Office 2003 DRMが相互運用性に与える影響は?

近い将来、同僚やクライアント、生徒から送られてきたファイルを開き、アクセスできるようになるだろうか。また、手軽に、効率的に配布するために、それらのファイルを電子メールに添付したり、必要に応じて印刷したりすることができるだろうか。相互運用性を維持するためだけに、高価で、場合によってはプラットフォームに依存する、ソフトウェアへの移行が必須になるだろうか。

昨年10月、OpenOffice.orgは、オフィス生産性スイートのバージョン1.1をリリースした。このアップデートでは、ネイティブなPDFとFlashの変換、複雑なテキスト・レイアウト言語のサポート、Microsoft Officeの各ファイル形式との互換性向上などが実現されている。

そのおよそ1か月後、MicrosoftはOffice 2003をリリースした。この製品には新しく、デジタル著作権管理(DRM、MicrosoftはInformation Rights Management(IRM)とも呼ぶ)のテクノロジが導入され、必要に応じて、ドキュメントへのアクセスをセキュアにしたり、制限したりすることができるようになっている。Office 2003で作成された、DRMを使ったドキュメントにはOffice 2003でしかアクセスできない。もっと最近になって、Microsoftは、XMLベースのワープロ文書の相互運用性に関連する数々の特許をニュージーランドとヨーロッパで出願している。

これらの戦術は、Microsoft Officeの現在および今後のバージョンと、OpenOffice.orgやStarOfficeなどの競合製品との間の相互運用性にどのような影響を与えるだろうか。Microsoftは同じ目標──つまり、一連の動きの動機である、ドキュメントのセキュリティ向上──を追っているのだろうか、それとも、ライバルを閉め出すための巧妙な手口なのだろうか。競合製品のプロジェクト・リーダたちは、具体的にどのような手段でこの問題に対応するだろうか。

DRMとは何か

これまで、デジタル著作権管理という言葉は、あいまいに定義されてきた。「オンラインで配布されるデジタル・コンテンツの著作権を保護するシステム」(TechEncyclopedia)という単純な定義もあれば、「資産の有形無形を問わず、あらゆる形式での著作権利用の説明、識別、交換、保護、監視、追跡。権利者の管理もこれに含まれる」(planet eBook)という定義もある。一見無害なこれらの定義を見ると、なぜDRMという言葉が、テクノロジ系の出版物や主要なメディアでこれほどまでに取り上げられるのかと疑問に思わずにいられないだろう。

意識していようがいまいが、DRMはわれわれの日常生活、家庭や職場に、かなりのスピードで浸透している。それはわれわれの予想する分野以外にも姿を現している。たとえば、今あなたが職場で、会社のコンピュータを使ってこの記事を読んでいるとすれば、あなたが利用しているたくさんのプログラムは、会社の中央サーバに置かれた、サイト・ライセンスを管理するプログラムによって制御されているかもしれない。この類のプログラムでよく見られるのが、Sassafras SoftwareのKeyServerだ。たとえば、Freehandを必要とする100人の従業員に対して、製品を100個購入しなくても、KeyServerならより効率的なライセンシングが可能になる。Freehandへのアクセスを必要とする従業員が100人いたとしても、全員同時に必要になることはないだろう。そこで、KeyServerのようなツールを導入し、IT部門はたとえばライセンスを30個だけ購入して、100台のコンピュータすべてにインストールする。KeyServerはそのプログラムへのアクセスを30人までに制限し、31人目のユーザは、ほかのユーザがマシン上のFreehandを終了するまで待つことになる。

KeyServerのようなサイト・ライセンシング・ツールは、QuarkXpressがかつて採用していた悪名高いハードウェア・ドングルや、エンターテインメント業界における疑問の多いDRMスキーマ(使い捨てDVDや、多くのデジタル・ダウンロード・サービスで見られる屈折したCDコピー権など)に比べれば、かなり控えめなDRMの例といえる。

ドキュメントのセキュリティとしてのDRMは、少し前からさまざまな形で存在していた。たとえばAdobe Acrobatでは、PDFファイルに変換したドキュメントに幅広いセキュリティ・オプションを提供していた。このセキュリティには、パスワードによる保護という基本的なものから、印刷禁止、テキストの選択およびコピー/ペースト禁止、さらにはドキュメントの変更禁止まで、さまざまなレベルがあった。このようなDRMの多くは、伝統的なUNIXのファイルアクセス権を基に作られている。

DRMが発展するに従って、テクノロジも変わるだろう。しかし、最も重要な課題は、基本的に変わらない。利便性や柔軟性と、セキュリティ(場合によっては収入の減少も伴う)とのバランスをどこで保つか、という問題だ。

MicrosoftのDRM戦略

現在、MicrosoftのDRM作戦は、エンドツーエンドのMicrosoft環境を前提としている。Windows Server 2003、Windows Rights Management、Windows 2000(Service Pack 3)またはWindows XP、そしてOffice Professional 2003だ。Office Professional 2003を利用していないが、ほかのフロントエンドまたはバックエンド製品を持つWindowsユーザには、Internet Explorer用Rights Management アドオン・ビューアが無償で提供される。しかし、Microsoftの広報によれば、Office 2003のユーザは「IRM機能を最大限に活用できる」が、無料のビューアは「受取人がそのファイルを表示するアクセス権を持っている場合のみ」有効だという。

これに関連してくるであろう動きとして、Microsoft Officeのファイル形式に関する一連の特許をMicrosoftが申請したことが挙げられる。これらの特許は「XML(Extensible Markup Language)形式で保存されたワープロ文書をカバーするものだ。申請した特許は、オリジナルのワープロ・プログラム以外のアプリケーションがドキュメント内のデータにアクセスできるようにする技術だ」という。

当然ながら、問題にすべきなのは、これらの特許申請がMicrosoft Officeと競合オフィス・スイートとの相互運用性を妨げる可能性があるという点だ。Microsoftは、これらの動きについて、多くのビジネスが行っている当然の手続きであると主張し、この可能性を否定している。しかし、彼らが言うとおりこの戦術が当然のものならば、なぜMicrosoftは米国ではなく、ニュージーランドとヨーロッパでこれらの特許を申請したのだろうか。これらの特許と、Office 2003のDRM機能は、控えめに言っても議論の余地がある(競争阻害行為だと言ってもよいだろう)。

別の視点:OpenOffice.org

OpenOffice.orgのコミュニティ・マネージャであるLouis Suarez-Pottsは、MicrosoftのDRM作戦について別の見方をしている。彼は、ファイルでDRMを使うというのは、単にファイルをよりセキュアにするためではなく、相互運用性をうまく避けるための手段だと主張する。「表面的には、DRMの目的は、DRM対応のドキュメントを読むことのできるアプリケーションのみにアクセスを限定するということだが、別の見方をすれば、MS Officeが生成する何種類かのファイルは、同じMS Officeを持っているユーザしか開いたり編集したりできないということだ」とSuarez-Pottsは言う。さらに、「(OpenOffice.orgには)同じくらいセキュアで、制限も可能な、もっと良い代替手段が間違いなくある」と付け加えた。

Suarez-Pottsは、Microsoftの戦略は成功しないだろうと考えている。サーバサイドとクライアントサイドの両方で、ソフトウェアへの投資が必要になるからだ。具体的に言えば、IRM対応のOfficeファイルの送信者と受信者の両方がアップグレードを購入しなければならないからだ。彼曰く、「これは事実上、アクセスを完全に制限する方法だ。そしてその言い訳は、実際の行動よりもさらにお粗末だ。MSは、この機能を誰もが使うようになるとユーザたちに信じ込ませようとしているが、そもそもそのユーザたちが、特定のMS Officeを買わなければ話にならないのだ。」

Microsoftが、Windows Rights ManagementとOffice 2003 XMLスキーマの両方のSDKを一般公開したことで、WindowsバージョンのOpenOffice.orgやStarOffice、その他同様のアプリケーションが、相互運用性の問題を解決できる可能性は残っている。しかし、これらのSDKは最近公開されたばかりで、より一層の調査を待たなければ判断は下せない。

OpenOffice.orgが今後、Microsoft OfficeのDRM対応ファイルにアクセスできるようになる可能性はあるか、との問いに、Suarez-Pottsは、大変な道のりになることを予想していると答えた。「答えは『たぶん』だが、非常に困難であることは間違いない。XMLスキーマとDRMは全くの別物だからだ。XMLスキーマが家の見取り図だとしたら、DRMは実際の鍵とドアだ。」また、OpenOffice.orgは、MicrosoftのDRMも視野に入れて、OpenOffice.orgとMicrosoft Officeとの互換を推進していくことに変わりはない、と付け加えた。

Sunの反応は

2003年後半、SunのStarOfficeにDRMを導入する計画はなかった。Sunのソフトウェア・エンジニアリング・ディレクタであるJeorg Heiligsは、「我が社ではドキュメントの著作権管理を実現する計画はない。しかし、コンセプト・ドキュメントでは、オープンAPIとオープン・スタンダード(XML署名など)を使ったデジタル署名と暗号化の計画について説明している」と述べた。

Heiligは、「これらのAPIにアクセスするためと、APIの背後で証明書と認証を管理するバックエンド・インフラストラクチャを変更できるようにするために、DRMのサポートが必要になるだろう」という。さらに、「この情報がすぐに公開される気配はない。結局のところ、この機能が有用かどうかを判断するのは、ドキュメントを実際に送り合う人々だ。私は、パブリック・スタンダードを基にしたバックエンド・インフラストラクチャや、複数のベンダの実装から選択できることなどのほうが求められているのではないかと思う」と付け加えた。

Heiligは、DRMのメリットとして知られる多くの点が、長い目で見れば重荷となることも多いと警告する。「ベンダが製品を変更したり、サポートを打ち切ったりしたために、たった20年前に書かれたドキュメントにさえアクセスできないというケースがある。標準を確立しなければ、ユーザはベンダの気まぐれに振り回されてしまうことになる」

現在、StarOfficeにはシンプルなパスワード保護オプションが用意されている。これはすべてのStarOfficeファイルで利用できる。それほどハイテクなソリューションというわけではないが、「必要なユーザに、必要なときに、ドキュメントに基本的なレベルのセキュリティを提供する」とHeiligは言う。

当時、Windows Right Management ServerのSDKはまだ公開されていなかった。しかし、SDKの公開状況にかかわらず、Heiligの考えは、そのSDKがどれだけ使えるか、リリースされるのはWindowsプラットフォーム専用のSDKだけか、そして、RMSの互換性をStarOfficeで実現できるか、という点で決まるだろう。また、Microsoftがバックエンドの互換性のためのSDKをリリースするかどうか(可能性は低いが)という点も決定を左右するはずだ。現時点では、SDKが公開されていても、特定のプラットフォームにしか対応していないならばそれをStarOfficeで使うことはないという。

Office 2004:二流市民?

先月のMacWorld ExpoでOffice 2004が発表されたことで、DRM対応ファイルに関するOffice間の相互運用性がどのように実現されるのかという疑問が湧いてくる。Office 2004のうち、一般に公開されている機能はほんの一部で、Mac限定の機能は鳴り物入りで紹介されたが、Windows RMSやOffice 2003との基本的な互換性については一切触れられなかった。

残念ながら、見通しはあまり明るくない。MicrosoftのMac BUの広報担当者は、そのような互換性はOffice 2004では実現されないということを認め、Microsoftには「MacでIRMテクノロジをサポートする予定はない」と述べた。ただし、ファイル形式は同じであり、「Mac OfficeとWin Office、Office 2004、v. X、2001、98のユーザは、Windows用Office 2003で作成された、保護されていないファイルとパスワード保護されたファイルを開くことができる」という。

この広報担当者は、Office 2004とDRM対応のOffice 2003ファイルに相互運用性がないことに対する次善策として、WordとExcelのファイルをパスワード保護することを提案している。また、Mac BUが、Mac OS XでMicrosoft Officeを利用しているユーザが、Windowsネットワーク上のDRM機能を組み込むことをどの程度必要としているか知りたがっているということを付け加え、「Macユーザからのフィードバックやニーズを評価し、適切に対応する予定だ」と強調した。

では、間接的な互換性はどうだろうか。たとえばMicrosoftは、Office 2003を利用していないユーザもDRM対応のOffice 2003ファイルに制限付きでアクセスできるよう、Windows版Internet Explorer用のRights Managementアドオン(RMA)プラグインをしばらくの間提供していた。

2人目のMicrosoft広報担当者は、すでに開発が打ち切られているMac OS X用Internet Explorerやそれ以前のバージョンに対応した、ブラウザ用のプラグインや同様のRMAを提供する予定はないと回答した。また、SafariやMozillaなど、Microsoft以外のブラウザにRMAを提供することもないという。ただし、RMAの仕様は「完全にドキュメント化されており、サードパーティが同様の機能を実現することは可能」だという。

相互運用性:先行きは不透明

Windows Rights Management ServicesのSDKは一般公開されているが、ドキュメントをDRMで包んでしまうというMicrosoftの作戦がどう出るかは、現在のユーザ・ベースのうちどれだけがこれに賛同するかにかかっている。Microsoftはすでに、既存の顧客を最新バージョンのWindowsとOfficeにアップグレードさせるのに苦戦していることを考えると、Windows RMSのユーザを必要数集めるのはかなり難しいと言わざるを得ない。

Suarez-Pottsは、必要数に達することはないだろうという。彼は、ドキュメントのセキュリティ確保に関し、MicrosoftがプロプライエタリなDRM方式に固執しているのは、「完全な策略ミス」だという。さらに、「主張を聞く限り、このテクノロジは強力らしく思えるが、ゲームの内容を理解したときに(相手側も自分と同じアプリケーションを持っている必要があり、しかもファイルの配布を少しばかり制限するだけで、それほど安全になるわけではない)全員がこれを受け入れるかどうかは怪しいと思う。(OpenOffice.orgの)よりよい対応は、オープンソース・コミュニティが吟味したツールを使ってドキュメントを本当の意味でセキュアにし、必要ならば配布を制限(あらかじめ選択したグループだけに配布するなど)してくれる、本物の清廉潔白なセキュア・システムを見つけることだ」

Dr. Paul Cesarini:オハイオ州Bowling GreenにあるBowling Green州立大学のAdvanced Technological Education programで助教授を務める。現在の研究テーマと活動は、デジタル著作権管理とデジタル資産管理、そして、高等教育の現場や家庭に、ゆっくりでも確実に公正使用の概念を普及させることである。