レビュー:Linux上のJava Desktop System

オープンソースを実社会に普及させるための機は熟している。Sun Microsystemsが先日発表したx86用のJava Desktop Systemは、性能、完成度、使いやすさといった点で、Windows XPはおろかMac OS Xにも比肩する優れたLinuxデスクトップである。

企業、政府機関、教育機関がこのデスクトップシステムを採用するかどうかは、このGnomeベースのユーザ環境の実行可能性よりも、移行の問題や費用的な問題の方に大きく関係していると言える。

私は昨日、SunがSunNetworkでSun Rayシンクライアントの目玉として発表したGnome 2ベースのデスクトップについてのレビュー(opentechpress.jp記事)を執筆し、このデスクトップは適切に構成すればWindows 98やWindows 2000と同じくらい使い物になるという意見を述べた。

私はこのGnome 2.2ベースのJava Desktop Systemをさらに一晩と半日使ってみて、これは既存のLinuxデスクトップの中では最も洗練され、最も一般ユーザ向けのLinuxデスクトップであるという感触を得た。

私は第一線のIT技術者としての長年の経験から、技術者でないコンピュータユーザの多くはごく些細なことにつまづくということを学んだ。むき出しの階層的ファイルシステム、意味不明の専門用語のラベルが付いたアイコン、たびたび出てくる設定画面といったものが混乱を引き起こし、この状況は、中級レベルかそれ以下のコンピュータスキルを持つ数十、数百人の従業員の存在によってさらに悪化する。

代々のWindowsインタフェースが(高度なコンピュータ知識を持つユーザの目からすると)どんどん単純化しているのはこのためである。営業畑の人々はこれを「使い勝手の向上」と呼ぶ。

Sunはこの初リリースのJava Desktop Systemで、使い勝手という宿題をしっかりとやり遂げている。たとえばJava Desktop Systemを起動するときの画面には、Windows OSに慣れたユーザにも何をすればよいかがきちんとわかる簡潔明瞭なラベルの付いたオプションが表示される。

Java Desktop with calendar application

起動すると、青とグレーの落ち着いた色調のデスクトップが表示され、お馴染みの5つのアイコンと、[Launch]ボタンを含む細長いパネルが画面下端に提示される。[Launch]ボタンをクリックすると、親切なオプションのリストが表示される。このリストの上部には[Email and Calendar]、[Star Office 7]、[Web Browser]というオプションがあり、さらに[Open Recent and Find Files]、[Lock Screen and Log Out]などもある。

デモ版の起動バー上にあるその他の項目では、環境設定を設定して、カテゴリ別に整理されたアプリケーションやウィジェットの長いリストから必要なものだけを拾い読みできる。ほとんどのLinuxデスクトップに共通するのは、それらの多くのエンタープライズ設定で、インスタントメッセージやMP3再生のようなものは生産活動の上位ではないという点をいくらか、あるいはまったく念頭に置いていないと思われることだ。

改良点の1つは、デスクトップ上の[Documents]フォルダである。[Documents]フォルダはユーザのホームディレクトリ内にあり、現在のLinuxディストリビューションの多くは/home/usernameをデスクトップにしている。しかし、先週の「Linux for mom」の調査で教会の管理者と作業をしたときに発見したとおり、技術者でない従業員は、アプリケーションの環境設定ディレクトリとその他のホームディレクトリを混同しがちである。階層的ファイルシステムについてのマーフィーの法則で言えば、「ディレクトリが存在し、それが書き込み可能である場合、ユーザはそこに重要なファイルを保存するが、後でそのファイルを見つけ出すことはできない――IT部門に電話をかけない限り」ということだ。

技術的知識のある人にとっては些細なことかもしれないが、この[Documents]フォルダは、Sunがエンドユーザの声に耳を傾けていることの証明である。[Documents]フォルダは、画像、プレゼンテーション、テキストを保存するためのサブフォルダを含み(したがってフォルダ構造ができている)、さらにStar Officeからの2種類の出力を保存するためのホームを含んでいる。

[This Computer]を開くと、システム上でデータ(Linuxを含む)を格納できるすべての場所と、その他のハードディスクパーティション、CD-ROM、フロッピー、[Network Places]、さらに自分のデスクトップの[Documents]フォルダが表示される。おそらく、実働システム上では、ローカル記憶域とそのユーザの許可されたLAN共有に対してのみアクセスを可能にするような制限を課した方がよいだろう。

[This Computer]またはデスクトップから[Network Places]を開くと、LAN上にあるNFS共有とSMB共有を探し、その内容を表示することができる。私のXimian XD2/Red Hat 9マシンでは、共有を探すことはできても、その内容を正しく表示することはできない。ただし、USB接続のコンパクトフラッシュカードリーダーは、Ximian XD2/Red Hat 9ディストリビューション上では正しく表示されたが、このデスクトップまたは[This Computer]では自動マウントに失敗した。 Sunは、SunNetworkにおいてUSBデバイス(PocketPCを含む)との同期をデモンストレーションする予定だったが、そのデモンストレーションは予告に反して実施されなかった。このベータ版を現実の厳しい世の中に送り出すためには、まだ詰めなければならない部分がいくつか残っているようだ。

Sunは、このデスクトップのテーマをアプリケーションやウィジェットに反映させるという機能においても優れた仕事を成し遂げている。私が試したすべてのアプリケーションとウィジェット(Sun自身のJavaアプリケーションと、gtkamやCD Playerといったお馴染みのオープンソースアプリケーションを含む)では、デスクトップのテーマが問題なく反映された。たとえば、最初は大きなアイコン表示に設定していたNautilusファイルブラウザを、Windowsエクスプローラのようなサイドペインとファイルツリーの表示にし、ファイルシステム内のすべてのファイルを表示することができた(ただし、これもおそらくエンタープライズ環境のデスクトップでは歓迎されない機能である)。ユーザの[Documents]フォルダはブラウザのツールパネルに表示されるようになっていて、これはAppleのMac OS XのAquaウィンドウとは異なる動作である。

いずれStar Office 7のレビューがNewsForgeに掲載されるだろうが、これについては、より一層Officeに近づいたアプリケーションと言えば十分だ。Sun版のEvolutionも優れたアプリケーションであり、OutlookまたはOutlook Expressユーザならばまったく違和感なく使用できる構成になっている。セットアップウィザードですら、WindowsおよびMac上のユーザフレンドリなインタフェースに似た形式になっている。切り取り、コピー、貼り付けの機能は、私が試したどのアプリケーションでも期待どおりの動作をした。また、Evolutionのやや時間のかかる初回起動時には砂時計カーソルが表示されたが、不思議なことに、Star Office 7の非常に時間のかかる初回起動時には砂時計カーソルが表示されなかった。

さて最終的な評決だが、私の意見では、Java Desktop Systemは、全般的な生産性を重視する、技術畑ではないたいていのエンタープライズ環境に適していると思う。こうした環境では、おそらくJava Desktop Systemの方が、Windowsのアップグレードよりも問題が少なくて済むだろう。今回のレビューではCDからデモ版を実行しただけなので、パフォーマンスについて決定的な評価を下すことは難しいが、とりあえず900 MHzのAthlonシステム上では問題なく動作したことを申し述べておく。ただ、これは結局のところLinuxとGnomeの組み合わせなので、やや性能の劣るエンタープライズコンピュータ上でも、Windows OS(特にXP)より少ないリソースで実行できるだろうと予想される。

1人あたり年間50ドル(アップデート/サポートを含む)という価格は魅力的である。特に、Sunの1人あたり100ドルというJava Enterprise Systemで、2000人以上のユーザを1人のIT技術者で管理するという目標を達成している場合には、これは大きな魅力である。

LinuxデスクトップがMicrosoftの最大の市場を掌握できるかどうかはまだ不透明だが、少なくとも私にとっては、技術畑ではない膨大な数の生産労働者がオープンソースソフトウェアを使うようになるためのお膳立ては整っているように思われる。特に、SunのJava Desktop Systemに見られるような長所を積極的に実現していけば、その日は近いだろう。

Chris Gulker─―シリコンバレーに拠点を置くフリーランスの科学技術ライター。1998年以来、130本以上の記事とコラムを執筆する。彼の仕事場には7台のコンピュータと1匹のオーストラリアンシェパード、そして偉そうな態度の灰色の小さな猫がいる。