FSF相談役Eben Moglen氏、CiscoとSCOについて語る

今朝、Free Software Foundationの相談役Eben Moglen氏の話を聞くことができた。実は、昨日、LKML(Linux Kernel Mailing List)に、米Cisco/LinksysのGPL違反問題について弁護士たちが動いていることについての投稿が、FSFのGPLコンプライアンス・エンジニアのDavid Turner氏によって出され、私はその件について取材していた。Moglen氏との会談もこれを受けて持たれたものだ。Moglen氏は、この問題についてのみでなく、最近のSCOによるGPLに関する表立った攻撃についても語ってくれた。

この問題は、これまで断続的に浮上していた。断続的というのは、一時は解決したと見なされたこともあったからだ。私は2〜3週間前にこの問題についてCiscoに接触したが拒否された。取りざたされている問題は、Cisco/Linksysのルータは改変されたLinuxが動作しているにもかかわらず、その結果のコードが公開されていない、ということらしい。Eben Moglen氏はCiscoよりずっと積極的に語ってくれた。

NewsForge: FSFのDavid Turner氏の電子メールを読みました。米Cisco/LinksysのGPL違反問題では、双方で弁護士たちが動いているということですが、これについてコメントをいただけますか。

Eben Moglen氏: 我々はCiscoともBroadcomとも良好な協力関係にあるので、ある一件を除き主要な問題はすべて迅速に解決できるものと考えています。残りの一件については、法的観点から慎重に検討する必要があります。

編集部注: Cisco/Linksysのルータの違反問題は、実はBroadcomからのコードの原作側に起因している。)

ラジオをソフトウェアでコントロールするためのデバイスドライバのソースコードのリリースについては、米国、欧州、日本を始め、各国で規格の問題が関わってきます。Free Software Foundationでは、この問題について十分認識しています。

ほかの問題すべてを見る限り、解決方針の原則は全く同じで、今後、完全遵守を成立させるアクションがとられるものと考えています。これらの問題についての質問に私が今までずっと回答してきたとおり、この懸念についてはCisco/Linksysから協力を得て彼ら自身の十分な言明を待ち、既に彼らの考えを聞きました。

申し上げたように、Broadcomとも十分に建設的で有意義な話し合いを持ちました。弁護士たちが関わってきたからといって、それを、協力関係の問題や不当な聴聞に触発された結果とは見ていません。ましてや、フリーソフトウェア・コミュニティの懸念を軽視したものとは思いません。

フリーソフトウェア・コミュニティの法的問題と、また、同様に深刻な問題である、各社の製品設計と規格への影響についての問題は、関係者すべての間で適切に検討されていくと思います。

Free Software Foundationは、Free Software Foundationが著作権保持者または代理人となっているコンピュータ・プログラムすべてに関し、Gnu Public Licenseの遵守を主張します。

Free Software Foundationが著作権を保持していないソフトウェアについて、およびFree Software Foundationが代理交渉していない著作権保持者について、ライセンス違反が存在すると見なされる場合に、Free Software Foundationは遵守協定は結びません。

Free Software FoundationがLinuxシステム・カーネル・プログラムの著作権を保持していないことは周知のことです。Linuxはgnuプロジェクトに属していません。Stallman氏がGNUとLinuxの字句上の区別を強く主張しているのはそのためです。Free Software FoundationはLinuxカーネルの著作権を保持していないのですから、LinuxオペレーティングシステムカーネルにGPLの適用を強制することはないのです。ただ、カーネルの配布方法に違反があると見なされた場合には、他のFSFプログラムも関わる遵守問題の解決の障害になるでしょう。なぜなら、すべてのフリーソフトウェアについて、ライセンスは尊重されるべきだからです。

Linuxカーネルにおけるデバイスドライバ結合の疑念が法的問題および規格上の問題を引き起こす場合、関係者は慎重に解決方法を検討する必要があります。我々は、フリーソフトウェアをフリーの状態に維持する責任とその他の法的責任の相互関係について皆さんが考察する上で手助けします。

Free Software Foundationは、こうした課題についての専門知識と経験を豊富に持っています。関係者が検討し解決しなければならない問題に直面していることを理解していますし、それを助ける用意ができているのです。この状況についての私の見解は以上のとおりです。

NewsForge: Linuxカーネルを除外するということは、FSFは、最近のSCOによるGPLへの攻撃には関心がなく、関与もしないということですか。

Eben Moglen氏: そうではありません。ただ、繰り返しますが、SCOがIBMに対して告訴という形で始めたこの論争、また、脅迫的な文書の発行を介してフリーソフトウェアのユーザをも少なくとも潜在的に巻き込んでいるこの論争において、SCOの主張が、法的にせよPRという形にせよ、Linuxオペレーティングシステムカーネルという単独のフリーソフトウェアプログラムに関するものに限られているという事実が、この論争における我々の立場に必然的に影響しています。Linuxオペレーティングシステムカーネルについて、我々は著作権を保持していないし、いかなる手段であれ、我々には法的行動を直接起こすことはできないわけです。

SCOがIBMに対する訴訟の中でGPLに言及した場合には、もちろん、私はクライアントの代理人として直接的な関心を持つことになるでしょう。しかし、訴訟には関与しません。

IBMは、Free Software Foundationと異なり、Linuxオペレーティングシステムカーネルというプログラムに、著作権物を多く提供してきました。また、SCOに対する反訴の中で、IBMは、全面的に正確な事実であり、法的にも正当と思われることを述べています。

それは、「あなた方は我々の著作権物を使用している。Linuxオペレーティングシステムカーネルを配布し続けることによって、それに含まれている我々の著作権物をも再配布している。その行為は許諾されたものではない。我々に損害を与える行為であり、中止すべきである。」というものです。

GPLが無効であるという、SCOからの想定される抗弁は、この場合、なんら抗弁にはなり得ません。GPLの使用になんらかの法的支障があるというのは事実ではないが、仮にそれが事実だったとしても、それが意味することは、SCOにはIBMの著作権物を再配布する権利がないということだけです。

毎週、皆さんが読む新聞のどこかに、MPAAのValenti氏またはRIAAの専門家によって、他人の著作権物を許可なく再配布することは窃盗である、という発言が掲載されています。

私自身はそのような見解には必ずしも賛成ではありませんが、IBMが完全に正確に説明しているこのSCOの行為は、まさにRIAAやMPAAが窃盗だとしている行為、つまり、著作権物を許可なく再配布すること、にほかならないということを指摘したいと思います。

特定の人々に与えている許諾つまり我々のGPLが、法的に有効ではない、とSCOが反論しても、SCOには許諾が与えられていないという事実は変わりませんし、SCOがIBMの著作権物を不正に再配布しているという事実も変わりません。

さて、GPLが合衆国憲法に違反しているというSCOの言い分ですが、これはまったくナンセンスです。私は合衆国の法律制度をこれまでずっと研究してきました。Free Software Foundationのための職務に加え、私は米国法律史の博士号を取得して、世界各地の一流法科大学院における学者生活全体を通じ法律史を教えてきました。合衆国最高裁判所にも勤めました。私は憲法を十分研究してきたのです。特定の約束形式でもって、著作権物のコピー、改訂、再配布の許可を他者に与えることが、合衆国憲法に違反するというような不合理な主張のどこにも何ら根拠はありません。ばかげています。

NewsForge: Moglen教授、ありがとうございました。