Qtopia開発者へのインタビュー

先日、私はQtopiaの開発者の1人で、Qtopiaに携わって3年になるIan Waltersにインタビューする貴重な機会を得た。Qtopiaは、現在最も注目を集めているPIMアプリケーション用バックエンドである。私は、Qtopiaとは何か、Qtopiaの目標、そして同プロジェクトの焦点について話を聞いた。以下にこのインタビューの全文を紹介する。

Gerard: まず「Qtopiaプロジェクトとは何か」という点について伺えますか。
Ian: 一言で言えば、PDAや携帯電話といったデバイスのための統合ソフトウェア環境です。
Ian: もっとも、これだけではその能力を十分に表現できていませんが。
Gerard: 統合ソフトウェア環境ということは、IDEのような開発環境でもあるということですか?
Ian: ある意味ではそうです。むしろKDEに近いでしょうか。
Ian: QtopiaはPDAや携帯電話といったデバイスを使用するために必要なすべてのものを提供するほかに、サードパーティ開発者が自作ソフトウェアをデバイスに簡単に統合できるようにする手段を提供します。
Gerard: では、QtopiaはQtに代わるものではなく、Qt(Embedded)の上に位置するものなのでしょうか?
Ian: そのとおりです。
Ian: 現在のQtopiaはQt Embedded 2.3.7上で動作します。
Gerard: ということは、ある意味ではQtopiaはウィンドウ/デスクトップマネージャと呼べるわけですね(少々単純化しすぎた表現かもしれませんが、Qtopiaを知らない人にとっては最もわかりやすい説明だと思うので)。
Ian: そう考えてもらうと馴染みやすいでしょう。
Gerard: ご自身はQtopiaプロジェクトにどのような形で参加していらっしゃるのでしょうか。
Ian: 私はQtopiaに参加してもうすぐ3年になります。その間、さまざまな部分にかかわってきました。
Ian: 最も深く関与したのはPIM(Personal Information Managment:個人情報管理)アプリケーションで、特にUIよりも(データ管理の)バックエンドの部分です。
Gerard: データ管理というと、データ格納、データ取得、整合性チェックといったことですか?
Ian: そうですね。あとはサードパーティ製アプリケーションからデータにアクセスできるようにしたり、より良い、より高速なデータ格納方法を探したり。
Gerard: 何かを行うより良い、より高速な方法を探すことは、どんなソフトウェア開発プロジェクトでも常に研究を続けている部分です。こうした組み込みハードウェアプラットフォーム上でのデータ管理は、通常のコンピュータ上でのデータ管理よりも難しいのではないですか?
Ian: たしかに難しい部分はあります。一番扱いにくい要素は速度ですね。
Ian: アプリケーションはすぐに起動することが期待されるので、我々はデータのロード時間をできるだけ短縮するよう努めました。
Gerard: データ記憶領域には圧縮技術を利用していますか? 普通のシステムでは、圧縮技術を使用するとたいていはアプリケーションのロード時間が長くなります。しかし、記憶領域が限られている小さなデバイスでは圧縮技術が必須になると思うのですが。
Ian: データ圧縮は行っていません。サイズよりも速度の方が問題になる時期が早く来ると思うからです。
Ian: 圧縮を利用するつもりならば、圧縮を行うファイルシステムを代わりに使用することをお勧めします。
Gerard: 先ほど、Qtopiaはサードパーティ開発者が自分のソフトウェアを簡単に作成、統合するための手段を提供するとおっしゃいました。もし私がPDAや携帯電話上のQtopiaで動作する独自のソフトウェアを開発しようと思ったら、何が必要ですか?
Gerard: もちろんQtopia、Qt Embedded、クロスコンパイラは必要です。その他のものですか?
Ian: 考えられる選択肢は数多くあり、どれを選ぶかは自作ソフトウェアをどのようにリリースしたいかによって異なります。
Ian: 何をするにしても、リリース対象のデバイスに対応したクロスコンパイラが必要になります。
Ian: これはSystem Integratorsやhttp://handhelds.orgなどの場所から入手できます。
Ian: その次は、リリース方法を決めなければなりません。
Ian: GPLアプリケーションにしたい場合は、フリーのQtopia SDKをダウンロードできます。
Ian: このSDKには、対象デバイス用のクロスコンパイラを除けば、必要なものがすべて含まれています。
Ian: 同じ場所からQtopiaの商用SDKを入手することもできます。自作ソフトウェアで少しばかり収入を得たい場合には、こちらのSDKを使用します。
Gerard: handhelds.orgからコンパイラを個別にダウンロードする必要がなくなるような適切なコンパイラサポートがGCCに組み込まれるかどうかご存知ですか?
Ian: handhelds.orgから提供されるのはGCCで、これはARMチップセット用のGCCです。
Ian: 一般的には、デバイスごとではなくチップセットごとに1つのコンパイラがあります。このGCCは、同じチップセットを使用しているデバイスであれば、iPAQsからZaurusまで、さまざまなデバイスに対応します。
Ian: 先ほどの商用SDKの他にもいくつか選択肢があり、その大部分は、デバイスのリリース後ではなくデバイスと同時に発表することを意図したソフトウェア用に設計されたものです。
Ian: しかし、ほとんどの人にとっては、フリーのSDKと商用のSDKがあれば事足りるでしょう。
Gerard: Qtopiaの主なターゲット層はPDAや携帯電話のハードウェアメーカーなのでしょうか。それともサードパーティ開発者なのでしょうか。おそらくハードウェアメーカーよりもサードパーティ開発者の方が数は多いと思うのですが。
Ian: 第一はハードウェアメーカーであると言わざるを得ないでしょう。
Ian: しかし、開発という観点から見ればほぼ対等です。
Ian: 我々がサードパーティ開発者にアピールするためにしていることは、間接的にハードウェアメーカーへのアピールになっています。
Ian: 我々が利益を上げようと期待している主なマーケットはハードウェアメーカーですが、そのメーカー側はサードパーティ開発者に期待しています。したがって、我々は直接的な利益を求めるためではなくメーカー側のことを考えてサードパーティ開発者を支援しているのです。
Ian: 我々がサードパーティ開発者を支援しているのは、そうすればハードウェアメーカーに対する売上を伸ばせるからであり、サードパーティ開発者から直接利益を上げるためではありません。
Gerard: Qtopiaプロジェクトの短期的目標と長期的目標をお聞かせください。
Ian: 短期的には、スマートフォンに焦点を当てています。
Ian: 長期的には引き続きスマートフォンに焦点を当て、その中で得られた成果をPDAに還元していきたいと考えています。
Ian: 我々はソフトウェアの動作に関してさまざまな制限を見つけています。
Ian: たとえば、我々がQtopiaをタッチスクリーンなしで動作させるために行っているさまざまな試みは、PDAやタッチスクリーンを備えたその他のデバイス上でも非常に役に立つでしょう。
Gerard: では、基本的にはスマートフォンの開発がQtopiaの展開範囲を広げることになるとお考えなのですね。
Ian: そうなると思います。市場という点でも、利便性という点でも。
Gerard: 今度はQtopiaそのものについて少々お話をお聞かせください。Qtopiaシステム自体は、いわゆる「ロックソリッド(rock solid)」なものですか?
Ian: 現在、Qtopiaには保守されているブランチが3つあります。
Ian: 1つは1.6ブランチで、これはロックソリッドなブランチです。
Ian: さらに1.7ブランチがあります。これも非常に堅牢ですが、かなりの速度向上が見られます。
Ian: もう1つは開発ブランチで、我々は主にこれに時間を費やしています。
Gerard: 近いうちに実装が予定されている面白い新機能はありますか?
Ian: 現在はスマートフォンに力を注いでいるので、ほとんどの新機能はスマートフォンに関係しています。たとえば、より広範なエンドユーザカスタマイズ(テーマなど)といったものです。開発中の機能は数多くあります。
Gerard: Qtopiaの開発はオープンソース開発ですか? つまり、私でもその気になれば開発のお手伝いができますか?
Gerard: それとも、閉じたドアの向こう側で開発が進められているのでしょうか?
Ian: Qtopiaは二重ライセンスの形を取っています。
Ian: つまり、大部分はGPLの下でリリースしていますが、GPLでは制限がありすぎると考える人々やハードウェアメーカーのために、より商用開発に適したライセンスの下でもリリースしています。
Ian: ですからオープンソース開発ではありません。
Ian: Qtopiaにはhttp://opie.handhelds.orgというブランチがあります。
Ian: これは我々がGPLとしてリリースしたものをピックアップし、さらに推進しているプロジェクトです。
Ian: 彼らはQtopiaとはやや異なる目標を持っていますが、その成果はおおむね同じものであり、大部分は互換性があります。
Gerard: 商用バージョンとGPLバージョンがあるということは、Qtの開発方法に似ているということですか?
Ian: そうです。
Gerard: では、Qtopiaを開発したい場合はopie.handhelds.orgグループに参加しなければならないわけですね。
Gerard: このブランチで行われた変更がメインのQtopiaプロジェクトに反映されることはあるのでしょうか?
Ian: 通常はありません。採用可能なパッチは検討してみますが、目標が違いすぎる場合もときどきあります。
Ian: メインのQtopiaプロジェクトを実際に開発するための唯一の方法は、当社で働くことですね(笑)。
Ian: これは商用プロジェクトであり、ときには「我々はそんなことをしていない」と言える立場にいなければなりません。
Gerard: なるほど、これは商用プロジェクトで、そこに焦点の違いがあるということですね。要は利益を上げなければならないと。
Ian: そうです。これは最大の違いです。
Ian: 我々には、「XをY秒間で行わなければならない」といった要求をしてくる顧客がいます。したがって、我々は別の焦点を持つことになります。
Gerard: Qtopiaの最大の顧客はどこですか? それとも秘密保持契約などの都合で公開できませんか?
Ian: そうですね、お答えできません。
Gerard: 我々一般人がQtopiaを使ってみようと考えるようになるのはいつ頃だと思いますか?
Ian: 普通ならば、お尋ねの企業がデバイスをリリースするときでしょう。おそらく2004年の半ば頃でしょうか。
Gerard: アメリカ国内ではどのような動きがありますか? 私の携帯電話をQtopiaベースのものに取り替えたいのですが。
Gerard: それとも、まだオーストラリアやアジアを中心とした話なのでしょうか?
Ian: 大部分はアジアでのリリースですが、アメリカでもかなりの数がリリースされるでしょう。
Gerard: お時間を取っていただきありがとうございます。


Ianは現在計画が進められているデバイスについて詳細を語ってくれなかったので、QtopiaのPR担当であるSusie Pennerに以下の質問を出してみた。

どのようなハードウェアメーカーがQtopiaの採用を検討していますか?

告知している顧客はSharp告知はこちら)とRoyal(告知はこちら)だけです。2003年10月には中国のFoxconnについての告知を国内で行いましたが、Qtopiaを採用した携帯電話の立ち上げ準備が整ったところで全世界的に告知を行う予定です。SharpとRoyalの他に、IBMも自社製ハードウェアにQtopiaを使用することについて関心を見せています。

カナダとアメリカでは何か計画が進んでいますか? 最近のニュースはアジアに集中しているようですが。

公表している顧客はRoyal(アメリカ)とSoftfield(カナダ)だけですが、Trolltechは北米のいくつかの企業と取引を行っています。アジアは現在、組み込みLinuxが急激な勢いで伸びている地域です。