Jiveサーバのオープンソース化とJabber

今年4月、AOLがICQインスタント・メッセージングのAPIを公開したときは、偽りのオープンソース化だという批判が噴出した。しかし、Jabberオープンソースの開発者によれば、Jiveによる最新のIMコードの提供は決してでたらめではないようだ。

オレゴン州ポートランドを拠点とする、IMおよびプレゼンス・ソフトウェアのベンダJive SoftwareのCEO、David Hershは、Jiveの開発に多大な貢献をしたオープンソースの活動を常に支持してきたという。JiveのMessenger serverは、2002年に発表されて以来商用の製品であったが、XMPP互換であり、その拡張性と安定性には定評がある。Jiveはさらに、Smack XMPPクライアント・ライブラリを、Apacheライセンスの下、オープンソースとして公開している。

開発コミュニティに役立つサーバ

HershはNewsForgeへの電子メールで、「エンタープライズIM市場はターゲットにせず、Webサイトからの顧客への実際の販売とサポートの提供に注力する、という方針を固めた時点で、財政面からはサーバは重要でないことが明らかになったが、開発コミュニティによって活用できる可能性があるほか、XMPP標準の普及にも貢献できると考えた」と語っている。

Hershによれば、Jiveは現行の方針においてもXMPPを中核に据えており、このプロトコルを利用するJive Messengerと、JiveのオープンソースXMPPクライアントの2つが、Jiveの今後の製品の基礎を築くことになる。

IETFからRFCのお墨付きを得たXMPP

Jabber Software Foundationと開発者のコミュニティが採用したXMPPインスタント・メッセージング/プレゼンス・プロトコルは、今週、IETFにより、一連の標準RFCとして承認された。これは現在オンラインで公開されている。

今週公開された仕様は、RFC3920(Jabberアプリケーションの基礎となるコアXMLストリーミング・テクノロジ)、RFC3921(友達リストやホワイトリスト、ブラックリストなど、IM/プレゼンスの基本的な拡張機能の概説)、RFC 3922(XMPPと、IETFによるIM/プレゼンスの抽象シンタックスとの対応付け)、RFC 3923(相互運用可能なエンドツーエンド・セキュリティの機能拡張)だ。

Jabberは電子メールでの声明で、この仕様化について「利用しているシステムベンダにかかわらず、高度なプレゼンスベースのアプリケーションの構築を市場に促す朗報だ」と賞賛した。標準は、パートナーや顧客などとの間の相互運用性とオープンさを推進するという。

Jabber Software Foundationの専務理事であり、XMPPのエディタでもあるPeter Saint-Andreは、これらのRFCは、1999年以来「いくつかの小さなオープンソース・プロジェクト」から「Apple、HP、Oracle、Sunなどの企業、数百のオープンソース、シェアウェア、商用製品、そして何万もの実装を巻き込んだ世界規模の現象にまで発展」したJabberの成長における大きな一歩だとNewsForgeに語った。

「Jabberの核となっているプロトコルがIETF RFCとして形式化されたことで、より広い普及が見込める。特に、政府機関や金融機関などの警戒心の強い団体に対してアピールできるだろう」とSaint-Andreは言う。

彼によれば、XMPPのより広い普及のためには、2つの大きな課題を克服しなければならないという。1つ目は、既存のコードベースをXMPP RFC準拠としてアップグレードしなければならないという点だ。

「この作業は、オープンソース、シェアウェア、商用の各開発団体、そしてプロジェクトや企業の間で、かなり前から進められている」とSaint-Andreは言う。「JSFは、アップグレード、そして相互運用性実現という目標を推進するために、XMPPの仕様と、JSFが定義するさまざまなXMPP拡張機能に完全に準拠しているソフトウェアを認定するための準拠性テストを実施する予定だ」

2つ目は、XMPPベースのリアルタイム・メッセージングとプレゼンス・サービスを幅広いアプリケーションに統合することだ。

Saint-Andreが挙げた例には、ジャストインタイムのRSS/Atomフィード、WebDAVおよびバージョン管理の通知、アプリケーション間のシングルサインオン、グループウェアの警告、プレゼンス機能を搭載したアドレス帳、プレゼンス情報を基にしたワークフロー・システム内でのスマート・メッセージ・ルーティング、そしてWeb会議およびマルチメディア・ストリームへのJabber機能の統合などがある。

「いずれの分野も、すでに実現に向けて動き出している。完成は時間の問題だと思う」とSaint-Andreは語っている。

似たようなオープンソースの方針が「abandonware(掛け声倒れ)」の憂き目に遭っている一方で、JiveはオープンソースとJabber開発者のコミュニティと共に歴史を刻んできた。

「Jabberコミュニティとは、メッセンジャーの誕生当時から協力関係にある。Jabberd以外にオープンソースのサーバがもう1つ利用可能になることは、彼らにとってうれしいニュースのはずだ」とHershは言う。「現在のところ、非常に好意的な反応が得られている。フォーラムには『本当かい?』や『すばらしい!』というコメントが寄せられているし、コードを送信するための登録をすでに済ませた人たちもいる。高品質なクライアント・ライブラリとサーバがたっぷり利用できるのは思いもよらない朗報だったに違いない」

彼によれば、Smackをオープンソース化したり、メッセンジャーをGPLでライセンスしたりするのは、XMPP標準の普及のためだという。

「われわれのビジネスは、大きなパズルのほんの一部を扱うものだが、大規模なコミュニティの中にも、標準IMのサーバやアプリケーションにXMPPを搭載するところが出てくることを望んでいる。全体的な普及率が上がれば、われわれのビジネスも成長できる」とHershは言う。

Jiveは、開発者の大規模なコミュニティでの利用や何百もの実装、そしてIETFによる承認などの実績を見れば、XMPPがIMの最も強力で実用的な標準であることは疑いがない、と考えている。

Hershは、XMPPのライバルであるSIP/SIMPLEについて「現時点で、XMPPほど発展していないし、実績も不明だ。しかし、VoIPトランザクションの管理が優れているために普及してきている。われわれは、いくつもプロトコルからいずれか1つを選ぶのではなく、プロトコル間に堅固なゲートウェイが確立されると予想している」と述べた。

Radicati GroupのアナリストGenelle Hungによると、Jiveは現在市場でよい立場にあるが、オーナーであるAOLのおかげもあり現在約1.5億人のユーザを持つICQのようなプロプライエタリIM製品およびプロバイダに比べると、まだ市場シェアは少ないという。

それでも、XMPP標準がSIPやSIMPLEなどのその他のプロトコルを淘汰し、拡大するこの市場でJiveが優位に立てる可能性はあるとHungは言う。

最終的な標準は市場が決める

Hungは、「どの標準が勝つかはまだ判断できない。市場はいま、どれが優れているかを見極めているところだ。これは実際に市場でテストされる必要がある。そして、いま人々がオープンソースの勢いに乗っていることが正解だったと思える結果にならなければならない」

Hungは、オープンソースは現在、IM、プレゼンス、そして企業内コミュニケーション・ソフトウェアの市場でますます大きな役割を果たすようになっていると言う。これは、プロプライエタリに比べて議論が活発で、かつ、わかりやすく使いやすいアプリケーションの実現を邪魔する意見がずっと少ないことによる。

「オープンソースが普及しているのはこのためだ」とHungは言う。「開発して、テストして、どれだけ使えるか見てみようという姿勢で受け入れられている」

Hungは、より大きなIMコミュニティから「black sheep(厄介者)」扱いされてもなお団結力の強い開発コミュニティに言及し、JiveがJabberとXMPPと共にオープンソース化されたことを高く評価している。

Hungは、「彼らは何を言われても、『OK、その意見が間違っていることを今から証明してみせますよ』と言える自信がある」と言う。

しかし、JabberとXMPPコミュニティの強力なサポートがあるにもかかわらず、この標準と、Jiveメッセンジャーのオープンソース化が成功する保証はどこにもなく、他の有力IMをこれから納得させていく必要もあるとHungは付け加えた。

Jabber Software Foundationの専務理事Peter Saint-Andreは、Jive Messengerは、オープンソースで公開された、初めての安定版クロスプラットフォームXMPPサーバであることから、少なくとも短期間では、開発者よりもシステム管理者にとってより魅力的だと考えている。既存のオープンソース・サーバは、Unix用に最適化されているとSaint-Andreは説明する。

「Windowsを採用している機関でも、簡単に実装できるJabber/XMPPサーバーを無料で利用できる。これにより、市場はかなり拡大するはずだ」

彼はさらに、Jiveがフォーチュン1000企業向けの顧客サポートとナレッジ・マネジメント・システムに力を入れていることから、これらの企業がIMサーバをオープンソースにするのは当然のことだと述べている。

「彼らのXMPPソフトウェアは中核技術ではないので、そのコードのオープンソース化は当然のことであり、Eric Raymondが『The Cathedral and the Bazaar』の中で説いた経済モデルにも一致する」とSaint-Andreは言う。

Jiveのオープンソース化と、今年始めのAOLのオープンソース化を比較すると、AOLは半オープン、つまり、クライアントサイドのAPIとICQ IMサービスだけを公開し、完全なリアルタイムのメッセージング・サーバはオープンにしていないとSaint-Andreは言う。

見た目はいいが、力不足のICQ API

「ICQ APIは、外観は充実しているが、長い目で見るとコードが力不足だ」とSaint-Andreは言う。「特に大企業は、ICQのぱっと見の華やかさに魅力を感じることはなく、IETFが認めたメッセージングとプレゼンスのテクノロジに堅固なJavaコードが登場するのを待つだろう」

彼によれば、開発者たちはすでに、Messengerのコードベースの「解明」に乗り出している。開発者たちの協力が得られるようになると、より多くのJabber/XMPPプロトコルやサポートが登場して、サーバ対サーバ通信などの欠けている機能が実現されるはずだという。

「また、ピュアJavaであることで、より広範囲の開発者の協力が得られ、Javaコミュニティでの注目度も上がる」とSaint-Andreは付け加える。「今週の話だが、Eclipse projectの参加者たちが、XMPPサポートのIDEへの統合について話し合っていた」

Saint-Andreは、メッセージやプレゼンスをリアルタイムで送信するストリーミングXMLテクノロジとしてXMPPを定義した上で、この標準が、金融取引システム、ネットワーク管理ソフトウェア、分散ゲームプラットフォームなどの構築と実装にすでに使われていると述べた。

彼は「分野はIMにとどまらない。リアルタイム・インターネットすべてが対象だ」と延べ、また、IETFが近々Jabber/XMPP RFCを公開すると付け加えた。

また彼は、Apple、HP、Oracle、そしてSunなど、XMPPベースのソフトウェアを現在開発または統合している企業の名を挙げ、水面下ではさらに多くの動きがあると示唆する。

「ひそかにXMPPプロジェクトを進めている団体はこれよりもはるかに多いはずだ。Javaで書かれた完全オープンソースのXMPPサーバの存在によって、他の企業もXMPPコードをオープンソース化することは十分考えられ、Jabber/XMPPテクノロジの勢いも加速するに違いない」