SugarCRMが短期間でオープンソースのリーダーに上り詰めた理由
4月30日に出荷開始となるSugar Suite 3.0には、キャンペーン管理、電子メール・マーケティング、文書管理、販売予測などの多彩な販売支援ツールが追加され、野外でのアクセスを可能にするワイヤレス・アクセスのオプション機能さえサポートされている。これらの新機能は、SugarCRMのコア・オープンソースSFA(Sales Force Automation)およびCRMプラットフォームの上に構築される。
Sugar Suite 3.0のリリース直前に、同社CEO/共同設立者John Robertsにインタビューした。
SugarCRMの最新のSugar Suite 3.0コンポーネントは、すべてオープンソースである。以下に、各コンポーネントの概要を説明する。
Sugar Suite 3.0内蔵のワイヤレス・アクセスは、RIM BlackberrysやPalm Treosなど、ブラウザが搭載されたモバイル・デバイスの全機種をサポートする。カスタマイズ可能なPDA中心のビューを使って、Sugar Suite情報(コンタクト、リード、オポチュニティ、アカウント、会議、通話など)を読み書きできる。
Sugar Suite 3.0は、4月30日に2つのエディションでリリースされる。Sugar Open Source Edition 3.0は、オープンソース・ソフトウェア・ライセンスの下にSourceForgeで入手可能である。
Sugar Pro 3.0は、標準商用ライセンスの下にSugarCRMのWebサイトで入手できる。ユーザー当たりのライセンス料金は年間$239(12か月間のアプリケーション・アップデート、インストール・サポート、トラブル・チケッティング、平日の電話/メールによる技術サポートを含む)。Sugar Proのホスト・バージョンであるSugar On-Demandは、月額$40で利用が可能。
Q:SugarCRMを設立した趣旨は?
Roberts:Sugar CRMの設立は2003年です。アイデアは単純でした。単に、強力かつ有用なエンタープライズ品質のオープンソース・アプリケーションを構築できるほどの実力がその時点のオープンソースにあるかどうか、それを知りたかったのです。私を含む設立メンバーは商用ソフトウェアの世界の出身です。商用アプリケーション、特にCRMについて見回したところ、もっと多くの人を受け入れられるアプリケーションを開発できると思ったのです。そこで退職して、しばらく自宅で開発を進めたものが、昨年の夏に[SugarCRM]バージョン1として出来上がったわけです。
Q:SugarCRMは最初からオープンソース・ベンチャーだったのですか?
Roberts:ええ。バージョン1.0が完成する前から、SugarCRMをオープンソース製品と位置付けてました。このプロジェクトは、SourceForge上のオープンソース・プロジェクトとして発足したものです。ソフトウェアがダウンロードされて、気に入ってもらえることを期待したのです。で、しばらくすると気に入ってもらえたようで、ダウンロードの数が恐ろしく急増しました。このとき、わかったことが2つあります。もうパートタイムのプロジェクトではない、ということが1つ。もう1つは、商用のオープンソース・プロジェクトでやっていけるだろう、ということです。
Q:現在はベンチャー・キャピタル(VC)資金を得たオープンソース・プロジェクトですね。去年のVCコミュニティに売り込むのは簡単だったのですか?
Roberts:愉快でしたよ。ある意味では簡単で、しかし簡単ではなかったのですから。VCを回ると、決まってこう言われるんです。「商用オープンソース・アプリケーションの会社なんて他にありますか?」って。そんなものはありませんでした。VCが関心を持つオープンソースは、アプリケーション会社ではなかったのです。関心が向けられるのはデータベース(MySQL)とか言語(PHP)、オペレーティングシステム(Linux)であり、既成の商用アプリケーションではありません。
Q:でも、資金を調達できた。どうしてですか?
Roberts:ダウンロード件数が本当に多かったんですよ。そのおかげで初期投資の200万ドルが得られました。従業員数を10人に増やすことができたんです。
Q:SugarCRMのことを「商用オープンソース」企業と呼んでますが、具体的にはどういうことですか? 二重ライセンス・モデルを採用するZend(PHP)、MySQL、JBossのような他の有名なオープンソース企業のアプローチと似ているのでしょうか?
Roberts:一番近いのはMySQLのモデルですが、弊社のモデルはかなり独特です。Sugar Suiteはオープンソースで、Sugar/Mozillaパブリック・ライセンスの下にライセンス供与されます。多くの企業が使うGPLライセンスとは違います(ライセンスの名前を変更するように要望されたので、現在の名前にしました)。
リリース・サイクルの80%は、コアSugar Suiteリリースのために新しいオープンソース・ソフトウェアを書く作業に費やしています。SugarCRM Pro商用バージョンに取り組んでいる時間は、約10%足らずです。つまり、オープンソースを実験の場として、プレゼンテーションやデータベース、コアCRM機能への異種機能の統合に新しいアイデアを盛り込もうと常に取り組んでいます。ですから、オープンソースを使用するだけではなくて、オープンソースの作成もしています。
Q:では、SugarCRMコードの「所有者」なのですか? そうなら、どうやってオープンソースとして一般にリリースするのですか?
Roberts:コードに関しては、完全な著作権を保持しています。それから、オープンソースの寄与を受け付ける場合はApacheの合意条件も使います。この決定は初期に下したものです。理由の多くは、弊社より規模の大きい企業から「商用オープンソース」というアイデアは気に入ったと言われたからです。なぜなら、サポートが必要な場合に、全世界の開発者の「コミュニティ」と専門のサポート・チームの両方からサポートを得られるからです。
Q:投資の価値があるとVCが認めたのは、ダウンロードの多さを評価したからですね。その時点でのダウンロード件数は?
Roberts:10万件です。サイトに行って、マウスを押すだけで弊社のソフトウェアは入手できます。自分が誰なのかを伝える必要はありません。インストールするだけです。ダウンロード時に登録の画面は出ますが、[Skip] という大きなボタンもあります。実際、約30%の人は登録情報を記入しますが、必須ではありません。
Q:身元を明らかにしないでダウンロードできることに、VCは戸惑いませんでしたか?
Roberts:ええ、少しね(笑)。でも、「最高のソフトウェアが勝つ」と言いたいです。Proという名の有償バージョンもあり、これは販売してます。でも、そのバージョンについても完全なソースコードは弊社のものです。つまり、これは市場に出る手段であり、顧客に安心のレベルを提供する手段なのです。ですが、優れた製品がなければ、オープンソースにしてもしなくても、たいした意味はありません。顧客や、ダウンロードした人は誰でもソースコードを利用できます。一部の商用企業がコードに追加するプロプライエタリのAPIや「ブラックボックス」、その他の障害物に邪魔されることはないのです。
Q:その点についてですが、(CRMを他のアプリケーションやデータベースと連携しやすくする目的で)APIにアクセスすることは、ソースコードにアクセスすることと同じぐらい顧客にとって重要とお考えですか?
Roberts:良い質問ですね。アプリケーションのレベルでは、APIはとても重要です。実際、見たところほとんどのエンタープライズ・レベルのアプリケーションの歴史は、CRMを含めて、顧客をベンダのAPIリリース・モデルに依存させることに熱心です。一部[のベンダ]は、高額のサポート契約やコンサルタント契約を結んだ場合にだけAPIを提供します。多くのAPIを利用できるようにするベンダもありますが、その扱いは簡単ではありません。ですから、おっしゃるとおり、販売組織がAPIをどう使うかで、顧客がCRMアプリケーションを簡単に低コストで社内の他のデータに統合できるかが制限されます。
Q:オープンソース・バージョンから”Pro”プロフェッショナル・バージョンへはどうやって移行させるのですか? アップセルを働きかけるのですか?
Roberts:オープンソース・バージョンを試し、もっと多くを望む顧客には、電子メールで合意書を送信します。署名と合意する旨が返信されたら、Proバージョンのコードを提供します。Siebelみたいに販売担当者を行かせて接待するとか、PowerPointスライドを見せるとかはしません。弊社のWebサイトにはフォーラムがあるので、製品の利用状況を調べ、さまざまな機能を評価できます。現在、100社の{Pro}顧客がいますが、顧客先を訪れたことは一度もありません。ソフトウェア自体が語ってくれますよ。規模の大きい他社より料金を15%低くできるのは、そのおかげです。
Q:「商用」Sugar CRMを利用するのは、どういった企業ですか?
Roberts:Proの販売は2004年秋に始めたので、まだ1年になりません。初期の顧客は(予想できるでしょうが)技術系の企業で、Linux販売店やソフトウェア、インターネットに関連する企業です。しかし、たくさんの製造業や、シリコン・バレーで「ローテク」と呼ばれるような企業からも関心が寄せられています。こういった企業がSugar Suiteを評価する理由は、多くの機能があらかじめ組み込まれているが、社内のITスタッフがあらゆる種類のフロント・オフィス・アプリケーションを使ってそういった機能を簡単にカスタマイズできることです。また、ソフトウェアを低コストのLinuxサーバでローカルに実行できることもメリットです。
Q:SugarCRMは、現在も小企業です。万が一会社が存続しなくなった場合、顧客はどうなるでしょうか?
Roberts:そこがオープンソースの本当の美点の1つですよ。現在、Sugar CRMはSugarCRMプロジェクトをSourceForgeで活動させています。もし会社が明日なくなったとしても、コードは残ります。
Vance McCarthyは、この記事が最初に掲載されたOpen Enterprise Trends(http://www.oetrends.com)の編集者であり、ITMJのレギュラー寄稿者である。この記事は、特別な協約により転載した。
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