Linux Kernel Conference 2003 レポート
Linux Kenerl Conferenceは2001年よりOSDN Japan が主催しているイベントである。毎年カーネルハッカーを招聘しており、 それがイベントの大きな目玉となっている。
今年はnetfilterやkernel moduleの改良を行なっているRusty Russellと、 2.6 kernel maintainerのakpmことAndrew Mortonが来日した。
日頃 lkml を講読しているハッカー達からみると、彼らの印象はネットワーク から垣間見られるそれとは異なっていたようである。Rustyは若くフレンドリーで、 笑いのツボを抑えた講演を行なっていた。対してakpmは、淡々と説明を進める という感じの講演だった。
そんなRustyの講演は、午前の一番最初のセッションとして行なわれた。 これはあまり良くない構成だったかもしれない。知人であるハッカー一人は (いかにもハッカーらしく朝が弱いので)遅刻してしまい、その価値ある講演を 聞き損ねていた。好評であったことを後から知り、大変残念がっていたようである。
Rustyは、kernel moduleの改良について他の二人のハッカーの協力を得て いたのだが、そんな彼らの知識や知恵を、数枚のスライドを費して説明していた。 「私の知識が手に持てるぐらいの箱の大きさだとすると、Dave Millerの知識は 我々二人をすっぽり覆いつくすぐらいの大きさ」「私の脳味噌が原寸大ぐらい だとすると、Richard Hendersionの脳味噌はこれぐらい(といいながら、 どこにも脳味噌の書かれていないスライドを出す)。これはもっと遠くから 眺めないといけません(といいながら、次のスライドでは人間の何倍もの 大きさの脳味噌が示されている)」といった具合に、笑いを交え、謙遜しながら 説明を行なっていた。
Rustyの講演の主題は、「自身の必要とする機能を開発し組込む」 「ソフトウェアを公開することで、より優れた開発者からの助力を得られる」 といった、オープンソース開発の利点を強調するものだった。 彼自身がip_conntrackで抱えていた問題を、 Dave MillerやRichard Hendersionの助力のもと、kernel module機構の改良によって解決している。まさにハッカーの鑑である。
写真:出番を待つRusty Russell、筆者も真ん中あたりで小さく写っている
対してAndrewは、「あんなに年配だとは思わなかった」というのが 彼を見たハッカー達の最初の感想だったようだ。オープンソース開発において、 年齢はあまり重要ではないのが常であるが、パッチの採用、不採用を決定するような 立場の人間は、確かにある程度の経験を積んだ人間の方が向いているかもしれない。
Andrewの講演は、2.6 kernelの新機能について広く説明するものだった。 その語り口は落ちついており、円熟のエンジニアという印象をそこからも 感じとることができた。
Andrewは2.6 kernelのメンテナンスを担当してはいるが、もちろんその 機能や実装全てについて完全に理解しているわけではない。把握していない 個所については、「私はこれについてきちんと理解はしていないが」と前置き してから解説を行なっていた。 質疑応答の時も、Rustyの方が詳しい分野だと思った時には、彼に質問を振る あたりがちゃっかりとしていた。今回の来日では、Linux関連企業の訪問なども 行なっていたようだが、その時にも同様のコンビネーションが展開されていた ようである。
写真:出番を待つAndrew Morton
招待講演者の話題はこれぐらいにして、今度は来場者について話してみよう。 主催側の話によれば、参加者数はおよそ300名程度で、名のある大企業の 人達が参加していたとのことである。このことは、Linuxビジネスの広がりが より進んでいることの証左といえよう。
Rustyの「rsyncを使ったことがある人はどれくらいいますか?」という 質問や、Andrewの「2.6 kernelを使ったことはどれくらいいますか?」という 問いかけに対し、会場の挙手はせいぜい1〜2割程度だった。いくらなんでも、 開発に携わる人間であればrsyncぐらいは普通に使うものだろう。 「開発してる人が少ないのではないか」と日本人カーネルハッカーの一人である 後藤正徳氏は言った。「akpmに対する質疑応答でも、lkmlを読んでいるのなら 彼にあんな質問はしないだろう」と続けた。kernelという、技術色の強い イベントにおいても、客層は段々と変化しているようである。
果たしてハッカーはこのイベントに参加して意味があったのだろうか? 後藤氏が言うには、 「Rustyやakpmの印象は、ネットワーク上のとは正反対だった」とのことだった。 lkml上でみられるハッカー達の人となりを見ることができるという意味で、 やはりこのイベントはハッカーにとっても重要なものだろうと筆者は考える。 そして何より、生のハッカー達と話をすることすらできるのだ。昼休みの間、 Rustyは控え室を出て、外のソファーに座っていた。曰く「この時間の間に 質問したい人がいるかもしれない」とのことだった。
最後に一言、ハッカー達からの苦言を伝えておきたい。今回の開催場所は 青山ダイヤモンドホールの地下1階だった。これに限らず、OSDN Japanの イベントは何故か地下が多い。そして、得てしてこういった場所は AirH” が通じにくいのだ。通常、ハッカーは一日以上電波がとぎれると、 さながら呼吸困難に近い症状を呈してしまう。開催場所については、 もう少し彼らに配慮していただきたいものである。