オープンソースのBusiness Integration Engineを成功させたBrunswick
WDIの親会社であるBrunswick社は、ビリヤード台のメーカとして1845年に創業し、今や年商37億ドル、21000人の従業員を抱える大企業である。現在はさまざまな製品を手がけており、ボート、マリン用品、フィットネス用品、ボウリング用品の製造・販売のほか、100を超えるボウリング場の経営、ビリヤード台、エアホッケー台、フーズボール(テーブルサッカー)台の製造なども行う。また、Brunswick New Technologiesグループとして、航行システムやマリン用品ディーラの管理システム、そしてGPSデバイスなどのテクノロジ方面にも進出している。
一見すると、Brunswick社はオープンソース・ソフトウェア、ましてやオープンソース・ベースのビジネスを展開するような企業には思えないが、実際には、Brunswickの一部門であるWDIは、BIEをオープンソース・ソフトウェアとしてリリースし、サポートやトレーニング、マニュアルなどのサービスを販売している。それだけではない。BIEの開発管理環境として、SourceForgeを利用しているのだ。
分散プロジェクトの管理を扱うサイト、Assemblaの管理人であり、また、3社の新企業でCTOを務めるAndy Singletonは次のように考察する。「オープンソース・ライセンス、少なくともコミュニティ・ライセンスでアプリケーションをリリースすることには、経済的なメリットがある。このような形でコードをリリースすれば、企業は維持費や拡張費を(ほかの企業と)分担することができるので、コストの節約になるのだ。」
BIEはJavaベースのアプリケーション統合サーバだ。これはMicrosoftのBizTalk Serverの競合製品であると同時に、対応製品でもある。GPL版(無料)とライセンス版の両方が、Brunswick New TechnologiesのWDIグループから入手可能だ(ちなみにBizTalkでは、プロセッサ1台につき999ドル(Partner Edition)、6999ドル(Standard Edition)、24999ドル(Enterprise Edition)のいずれかの費用がかかり、さらにOSとハードウェアのコストが必要だ)。
社内ツールとしての出発
BIEは当初、Brunswick自社のニーズを満たすために開発されたソリューションだった。ビジネス・パートナが利用するためのeビジネス・ソリューションとして、社内で開発され、社内で利用された。「世界中に1万程度のディーラがあったが、家族経営の小規模なものから株式公開企業まで、さまざまな形態があった。それらのディーラと電子的にやり取りできるようにすることが非常に重要だった」とLambertは語る。
しかし、当時存在したソフトウェア・パッケージの多くは、その目的にそぐわなかったという。特に、小規模なディーラへの対応が甘かった。市販のパッケージをいくつか試用してみた結果、WDIは、オープンソースの方法論を採用し、自社で開発するのが最も理にかなっていると判断した。「ほかの人々が発展させられるような製品を作らなければならないと考えた。(…)そして、その目標を達成する方法としては、オープンソースが一番簡単だった。」Lambertによれば、Brunswickはその時点ですでにオープンソースを利用していたという。「スタッフの中には、何年ものオープンソース利用経験がある者もいた。」
この成果がBIEだ。BIEはJavaで書かれており(Java 1.4が必要)、LinuxやWindowsを始めとする各種プラットフォームで実行可能だ。BIEは、変換、翻訳、移送の機能を備えた、アプリケーション対アプリケーションの統合サーバ(いわゆるミドルウェア)だ。
WDIの技術部長、JT Smithの説明によれば、「あるデータを移動させたいとき、(…)BIEは既存のシステム間で動作し、各システムがよりよく機能できるようにする。」
Smithはさらに、「すべてのディーラと部門に、低コストでこのシステムを配布できなければならなかった。このため、多くの収入は期待できず、タダで配るのと大して変わらなかったのだ。それなら、タダで配ってしまえばいいのではないか、オープンソース・コミュニティに公開すれば、メリットを享受できるのではないかと考えた」と語った。
BIEをオープンソースにするメリットはいくつかあった。Lambertによれば、「製品をより早く配布できるようになった。一番大きかったのは、必要な人が誰でもこれを入手できるようになったことだ。販売形態が自由になり、ただダウンロードすれば済むようになった。」
BIEはオープンソースであることで、よりよい製品となったという。Lambertは、「ほかの業界の人々の知識や経験を利用させてもらえたのは大きな利点だった。オープンソースでなければこれは不可能だ。さらに、開発、プロジェクト管理、サポート、トレーニングなど、自分たちが最も得意とする分野に専念することができた。われわれの収入モデルはMySQL ABと同じで、プロによるサポート、BIEのトレーニングクラス、充実したマニュアルなどを販売している。また、いくつかの企業から、製品を組み込みたいという申し出があったため、最近ではプロプライエタリなライセンス版プログラムも提供している。」
Javaを選んだのは、Brunswick社内で使われている多種多様なシステムに対応するためだった。Smithが言うには、「多くの企業を買収しているから」という理由もあり、「BSD、Linux、Windows、Unix、Mac、メインフレームが全部あったので、どの環境でも実行できるというのはかなり重要だった。事実上のエンタープライズ言語といえるJavaが、クロスプラットフォームなのは好都合だった。また、WebサービスやJMS(Java Messenger Service)などの一般的なメッセージング・プロトコルを利用したかったこともあり、唯一JMSをサポートしているJavaを採用した。」
Smithによれば、Brunswickは幅広い統合タスクにBIEを利用しているという。「発注や品質保証などの伝統的なビジネス・トランザクション、販売チームから中央データベースへのデータマイニング、エクストラネットとのコンテンツ統合を通じたWebページへのデータ発行、ユーザ・リポジトリとほかの場所とのデータのレプリケーションなどを統合して、すべてが同期されるようにしている。」
またSmithは、「BIEは、内部的なアプリケーション統合だけに利用することもできるが、BIEを最も必要としているのは、販売拠点の統合に頭を悩ませている企業ではないだろうか」と述べている。
たとえば、Brunswickのあるボート会社では、販売店からボートの売り上げ報告を受けるのに最高で90日かかっていたが、BIEを採用したことで、経理アプリケーションから売り上げデータを直接受け取り、ボートの製造元に毎日送付できるようになったという。「90日が1日に短縮されたことで、何が売れているかという統計がより正確に出せるようになった。」
BIEは、コスト削減にも威力を発揮するという。Smithは、「注文を手作業で処理すると、電算機への再入力に50〜60ドルもかかる。これを電子的に統合できれば、1件の注文を5ドル程度で処理できるようになる。事業によっては、1日に処理する発注が2・3件しかない場合もあるだろうが、50件以上になる業種では大きな違いが出る。このように製造元で統合を行えば、販売時だけでなく、仕入れ時にもコストが削減できる」という。
これまでのところ、BIEは大きな成功を収めている。Lambertによれば、「登録の上でダウンロードされたBIEは2400件を超えている」という。また、BIEはBrunswickの3つの部門だけでなく、Doctor Solutions Inc.、米国証券取引委員会(SEC)、そして数十億ドル規模の建築資材会社などで使われている。「サービス、サポート、そしてトレーニングの顧客は、現在40程度」だそうだ。
Lambertによれば、BIEは無料でダウンロードできるため、「現時点で何社がBIEを利用しているか、正確に把握するのは難しい。われわれが知る限り、大手金融機関から自動車業界の有名企業まで、さまざまな組織がBIEをダウンロードしている。また、相当数のコンサルティング会社やシステム・インテグレータが、顧客のプロジェクトにおいてBIEを評価対象にしていることがわかっている」という。
Lambertはさらに、「現在われわれは、5社のソフトウェア企業と競合している。具体的にはヘルスケアとテレコム業界においてだが、顧客たちは、現在使用しているソフトウェアをBIEで代替できるのではないかと考えているのだ。デビューから3ヶ月でここまでの成功を収めることができたのは、非常にうれしいことだ」と述べた。
Smithは、「エンドユーザからは、絶賛の声しか聞こえてきていない」という。「彼らは、背後でBIEが動いていることを知らないが、以前は得られなかった情報が得られるようになったことには気付いている。」
「BIEの単純さと、オープンソース・テクノロジで構築されているという事実は驚くべきものだ」というのは、Dunbar Consulting Inc.の副社長Hugh Brienの弁だ。Dunbar Consultingは、SECにBIEを採用させたシステム・インテグレータである。「われわれがBIEにますます興味を惹かれたのは、TomcatやStrutsと同様に、Jakarta/Apacheの製品として作成されている点だ。(…)Jakartaライブラリや正規表現など、すばらしい機能がすべて備わっている。(…)ライブラリを見て、ディレクトリを開いてみれば、一連のオープンソース・コンポーネントが揃っていることがわかる。つまり、プロプライエタリな製品を作ったが、売れなかったからオープンソースにした、という輩とは一線を画しているのだ。(…)彼らは、この製品の構築と設計に使用したアプローチにきちんとコミットしていると言って間違いないだろう。」
Smithによれば、WDIの開発者たちはBIEの機能を拡張しているところだ。たとえば、「年末にも登場する予定のリリース6.0では、JMSとJBOSSの完全サポートが実現される」という。さらに、より多くの業界や業務においてBIEが利用できるよう、データ・ウェアハウスや分散コンピューティングなどの機能を検討中だ。
「プロジェクトでBIEを利用したり、利用を検討したりしている企業はかなりあるが、それらの企業はプロジェクトの情報を機密にしたいと思っている」とLambertは語る。「BIEのおかげで競争上優位に立っているので、BIEを使っていることをライバル会社に知られたくない、と明言している企業さえある。」
Daniel P. Dern――フリーランスのテクニカルライター。最近まで、Byte.comの編集主幹を務めていた。