MozillaとWebの未来

Netscapeが自社の代表的ソフトウェアNetscape Communicatorスイートをオープンソース化し、そのプロジェクトをMozillaと名付けたのは、1998年のことだった。それ以降もこのソフトウェアの開発は続き、今ではモダンで柔軟なアプリケーションスイートになった。Mozillaブラウザ、電子メールクライアント、チャットクライアント、Webページ作成ツール、さらには、単体のWebブラウザFirefoxと電子メールクライアントThunderbirdも含まれている。Mozillaとその目指す方向について、Mozilla Foundationの技術ディレクタChris Hofmannに話を聞いた。

Hofmannは、このところ、Mozillaが取り組んでいる短期リリースに忙殺されている。「今までは、昨年リリースしたMozilla 1.4から移行しやすい安定リリースMozilla 1.7の提供が最優先だった。これが済んだので、現時点での優先事項は、FirefoxとThunderbird 1.0を夏が終わるまでにリリースすることだ。仕事は山ほどある。0.9のフィードバックを見ること、技術部隊は最後の仕上げとバグ修正、マーケティング用の製品情報を揃え、サポートプランを練り、多くの国際翻訳版パッケージを作らなければならない。他にも仕事は山積みになっている」

「Mozillaのアーキテクチャと技術的な方向性についてはBrendan Eichが見ているが、Mozillaのすべてのテクノロジーを2.0に移行する素晴らしい総合計画をまとめてくれた。彼は、Mozillazineにブログを書いていて、業界全体にわたってトップクラスの人々から多数のフィードバックを集めている。Brendanが投稿した最新の記事Mozilla 2.0 platform must-havesとMozilla 2.0 Virtual machine goalsを見れば、レベルの高いテクノロジープランニングと綿密な調査が行われていることがわかるだろう」

ブラウザを超えて

Mozillaプロジェクトが創り出したテクノロジーの一つに、XUL(XMLユーザインタフェース言語)がある。元々、Mozillaのクロスプラットフォームスイートを保守するために開発されたものだ。しかし、その種のテクノロジーの例に洩れず、XULもオープンソースプロジェクトの典型的な変遷を辿ってきた。まず必要があってコードが書かれ、拡張され、改良されていくという過程だ。

XULテクノロジーの大部分は確かに機能する。しかし、注目すべき例はわずかにあるものの(Mozilla Amazon Browserなど)、これを除けば実質的なXULアプリケーションはなく、このテクノロジーは離陸に手間取っているようだ。XULの仕組みと、他のテクノロジーやソフトウェアとのやり取りの仕方に限界があるというユーザもいる。しかし、Hofmannは次のように言う。「Mozilla 2.0仮想マシンの目標を実現する道があるのなら、大幅な柔軟性を開発者に提供し、使い慣れたプログラミング言語を使って興味深い先進のアプリケーションを作ることができるようにすべきだし、多様なアプリケーションを製作する際に必要となることについても対応すべきだ」

安全なWebに

MozillaチームがMozilla 2.0仮想マシンの実現に取り組み、XULやXPCOMなどのテクノロジーを創出する一方、Mozillaのコンポーネントシステムのセキュリティが現実の問題として浮上した。MicrosoftのActiveXが抱えるセキュリティ欠陥はスイスチーズの穴よりも多い。Mozillaは、その同じ誤りを犯したくないのだ。Hofmannは、安全かつ閉じられた環境で動作するものを作り得ると確信している。「セキュリティを高く保とうと思うなら、良いアーキテクチャと堅牢な信頼モデル、そしてサンドボックスが必要だ。また、トレードオフに対しては安全側に寄ろうと考えるような開発組織も必要だ。Mozillaプロジェクトは、確かにそのような文化を育ててきたと思っている」

フリーソースやオープンソースの戦士たちは大抵そうなのだが、このプロジェクトを支えるコミュニティも、セキュリティが破られたり、誰かの自由が制限されたりする虞があれば、すぐさま武器を持って立ち上がるだろう。これは、オープン開発モデルの偉大な力の一つである。

「Microsoftは、ActiveXを使ってソフトウェアのインストールをできるだけ容易にしようとした。そして、セキュリティを犠牲にしたのだ」とHofmannは言う。「今、我々はActiveXが作り出した混乱の中にいるが、その混乱からユーザを救出するための緊急対策を配る小さな動きもある。あらかじめ強固なセキュリティレベルを設定すること、ユーザにソフトウェアインストールの危険性を伝えること。これがインターネットユーザのセキュリティを改善するために大いに役立つと考えている」

Microsoftはセキュリティ問題に手を焼いているが、この状況はMozillaにとっては有利に働く。Internet Explorerのスパイウェアやセキュリティ問題を嫌って、MozillaやFirefoxに乗り換える人々が後を絶たないのだ。だが、Microsoftは何も対策を講じない。「ユーザの流出を食い止めることのできる自前のソリューションが準備できるまで、Microsoftは、開発者にActiveXを使わないよう大々的な警告キャンペーンをするつもりはないようだ。おそらく、そのソリューションはLonghornと共に登場することになるのだろう。私がWebサイトやIT部門を運営しているなら、自主的にActiveXから移行する計画を立てるだろうね。そして、できる限り速やかに実行するだろう」とHofmannは言う。

しかし、Hofmannは、あくまでも度量が広い。「コラボレーションの余地は常にある。しかし、Microsoftはその方向には向いていないように思える」。その可能性は大きくはないようだし、W3C(World Wide Web Consortium)だけがWebの標準化機関である。「コラボレーションするとすれば、おそらく、オープンスタンダードを通じてだろう」

未来へ

Mozillaプロジェクトは、興味深くも手強い未来に向かっている。フレームワークとしてのMozillaの開発、Webアプリケーションの連携や可用性の強化、ブラウザとしてのMozillaの持続的開発など、開発者の意欲を掻き立てるような革新の成果が、開発担当者の努力の末に世に出ようとしている。Mozillaチームは、ブラウザを開発しているOperaやW3Cに協力を仰ぎ、オープンスタンダードによる開かれた基盤の上に新たなWebテクノロジーを持続的に開発していくことを前提として、ブラウザのテクノロジーと機能性を向上させるつもりのようだ。

XUL、XPCOMなどのテクノロジーが開発者を沸き立たせる一方、Mozillaが持つ興味深い側面の一つは、普通のインターネットユーザに受け入れられてきたことである。多くの人々にとって、MozillaはIEにはなかった機能を提供してくれるものであり、安定性、安全性、効率性を有するパッケージなのである。

Mozillaの機能と安定性に対する信頼の現れは、英Speedy Hireに見ることができる。同社のデスクトップマシン550台にMozillaが配備されたのだ。Speedyのソリューションを作り上げたMark Johnsonは、この選択に自信を持っている。「LinuxのデスクトップにMozillaを導入することにした理由はいろいろある。我々の中でMozillaをLinuxベースのブラウザの『第一選択肢』と位置づけたことで、長期にわたるサポートが得られるという安心感が生まれた。HTMLの解釈がW3Cに準拠しているのも魅力だったし、Mozillaのインタフェースは非常に使いやすく簡単で、管理者がマルチユーザのインストールを簡単に構成することができる。この3つの要因に加え、よく知られたブラウザプラットフォームであることから、Mozillaを選んだのだ」

こうした実社会との関わりを今後も優先し、さらにテクノロジーや駆け引きによる空中分解を回避することが、Mozillaが今後も成長を続けていくための条件である。

Hofmannのようにメンバーの一人ひとりがMozillaを向上させるべく奮闘しているのはもちろんだが、このソフトウェアの最も価値ある資産は、Mozillaプラットフォームを維持し、開発し、論じ、心を砕いてきたコミュニティである。このコミュニティがあってこそ、Mozillaは、Webとそれを推進するテクノロジーの持つ、オープンかつコラボレーション的な特性を守る第一級の砦にまで成長したのである。

Jono Bacon──フリーランスのライター、コンサルタント、開発者。Linux Format、Linux User & Developer、Linux Magazine、PC Plusの各誌の他、NewsforgeやO’Reilly Networkなどのニュースサイトにも寄稿している。