大企業が注目した小さなオープンソース・ウィンドウマネージャ

フリーランスのソフトウェア開発者Matthew Allum氏が、X11アプリケーションをハンドヘルドデバイスで効率的に実行するための軽量プログラム、Matchbox Window Managerを作成したのは、ただ”痒いところをかいた”だけだった。だが、これが非常によくできていたため、ハンドヘルドの世界の巨人の目にとまった。

2000年に、Compaq社が出したスクリーンショットでCompaq Ipaqがうまい具合にLinuxを実行しているのを見たAllum氏は、IpaqでLinuxを実行するという考えに夢中になった。早速Ipaqを一台購入してDebianをインストールしたが、Linuxベースのウィンドウマネージャの多くが240×320の小さな画面では役に立たないことを知った。不満に思って「xlibの本を買い」、2001年、Matchboxという50KBの非常に柔軟なウィンドウマネージャを作成した。これはxlibにしか依存していないので軽く、大量のリソースを消費することもなく、スモールデバイスで実行するのに適していた。

Matchboxでは開いているウィンドウが重なるように”スタック”され、タイトルバーのドロップダウンメニューを使ってそれぞれのウィンドウにアクセスできる。ユーザがウィンドウを移動したりサイズ変更したりできないという制限はあるが、画面スペースが極めて限られているスモールデバイスではとても機能的だ。

Allum氏は、いつもこのプロジェクトをhandhelds.orgで公開していた。そこの自分のページでプロジェクトを発表し、Linux on handheldsコミュニティでよく知られる人物になっていた。FOSDEM、Usenix、Pythonなどの大きなカンファレンスで何回か発言する立場にもなった。そこでは、Allum氏の言葉を借りれば「Xは遅いという幻想」を覆そうと努めた。

「2002年11月のある日、Matchboxについて尋ねる謎の電子メールが届きました」とAllum氏は話す。もう少しでDeleteキーを押すところだったという。「あまりに奇妙で唐突だったので最初は答えませんでした。オープンソースソフトウェアを作っている人のところには、ときどき変なメールが来るんです」

幸い、Allum氏はこの質問に答えて返信することにした。すぐにまたNokia.comのアドレスから返信が来た。「相手はLinuxで実験をしていて、Matchboxの仕事に資金を提供したいと言ってきたのです」Allum氏は驚いた。ホビープロジェクトだったMatchboxが、突如としてフルタイムの仕事に変わったのだ。もうフリーランスでいる必要はない。

Allum氏が会社を作ることが資金提供の条件の一つだったので、すぐにOpenedHandという新会社を作った。OpenedHand社の仕事は、Nokia社のウィンドウマネージャ制作を支援することだけだった。対象機器は、現在N770 Internet Tabletとして知られているものだ。Allum氏は喜んで仕事を進めた。「自分の会社を運営して、すばらしい人々とオープンソースの仕事をするのは、ずっとやりたかったことでした。Nokia社のおかげでそれが実現したのです」

Allum氏は最近になるまで、Nokia社がMatchboxで何をしようとしているのか具体的には知らなかった。「ただアイディアを出し合うだけじゃなく何かを作ろうとしているのがはっきりしたのは去年でした」とAllum氏は話す。Nokia社とAllum氏の関係は、Allum氏のウィンドウマネージャを超えるものになった。「私が新しいモジュールを提案できる段階にくると、Nokia社がそれにゴーサインを出すという具合です」Nokia社から十分な仕事を与えられたOpenedHand社は、いまや4人のフルタイム開発者を雇い、さらに人材を採用しようとしている。

Allum氏は、プロジェクトについて話す機会を得たことを喜んでいる。ヘルシンキのNokia社と一緒にプロジェクトに取り組んできた2年半の間、このプロジェクトは秘密のベールに包まれてきた。「たくさんの秘密保持契約を結んでいるんです」という。

Allum氏は、いまMatchboxの微調整と最適化を行っている。Matchboxがもう「Nokia社が必要とするレベルに達している」のにもかかわらずだ。また、Nokia社との新しいプロジェクトに取り掛かっているが、それがどういうものか詳しく話すことは許されていない。

ただ、Nokia社がコードをオープンにしようと力を注いでいることについては話せるという。「すべてオープンソースで公に入手できます」と話す。Matchboxのカスタム変更は、Nokia製品のみで使用できるようにはしておらず、もっと「汎用的」になっているという。「Nokia社がいかにオープンで、コミュニティにも還元しようとしているかは、会社の規模を考えると驚くほどです。コミュニティに参加して還元し、コミュニティの発展を支援したいとNokia社は真剣に考えています」

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