ヨルダンでのオープンソース事業の構築

昨年の12月、ヨルダンの首都アンマンで開催されたイベントで講演した折りにKefah Issa氏とお会いした。当時、Kefah氏は友人のKhamis Siksek氏と共に事業を興す準備を始めたばかりだったが、今やそのfreesoftは安定した企業へと成長し、設立者の生計も立ち、着実に業績を伸ばしている。そのうえ、独自にカスタマイズしたGNU/Linuxデスクトップ(アラビア語対応)を保有している。今回は私がKefah氏とメールでやり取りした内容を若干編集してお届けする。

Linux/オープンソースを使い始めてどのくらいになりますか。

個人的にLinuxを使い始めてから5年になります。

最初に就いた仕事がソフトウェアエンジニアで、それが今も続いています。新しい技術を見つけて評価するというやり方で、専門的な知識を身に付けていきました。

Linuxに最初に出会ったのは1997年で、Slackwareでした。しかしインストール作業が複雑で、インストール済みのWindows OSが壊れるおそれもあったので、Slackwareを試してみる気にはなれませんでした。そして1998年に出会ったのがRedhat Linux 6.0です。

そのとき私はWindowsプラットフォームのC/C++コアデベロッパーでしたが、Redhat Linux 6.0を無事インストールできると、すぐに比較表を作成し、アプリケーションやビルドシステム、スレッディングモデル、ネットワークプログラム、グラフィカルユーザインタフェースなどの開発を始めました。敢えて別の分野に足を踏み入れて、Windowsの機能と比較してみると、Linuxプラットフォームの能力と将来性がよくわかりました。

1998年に、手元にあったTVカード(ProVision 251)をLinuxで動作させるドライバを自作しました。これがLinuxに本格的に取り組むきっかけになりました。このドライバを作成し始めたときには本当にたくさんの人に助けてもらいました。いろいろな人のコードを参考にすることができました。

一番大変だったのは、技術的なことではなくて、フリー(オープンソース)ソフトウェアという概念でした。今でこそ、GPL(そしてオープンソース)ライセンスのすばらしさとその開発モデルのパワーを多くの人に知ってもらう手助けをしていますが、当時はその概念を理解するのにかなりの時間がかかりました。

Khamisさんと一緒に働いていたEstartaを顧客のひとつに挙げていますね。Estartaの自慢はMicrosoftとの「黄金」の関係だと私は理解していますが、freesoftとEstartaの関係を的確に表すとどんな言葉になりますか。また、Estartaの経営陣は競争相手であるfreesoftをどのように見ていますか。

実は、MicrosoftはEstartaの一部を所有しています。

私は、Estartaの創業と同時に入社し、5年間務めました。Khamisが入社したのはその1年か2年後です。Khamisと私は、WindowsとLinux/Unixの両方で数々のプロジェクトを成功に導き、収益アップに貢献しました。そんなわけで、Estartaの経営陣は私たちの手腕を高く評価しています。

今、Linux/Unix/Javaの市場が大きく拡大しています。Estartaは、ソリューションプロバイダとしてこの動きを無視できず、LinuxとJavaベースの仕事をどんどん増やしています。Microsoftも、近い将来何らかの形で間違いなくLinuxに参入してくるでしょう。いつまでもLinuxを無視し続けるわけにはいかないからです。

Estartaとの競争についてですが、私はEstartaと競争しているとは考えていません。Estartaとfreesoftは、競争相手というよりも、互いに補完し合う関係にあります。ターゲットとする顧客が異なるからです。Estartaは大手企業向けのハイエンドソリューションに重点を置き、freesoftは中小企業にLinuxのノウハウを提供することに重点を置いています。

いずれLinuxを「販売」せざるを得なくなると考えていますか。それとも、Linuxのノウハウを求める顧客がfreesoftに押し寄せると考えていますか。

両方です。freesoftを訪れるお客様の約25%がLinuxを求めています。残りのお客様は、ソリューションを導入して効率的に業務を遂行することに関心を持っています。できる限り少ないコストで最大限の機能と品質を求めているわけです。

Linuxへの移行になかなか踏み切れないお客様もいます。Microsoftのソフトウェアの方が使いやすく品質もよいと考えているからです。そうしたお客様に対して私たちはいつも次のようにお答えしています。私たちはMicrosoftのソフトウェアの品質を過小評価しているわけでありません。むしろその反対で、とてもすばらしいソフトウェアだと考えています。しかし、お客様はどのような車に乗っていますか。どうしてもフェラーリやポルシェでなければいけませんか。好きでトヨタに乗っていてその機能に満足しているなら、お客様にはLinuxがぴったりです。1つ1つの機能の価格が違うからといって何も多額のライセンス料を支払うことはありません。

freesoftのデスクトップは巧みな作りになっていますね。アラビア語だけに対応しているのですか。英語でテストやレビューができると個人的に嬉しいのですが…。Lycorisに似ているようですが、ただの背景画像とアイコンなのでしょうか。また、個人法人を問わず既にたくさんの顧客がデスクトップを利用しているのでしょうか。

アラビア語専用ではありませんが、特にアラブ企業のユーザをターゲットにしています。freeDESKTOPには、アラビア語向けの機能拡張が施してあります(フォントやアラビア語対応ソフトウェアを組み込んでいるほか、バグフィックスも行っています)。

学習曲線を最小限に抑えるには、見た目と操作性が大切です。また、freeDESKTOPをICDL(International Computer Driver’s License)で認定しもらうという計画も立てています。ヨルダンでは、ICDLが一般的な教育認定になっているからです。

その他、マルチメディアに対応し、最適なデスクトップレスポンスが発揮されるようにカーネルを慎重にチューニングし、独創的で生産性の高いデスクトップアプリケーションを入念に選びました。

教育組織や技術組織にfreeDESKTOPを供給するという取引が最終段階を迎えています。freesoftでは、freeDESKTOPだけを長く使い続けています。

オープンソースプロジェクトへの参加(特にLinimonsでのKhamisさんの働きが顕著ですね)は、潜在顧客の掘り起こしに役に立ちましたか。

Linuxで積み重ねた経験と貢献は顧客によい印象を与えています。それはお客様と取引を始めたときに強く感じます。Linuxの深い経験を高品質で提供することがfreesoftの取引の中心であり、freesoftの力の発揮どころです。オープンソースプロジェクトでの成功によって潜在顧客を獲得しています(freesoftのホームページにNews Bulletinを用意しています。その中の「A Word From Our Clients」をぜひお読みください)。

今後もヨルダンでだけ事業を展開していくつもりでしょうか。他の国で展開する予定はありますか。

今のところ、ヨルダンでだけ展開するつもりですが、湾岸地域の他国とも取引を開始しようと考えています。

生活していけるだけの利益が出ていますか。もしまだでしたら、いつ頃採算が取れるようになると考えていますか。

おかげさまで十分な利益を上げています。freesoftの戦略は、設立初日から利益を出すこと、そして第1期の決算で損失を出さないことです。収益を会社の成長に振り向けているので、収益以上のお金が消えていくことはありません。