FLOSS-JP:オープンソース/フリーソフトウェア開発者調査結果概要

三菱総合研究所 writes:2003年9〜10月に実施したオープンソース/フリーソフトウェア(OSS/FS)開発者に対するアンケート調査FLOSS-JPの調査結果の概要を報告する。なお、調査結果の詳細は三菱総合研究所のウェブサイトにおいて公開されているので、ご興味のある方は参照されたい。

近年、日本でもLinuxをはじめとするオープンソース/フリーソフトウェア(OSS/FS)が注目を集めている。OSS/FSの機能、性能、信頼性の向上を受け、単なる低コストソリューションというだけでなく、ミッションクリティカル分野や組み込み機器までさまざまな用途に利用され始めている。 また、日本のITベンダはOSS/FSの利用だけでなく開発にも参加しはじめ、日本政府もいくつかの支援事業で後押ししている。 しかし、OSS/FS開発は企業ではなく個人のボランティアベースで進められてきたため、従来の企業中心の産業振興策ではOSS/FS開発を十分に支援できないと考えられる。

どうすればOSS/FS技術者を支援し育成することができるのか。 この疑問に答える第一歩として、我々は「FLOSS-JP オープンソース / フリーソフトウェア開発者オンライン調査日本版」 と題するOSS/FS開発者個人に対する実態調査を行った。 本調査は、2002年に欧州で実施されたFLOSS調査 ( Free/Libre and Open Source Software: Survey and Study)、 2003年前半に米国で実施されたFLOSS-US調査 ( The Free/Libre/Open Source Software Survey for 2003 ) の日本版に相当する。これらは英語で実施されたこともあり、日本人開発者はほとんど参加していなかった。

調査は2003年9月1日から11月1日までの約2ヶ月間、 三菱総合研究所のウェブサイトにおいてオンラインアンケートシステムを用いて実施した。 また、オープンソース関連イベント会場においても、アンケート用紙を配布した。 設問数は55問ですべて選択式である。 世界的な比較をするためにFLOSS調査のリーダ Rishab Aiyer Ghosh 氏と協力し、多くの設問は欧州FLOSS調査および米国FLOSS-US調査と共通である。 アンケート対象者は、いくつかのコミュニティを通じて募集した、 opentechpress.jpにも アナウンスを掲載して頂いた。 OSS/FS開発者であると自認する人々であり、 我々は特に制限は行っていない。 最終的に合計547名(オンライン:487名、会場記入:60名)から回答を頂いた。


調査結果

調査の結果、以下のようなOSS/FS開発者像が明らかになった。

開発者はほとんど (98%) が男性で、20代半ばから30代半ばが中心となって活動している。 現在の平均年齢は31.2才、開発参加時の平均年齢は26.6才、参加年数4.6年である。 欧米よりも3〜4才高く、参加年数は1.5年短い。 2000年以降に開発を始めた人が半数以上 (52.6%) を占めるが、 一方で1990年前後に始めた開発者も10%程度存在し、 日本のOSS/FS開発が歴史ある活動であることを示している。 約3分の1が大学院卒で高学歴者が中心だが、一方で中学・高校卒も22.5%おり、 意欲があれば誰でもOSS/FS開発に参加できる。 ソフトウェア関係の職業が半数を占める。 学生の割合 (14.5%) は欧州 (20.9%)、米国 (28.8%) よりも低く、 特に欧米では情報系の学生が3/4を占めるのに対し、日本では半分以下である。 現在の居住地は首都圏 (南関東) へ集中 (51.6%) している。

フリーソフトウェアとオープンソースソフトウェアに対する考え方は次のようになる。3分の2の回答者はフリーソフトウェアとオープンソースソフトウェアの区別をしており、日本ではオープンソースの方が人気である。欧州調査ではフリーソフトウェアが優勢、米国調査では両者が拮抗しており、三者三様の結果が得られた。ライセンスはGPLを利用する開発者が多い。

実際にOSS/FSに費やす時間は、週5時間以下の趣味的な開発が多く、長時間開発者は少数派だった。 開発プラットフォームはLinuxが最多だが、Windowsも3割を占め、 Windowsが数%しかいない欧米調査と明確な違いが出た。 参加したプロジェクト数やリーダとして率いたプロジェクト数はいずれも数個と少数であるが、半数弱がリーダ経験があり、自分でプロジェクトを立ち上げることが多い。 そのためか常時コンタクトを取っているコミュニティメンバ数は少ない。オープンソースであっても、それほどバザール型の開発にはなっていないものが多いと考えられる。

日本人は英語が苦手なため、国内コミュニティに留まりがちだと考えられていたが、実際には4割近くの開発者がグローバルコミュニティに参加している。 英作文が苦手でもグローバルコミュニティに参加している人も多く、本人の努力次第といえよう。

OSS/FS開発に参加するのは自分の知識やスキルの向上のため、という開発者が多く、期待しただけの利益を得ていると感じているようである。 OSS/FSのスキルというとプログラミング能力が中心と考えがちであるが、ドキュメント作成やサポートなどプログラミング以外の部分で貢献している開発者が多いことも明らかになった。 OSS/FS開発のきっかけもプログラム公開やパッチ送付が約半数、 作者とのメール、バグ報告、文書翻訳等それ以外が約半数という結果である。 こういった知識は独学で学んだ人が圧倒的多数 (62.5%) であり、 コミュニティ (8.6%) と企業実務 (14.1%) と合わせると85%が、 セミナーや大学講義など定式化されたOSS/FS教育を受けていない。 また、OSS/FS開発者はLinux関連資格を持っている人は少ない。 署名に対する意識は若年層 (学生) とプログラマで低く、 著作物の権利に関する教育が不十分であろう。

OSS/FS開発に関連して金銭的な支援を受けている開発者は少数 (26.8%) であり、 欧州 (53.7%)、米国 (43.2%) と比べても少ないが、徐々に増加している。 また、自らのスキルアピールに利用し就職・転職に役立つようにもなってきている。 しかし、現状では開発者と雇用企業とのOSS/FS開発に対する認知度の差は大きく、企業側のOSS/FS開発参加の認知向上が課題である。


提言

最後に、本調査で明らかになった課題に対する日本のOSS/FS開発の振興策を簡単に述べたい。 学生のOSS/FSへの参加を促進させるため、OSS/FSの早期教育を実施する必要がある。 スキルの向上を願う社会人開発者にはセミナーやテキストを充実させるため、 OSS/FS開発スキルを体系化したOSS/FSスキル標準を策定しなければならない。 また、OSS/FS開発者の立場を改善するためには社会認知の向上が不可欠であり、 OSS/FSコミュニティと政府・自治体がOSS/FS開発に対する社会啓発活動を行うことが必要である。 さらに、OSS/FS開発の促進は日本のIT産業の技術レベル向上・産業競争力向上に役立つ、 という意識を行政が持ち、真に役立つ様々な支援策を実施することが重要である。

本調査が日本のOSS/FS開発の促進、および、 OSS/FS開発者の置かれた現状の改善に資することを期待し、結言に代える。


謝辞

本調査はOSS/FS開発者の方々の多大なご協力なくしては実現しませんでした。 回答および広報にご協力頂いたOSS/FS開発者の皆様に本当に感謝いたします。 また、広報・会場でのアンケートにご協力いただいた VA Linux Systems ジャパン株式会社、 日本Linux協会、関西オープンソース+フリーウェア 2003 実行委員会の皆様にも感謝いたします。 FLOSS調査のリーダ Rishab Aiyer Ghosh 氏には、 設問の利用を快諾頂き感謝いたします。 また、本調査は株式会社三菱総合研究所が経済産業省より委託された 「オープンソースソフトウェア技術者の人材開発に関する調査」の一環として実施しました。