要なことをせざるを得ない状態になったのです。内部留保は十分、口座にも現金が豊富にあります。メンバーも売り上げも増えています。しかし、OSDLの収入はメンバー・クライアントに完全に頼っています――OSDLは非営利団体であると考えていますから、借金をして莫大な負債を抱えるようなことにはしたくありません。ですから、為すべき最善のことは何人かの方に辞めていただくことだと考えたのです。残念なことですが、減員は全部門に及ぶことになり、技術部門にも負担してもらいましたが、とりわけ営業とマーケティング部門には重いものになりました。注目を集めたのは技術部門でしたが」

gitでLinuxの開発を軌道に戻す

ここ数か月間OSDLを悩ませてきた論争は、レイオフだけではない。ソースコード・マネージャー(SCM)BitKeeperにまつわる軋轢もあった。この問題は、TorvaldsとSambaの作者「Tridge」ことAndrew Tridgellという2人のOSDLフェローを、Linux開発史上最大の衝突と思われる事態に巻き込んだ。この問題についてCohenは、gitツールでのパフォーマンスと生産性はBitKeeperを使っていた頃の水準になったと先月開催されたカーネル・サミットで開発者たちが報告したと述べた。

「すべてはMcVoyから始まります」と、CohenはBitKeeperの作者で創業者のLarry McVoyに言及した。「誰もが件の2人の開発者の問題と考えようとします。しかし、本当はMcVoyに始まるのです。McVoyはBitKeeperを開発する企業のCEOであり、その製品をTorvaldsやカーネル開発者の一部が使ったのです――使ったのは全員ではなく一部の開発者たちです」

Cohenによれば、開発者たちが「何年も何年も何年もの間、夢見てきたこと」があるという。開発者たちは、オープンソースの強力なSCMが登場し、オープンソース製品だけを使ってLinuxカーネルを開発するという夢を抱いてきたというのである。それ故に、事態は白熱し、動いているLinuxの開発にも数多の論争が降り注いだ。しかし、Cohenは、コミュニティにとって、この問題は今では過去のものになったと主張した。

「こうした状況から、オープンソース版SCMの開発が浮上しました。これにMcVoyが反応し、それが、Tridgellがオープンソース版SCMの開発に参加したくなる状況を作り出したのです。その結果、McVoyは自分のコードを商用に限定し、Torvaldsはご存じの通りgitを開発しました。現在、カーネルはgitで回っています。すべての人が以前の状態に戻ったと言いたいですね。Linuxカーネル・プロジェクトに関わる誰にとっても、イライラと生産性低下の数か月間でした」

「とても単純なことです。みんなとても熱心に作りたがった。そして、ご存じの通り『McVoyが動き、Tridgellが言い、Torvaldsが行った』のです。結局のところ、それがLinuxカーネルのSCMに起こったことのすべてです。LinuxカーネルはTorvaldsが動かしており、Torvaldsのプロジェクトです。Torvaldsは自分に使いやすいSCMを使っています。他のカーネル開発者たちも自分たちに使いやすいSCMを使っています。オープンソースを望む人もいますし、BitKeeperが商用であることを嫌う人もいます。それは、私たちの問題では全くありません。しかし、多くの発言があり、多くの電子メールが飛び交い、ご想像どおり、それは激しい感情が伴うものでした。巻き込まれたのは件の3人だけではなく、おそらく数十人――数百人ということはないでしょう――が持論を戦わせました」

Linuxを世界中に

Cohenによれば、Linuxとオープンソースを望む地域はさまざまあるが、OSDLにとって最大とも言える課題の一つは、課題と機会が地域ごとに異なることだという。米国では、Linuxの普及を促しているのは主として価格性能比だが、政府はLinuxに対して「曖昧な」態度を取っている。欧州では、政府および政府機関が政策にオープンソースを取り上げるなど積極的な役割を果たしており、さらに社会的・文化的団体からの支援もある。アジア、特に中国・インド・日本では、価格性能比という面だけでなく、経済発展の鍵としてオープンソースの開発に力を入れているという。

「彼らは経済発展への絶好の機会として見ています。ソフトウェアを開発する仕事が創出され、政府が一部出資し支援する企業でその国の人々がコードを開発します。ですから、その国の人々が使えるソフトウェアが生まれてきます」

開発途上の国や地域では、Linuxやオープンソース・ソフトウェアを使って、初めてコンピュータを持つ人のための、また教育用の安価な入門用プラットフォームを提供しているとも述べた。

OSDLはセンターを目指す

オープンソース・ソフトウェアがそれほどに良いものなら、OSDLのような団体がなぜ必要なのだろうか。Cohenは「Linuxとオープンソースの重心」――CohenがOSDLの舵を握ったときLinuxには重心がないと批判したMicrosoftのSteve Ballmerに対する意趣返し――という少し前に言われたOSDLの別名を引き合いに出して説明した。非営利団体の強味はその中立性にあり、巨大なLinuxベンダーが第2のMicrosoftになるという恐れを緩和できるというのである。

「オープンソース・コミュニティは協調活動がすべてです。そして、すべての協調活動には、背後で企業が糸を引いているという陰謀説がつきまといます。OSDLの果たすべき大きな役割の一つは、非営利でベンダーに中立的な団体が協調活動をとりまとめて――現場となり――陰謀説の払拭に多少とも役立てるということです。一方、大規模なベンダーはすべてUC BerkeleyまたはAT&TのUnixを採用し自社向けに改造して、大金を失いました。Sunを始めとして、HP、Intel、IBM、Mentor Graphics、富士通に至るまで、独自に手を加えたすべてのベンダーがオペレーティング・システムを開発して大金を失ったのです。しかし、今Linuxを採用し――かつてBerkeleyやAT&Tから得たように、今はインターネットとオープンソース・コミュニティから手に入ります――Linuxを共通に保ったまま活用すれば、そこから生まれるハードウェア、ソフトウェア、サービスの恩恵を受けられるでしょう。そして、OSDLのような団体の経費の一部を負担すれば、独自オペレーティング・システムの開発に大金を投入し、結局は捨ててその金を無駄にするのではなく、大いなる発展が待っているのです。ですから、大企業も私たちを必要としています」

さらに、政府機関も、オープンソースの利点をすべて享受するにはOSDLが必要だという。「オープンソース・コミュニティは開発者の集団です。しかし、政府機関は単にソフトウェアを開発するだけではない団体と取引したいはずです。ビジネスにはさまざまな問題が伴いますから、ビジネス・パートナーとの取引を望むのです。そういうビジネスをしてきたからです。ですから、理由はいろいろですが、EU、中国政府、日本政府、タイ政府、インドのグループにとって、非営利でベンダーに中立的な団体との協力が役に立つのです。彼らはパートナーを求め、オープンソース・コミュニティとの連携を探り、単一のベンダーに依存せずにさまざまなベンダーと協力したいと考えています」

Cohenは、Linuxの将来にはほとんど障害はないと考えている。Linuxベンダーとユーザーに対するSCO訴訟について、CohenはLinuxを広げるには持って来いの出来事と表現したことがあるが、この訴訟は今や「死に体」だと切り捨てた。

「この訴訟は死に体だと思います。裁判はもう少し迅速に動いて欲しいとは思いますが、実際的なあらゆる意味ですでに終わっています。IBM、Red Hat、Novell、AutoZone、Daimler-Chrysler、どこにでも聞いてみてください。みんな終わったと思っています」

原文