FSFLAの基礎作り

フリーソフトウェアを推奨する数人のグループがFSFLA(Free Software Foundation Latin America)創設の趣意書 を発表した。当の組織委員会は、FSFとFSF Europeの後援を受け、地域特有の問題に取り組むと共にFSFの他の支部と連携してフリーソフトウェアの振興・擁護活動を国際的に展開しようと考えている。

組織委員会が立ち上げられたのは2004年11月。以来、彼らはFSFLAの基礎を築くべく活動している。現在のところメンバーは6人である。全員、フリーソフトウェアの心得があり、社会問題や政治的な活動にも積極的に取り組んでいる。Federico HeinzとEnrique Chaparroの二人は、IT専門家としてアルゼンチン、ペルー、コロンビアでフリーソフトウェアに関する法案の策定に力を貸してきた。JuanJo Ciarlanteは、Linuxカーネル・コントリビュータとしてLinuxのIPエイリアスやIPマスカレードといった領域で活動している。Mario Bonillaは、UYLUG(Uruguay Linux Users Group)の創設者である。Projecto Software Livre Mulheres(Free Software Women Project)からも二人が参加している。その一人、Beatriz BusanicheはFundaci・ V・ Libreというフリーソフトウェア推奨グループで教育コーディネータとしても活動しており、Fernanda G. WidenはDebian開発者としてIBMのLinux Technology Centerに勤務している。

組織委員会を代表してFederico Heinzはこう述べている。組織委員会はFSFLAの目標を定めると共に理事会の役員を任命する予定だ。「数ヶ月のうちに中南米諸国からさらに多くの人々が参加して組織委員会の規模はもっと大きくなるだろう」と彼は言う。

組織委員会はFSF本部とFSF Europe(FSFE)の両方から支援を受けている。Georg C. F. Greve(FSF Europe会長)はこう説明する。

過去何年かの間に中南米諸国を繰り返し訪問し、関係者をヨーロッパに呼び寄せる手助けもしてきたので、彼らのために次のことができた ―― a)FSFEをスタートさせるとき得た知識や経験を伝える。b)FSFEの仕組みをじかに見せる。c)FSFEのビジョンや思想についてインスピレーションを与える。d)今後の協力を確実にするために個人的な関係を築く。

さらに、FSFEはFSFLAにメーリング・リストとWebスペースも提供している。

Richard Stallmanも同様のことを述べている。「私は個人的に彼らと活動しており、計画がうまくいきそうにないときや発言が誤って解釈されそうなときなど、折々に指摘をしている。」だが、彼はFSFLAの自主性を重んじることも忘れていない。「FSF自体はFSFLAの創設に直接関与していない。役に立てることが時々あったとしても、そうすべき理由はないからだ。」

地域特有の問題と国際的な問題

FSFLAの創設と時を同じくして、中南米諸国の政府、慈善施設、学術機関、大企業などでフリーソフトウェア導入の動きが加速している。

おそらく、ブラジルにそのよい例を見ることができる。ブラジル大統領Luiz Inacio Lula da Silvaは、フリーソフトウェアを公然と奨励している。政府のフリーソフトウェア振興機関であるITI(Information Technology Institute)の総裁、Sergio AmadeuはMicrosoftの訴訟に脅されてきたが、その一方でPC Conectado(ブラジルの低所得層のコンピュータ利用を促進する事業)ではフリーソフトウェアが使われるものと一般に期待されている。

こうしたフリーソフトウェアへの転換は日々顕著になりつつある。たとえば、ブラジル生まれのLucio Telesは、カナダのサイモンフレーザー大学教育学部の非常勤教授兼、Telestraining Globalの会長で、まもなくブラジリアのブラジル大学で教鞭を執る予定だが、前回(2004年)訪れたときからこちら、フリーソフトウェアの受け入れ状況に「大きな変化」が見られると言う。「当時は人々の話題にのぼるだけだったが、現在は実際に使われている。」たとえば、彼の専門であるeラーニングについて言えば、現在ブラジルではフリーの3つの学習管理システムが一般に使われていて、それらは競合するプロプライエタリ・システムの座を概ね奪っていると彼は指摘する。

ブラジルだけの話ではない。その他の中南米諸国もフリーソフトウェアの導入検討や展開に積極的である。アルゼンチン、チリ、コロンビア、ペルー、ベネズエラも近年、フリーソフトウェアの振興に関する法律や政府イニシアチブを制定、推進している。また、南米の多くの地方自治体も連邦政府の動きとは別にフリーソフトウェアを導入している。フリーソフトウェアは、政府の風通しを良くするのみならず、債務に追われて貧窮する中南米諸国が技術を伸ばす手段、国内のコンピュータ産業を振興する手段になるものと一般に考えられている。

FSFLAの組織委員会はフリーソフトウェアに関する活動の高まりを歓迎しているが、Heinzによれば、それはFSFLAの取り組むべき問題が増えることも意味すると言う。「導入に際し、フリーソフトウェアの困難な側面に困惑する人たちがまだいる」

この困惑は、ある意味、中南米諸国、少なくとも発展途上国に特有のものである。プロプライエタリ・ソフトウェアはたいてい北米かヨーロッパに本社を置く企業によって開発されるので、中南米諸国の市民はソフトウェアが自分たちも積極的役割を演じられる共有成果物の側面を持つとの考え方に慣れる必要がある。コンピュータとインターネット接続が平均所得を上回ることも加味すると、こうした理解は「中南米諸国がフリーソフトウェア・プロジェクトに関与する度合いはそれほど大きくない」というHeinzの意見につながる。

フリーソフトウェアに共通する世界的な問題もある。たとえば、Heinzいわく、フリーソフトウェアは「デジタル時代の自由と独立」を実現する手段というよりも、ライセンス料の支払いを免れる手段と一般に見られていると言う。フリーソフトウェアを擁護することを共産主義から新保守主義までのさまざまな政治的姿勢と混同する人たちも少なくない。

FSFLAの組織委員会は、中南米諸国の地域特有の問題に取り組もうと考えている。同時に、FSFLAはFSF EuropeやFSF Indiaなどの姉妹団体と協力を密にしてソフトウェアの自由を取り巻く国際的な問題も扱うつもりである。「まだ我々はFSFLAの活動計画を推敲している段階で、まもなく発表する予定だが、おそらく教育と普及がFSFLAの活動の大きな部分を占めることになるだろう」とHeinzは言う。

Heinzは、政府が支援するフリーソフトウェア・イニシアチブに力を貸すことに吝かでないが、「我々がそうした事業に積極的に参加するかどうかは、今のところまだよくわからない」と言う。

次の段階

現在のところ、FSFLAはまだ活動していないので、入会や寄付は受け付けていない。しかし、同組織に興味がある方は、info@fsfla.orgにメールするか、告知メーリング・リストに会員登録するとよい。

FSFLAの運転開始資金を寄付したいと考えている方は、donors@fsfla.orgにご連絡いただきたい。すべての寄付はFSFLAの最初の財務報告書に記入される。

FSFLAのタイムテーブルはまだ確定していないが、Heinzは2005年末までにNPO登録を済ませたいと考えている。しかし、組織委員会は登録先の国をまだ決めかねている。「基本的には、中南米諸国全体で活動するのにどの国の法律が有利か調べようとしている。FSFLAを性急に創設しようとは思わない。何ヶ月かじっくり時間をかけた方が、後で取り返しのつかないミスを犯すよりもましだ」

Bruce Byfieldはフリーランスの講座立案者・講師、専門雑誌記者。NewsForge、ITMJ、Linux.comの定期寄稿者でもある。

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