困ります、八田真行さん

坂村教授の発言は、報道によって歪曲されていたようだ。同時に、本コラム筆者の短絡さも責められてよい(2003.10.08更新)

先日、『週刊ダイヤモンド』に掲載された記事に関して坂村健・東大教授を厳しく批判した(坂村健・東大教授への公開書簡)。その最後に「この批判を受けてTRONサイドからの真摯な反論を望みたいところだ」と書いたのだが、さっそく坂村教授から「返事」を頂いた。

MYCOM PC WEBの記事によると、坂村教授は10月7日、CEATEC JAPAN 2003での講演の前半30分を割いて、一連の報道に関して反駁したという。詳しい内容はその記事を参照して頂きたいが、

  • Linuxは敵ではない
  • 「GPLは知的財産権を放棄する考え方だ」などと言った覚えはない
  • 「リナックスのモデルは国を滅ぼす」などと言った覚えもない

などということで、ようするに『週刊ダイヤモンド』の取材側が勝手に曲解した、との主張を展開した模様である。

現在筆者は『週刊ダイヤモンド』編集部に連絡を試みており、記事を執筆した深澤献記者から談話を得たいと考えている。詳細は得られ次第本記事に追加する予定だが、『週刊ダイヤモンド』側の主張も聞いた上で最終的な結論は述べることにしたい。

(以下追記)ということで、問題の記事を執筆した『週刊ダイヤモンド』の深澤献副編集長からお話を伺った。想像以上に誠実な対応で、深澤氏にも深く感謝したい。

あの記事は坂村教授の記者会見の内容プラス深澤氏が独自に取材した内容で構成されており、基本的に文責は深澤氏にある。取材に関しては、坂村・古川(MS副社長)両氏本人ではないが、彼らに近い人々からコメントを採ったとのことだ。また、坂村氏は事前にチェックを入れていない。ゆえに、筆者は『週刊ダイヤモンド』の記事を鵜呑みにしたということで責めを負わねばならない。なお、まだ坂村氏側からの抗議は来ていないそうだ。

まず、明白な誤りとして「GPLは知的所有(財産)権を放棄する」云々という記述があったが、これは深澤氏の誤解なので、ただちに訂正記事を出すとのことである。

この記事で強調されている「共通の敵GNU/Linuxの脅威にさらされてMSとTRONが手を組んだ」「GNU/Linuxが国を滅ぼす(あるいは競争力を弱める)ということで両者の意見が一致した」というのは深澤氏の独自の見方で、坂村氏に直接確認を取ったわけではないそうだ。だが、これは彼としては両氏の周辺を総合的に取材して得られた知見とのことで、撤回するつもりはないそうである。

また、坂村氏の「ソフトがすべてタダなんて、資本主義の国を崩壊させる行為だ」という発言に関しては、発言自体は(坂村教授も認めたように)確かにあったこと、しかし(少なくとも深澤氏には)CEATEC講演における教授の弁明のようにはとれなかった(すなわち、GNU/Linuxが普及するからソフトがタダになる、というニュアンスで理解された)と主張していた。なお、当日のビデオが存在するということで、後日そのビデオテープ起こしの一部を送っていただく予定である。

いずれにせよ、今回の坂村教授の迅速な対応には心から感謝したい。一部では、氏は一切の批判を受け付けない(返事をしない)という噂もあり、いよいよ失望を深めていたのだが、今回のようにきちんと反論していただければ非常にうれしく思う(元の記事でも書いたことだが、筆者はTRONの先進性や優れた特質をきちんと評価してきたつもりである)。当方の無礼は心からお詫びしたい。また、読者の皆様にはミスリーディングな記述をしてしまい、非常に申し訳なく思う。こちらも深くお詫びしたい。

(上記のような事情があるので、この記事は今後数回書き換わる可能性がある。予めご承知ください。)