Debian:どこへ向かうべきか? 向かうべき進路

Debian sargeがついにリリースされた。で、次はどうする? そう尋ねられたら(尋ねられなくても答えるつもりだが)、私はこう答える。Debianの次期リリースでは、2つの重要な懸案を優先すべきだ。

1つ、明確なリリースサイクルを定めること。そうすれば、sargeで起こったことは繰り返されない。2つ、Debianから派生するファミリの数は増えているが、これらを共通のコア(つまりDebianそのもの)を中心として連合された状態に保つこと。Debianには危険が忍び寄っている。この2つの問題、現実にある問題と潜在的な問題を放置すれば、etchがリリースされる頃にはDebianは時代遅れになっているだろう。

Debianは、世界規模で利用されている3つのLinuxディストリビューション(他の2つはRed HatとNovell/SUSE)の1つである。マインドシェア、ユーザベース、その他のほとんどの点でDebianは有力な2番手であり、ほとんどの地域で(どうやらドイツ国内でさえ)SUSEを引き離し、Red Hatの後塵を拝するのも米国とおそらくその他の若干の(ただし大市場のある)国々に限られる。多くの場合、SUSEは商用分野で2番手であると思われているが、その原因は主に、本当の2番手とどう接すればよいのか業界がためらっているからだ。どうすればよいかわかるまで(ヒント:それを私たちが手伝うべきである)、業界はRed Hatへの操を保つために別の選択肢(なんだってかまわない)を必要とする。市場におけるSUSEの地位は強力とはいえず、またその事実は表面化しつつある。明らかに、これはDebianの可能性が非常に大きいことを示している。残念ながら、この可能性の大部分は未開発のままだ。

では、どうやって開発すればよいだろうか。手始めに、Debianをユニークな存在にしている特徴を見ていくことにしよう。

第一に(明らかな特徴だが)、Debianは非商用のコミュニティ・プロジェクトである。つまり、商業的な利害によって所有されたり、操られたりはしない。そのような特徴を備えたDebianは、Linuxを今日の姿にしたもの ─ オープン性、ベンダ中立性、コミュニティ ─ を体現している。私たちに初心を思い出させてくれる存在だ。業界を誠実に保つ存在である。あるいは、IBMとHPの首脳の言葉を借りれば、Debianは「Linuxコミュニティのコア」であり、ベンダからは中立の立場で「誰もがうまくやれるようにする(中略)調停者」である。確かに、そういった存在はDebianだけではない(要するに他にもコミュニティのディストリビューションはある。SlackwareやGentooが有名だ)。しかし、その知名度の高さも含めると、「非商用のコミュニティ・プロジェクト」というステータスは、Debianを一目置かれる勢力とするものだ。言い換えるなら、Debianは唯一のグローバル・プレーヤーでもなければ、唯一の非商用のコミュニティ・プロジェクトでもないが、その両方を兼ね備える唯一の存在なのである。

第二に、Debianはオペレーティングシステムというよりは、互換性のあるソフトウェアの集まりである(注:この互換性という言葉は後で重要な意味を持つ)。Red Hat、SUSE、その他のディストリビューションは、Debianと比べれば伝統的なオペレーティングシステムにはるかに近い。モノリシックであり、垂直方向に統合され、1つですべてをカバーするのが、こういったオペレーティングシステムだ。Debianは設計がモジュール構造なので(それは必然であり、そうでなかったら作業を多数の開発者に分配できない)、「付加価値」型のLinuxディストリビューションの基盤として最適である。そのようなディストリビューションは、ここ数年で無数に現れた。Corel、Stormix、ProgenyLinspire、Xandros、Knoppix、LinEx、Skolelinux、MEPISUbuntu、ざっと挙げてもこれだけある。実際、現在のディストリビューションの大半はDebianまたはRed Hatから派生したと断言してもいいぐらいだ。Red Hat派生物は、とっくの昔にたくさんの 異質 互換性のない 亜種に分かれているから、多くのディストリビューションの基盤であるというだけでなく、それらのディストリビューション間の互換性がいまだに維持されているという理由で、Debianは真に唯一無二のディストリビューションだと断言することもできる。

基盤ディストリビューションとしてのDebianの知名度は、テクノロジを超えて広がっている。多くの点で、DebianはLinux版の「グローバルに思考し、ローカルに行動する」を促進している。政府機関や非営利団体は、Debianを使うことにより、大手ベンダには対処の能力や専門知識、または関心がないローカルなニーズを満たすことを目指して、LinExやSkolelinuxのようなプロジェクトを発足できる。しかも、その活動は、より大きいグローバルなコミュニティとの関係を保ちながら進めることができるので、ローカルな取り組みが孤立化へと陥ることはない。Progeny、Linspire、Ubuntuのような企業は、オープンなグローバル・プラットフォームの威力と勢いに乗じ、その事業全体が依拠する基盤プラットフォームのベンダが撤退したり、さらに悪い場合にはライバル企業に買収されたりすることを心配せずに、革新的な新製品を市場に投入することに専念している。要するに、Debianのおかげで、あらゆる種類の組織が「巨人の肩の上に立つ」ことができるので、LinuxはDebianなしでは浸透できなかったと思われる地理学などの市場へと進出しつつある。Red HatやNovellが、スペインのエスレマドゥラ地方で株を買い占めることに興味を持つだろうか。そうは思えない。多くの地域と同様、Linuxはエスレマドゥラのすべてを変えつつある。

このような観察から、私たちの問題への解答に通じる道筋が見える。なによりもまず、業界がもっと簡単に私たちと接することができるようにする必要がある。つまり、新しいDebian stableを12〜18か月ごとにリリースできる、予測の可能なリリースサイクルが必要だ。これは、業界のニーズを真剣に受け止める必要があることも意味する。ひいては、Debianを支援したいが、その方法がわからないISV、IHV、OEMに手を差し伸べる必要もある。彼らは、私たちがグローバル・プレーヤーであるだけでなく非商用のコミュニティ・プロジェクトでもあるという理由から、私たちと手を組むことを望んでいる。この考えをDebian関係者に伝えると、ほとんどいつもこんな反応が返ってくる。「なんでここに<プロプライエタリ・アプリケーションの名前>が必要なんだ? もう<オープンソースの同等アプリケーションの名前>があるのに」。答えは単純。潜在的な多くのユーザがその製品を必要としているからだ(あるいは、少なくとも必要だと思っている。どうして必要なんだと問い詰めても仕方がない)。

幸いにして、単一のベンダ中立ISV/IHV/OEMインタフェースをLinuxの世界に与えることを使命とする活動が既にあり、業界の広い支持を受けている。そう、Linux Standards Base(LSB)のことだ。だから、私たちの道中は孤独ではない。私たちの義務は、もっと緊密にLSB陣営と協力して活動することである。そのことを直視しようではないか。これまでLSBとの付き合いが優先されてきたとは、とても言えない。これを改めて、Debianをベンダ中立のLSB実装にするためにLSBと協力しよう。リファレンス実装を現実のものとし、LSBに真のパンチ力を与えるマインドシェアとユーザベースが、Debianにはある。

第二に、Debianの最もユニークな財産であるDebian派生物の総合力を活用する必要がある。派生物は、1つ1つは有力なプレーヤーではない。だが、1つのグループにまとまれば、大手ディストリビューション(Red HatとNovell)との差は詰まる。そして、単独の企業では、たとえ数十億ドルを費やして垂直指向のソリューションを買い占めるか、世界数百箇所に拠点を展開したとしても到底手に入るとは思えないような多様性が、このグループにはある。

したがって、これらの派生物を強力かつグローバルな勢力に結合させ、一種の「ピアのネットワーク」方式を育成すれば、現在の主要な商用ベンダで使われる旧式の垂直型統合モデルの置き換えを促進できるチャンスがある。もちろん、このチャンスは、このようなローカルなコミュニティを結び付けるグローバルな縫い糸が強い場合にだけ成立できるものだ。そして、この糸が強いのは、互換性のある共通の基盤が存在する場合に限られる。リリースサイクルは、予測可能でなければならない。明確に作成されたロードマップを備えた互換性のある共通の基盤がなければ、派生物は必然的に各自ばらばらの方向へ進まざるをえない。それは、既に見られる事態である。Debianコミュニティとの協力を派生物の側に働きかけ、分裂が起こらないようにする必要がある。個人的には、Progenyに籍を置く身として、この働きかけに取り組もうと思っているし、他のDebian派生物のピアにもそうすることを期待している。

Ian Murdock founded Debian in 1993 and led the project from its inception to 1996. He is co-founder, chairman, and chief strategist of Progeny. This article was originally published on Ian’s blog and is reprinted here with his permission.

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