Linus Torvalds氏がOSDLに移籍、2.6カーネルと氏の今後は?
NewsForge: OSDLでカーネルの開発に専念するとのことですが、それは、一週間のうちでLinuxに携わる時間が増えるという意味ですか。それとも、夫として、また父親として過ごせる時間が増えるという意味ですか。
Torvalds: Linuxに携わる時間が増えるわけではありません。今までと同じです。今までもLinuxの開発に全精力を注いできたのですから。今回の決断はその延長線上にあると言っていいでしょう。私がOSDLに来たからといって、何でもがんがん片づいていくわけではありません。そんな期待をされても困ります。しかし、私が他に抱えているプロジェクトがなくなったという意味では、作業の信頼度が上がるかもしれませんね。
NewsForge: 2.6カーネルのメンテナンスを、開発サイクルとしては異例の初期段階でAndrew Morton氏に委譲するとのニュースレポートもありましたが、それは本当ですか。
Torvalds: はい、自分がある程度満足できたら、後は他の人に引き継いでもらう──それが私流の仕事の進め方なのです。ここ数か月というもの、私とAndrewは二人三脚で仕事を続けてきたのですが、そろそろ新しいアプローチに変えようということで、2.6カーネルのメンテナンスについては、Andrewが最初から責任者となり、私はそれを補佐することにしました。
この体制には徐々に移行します。つまり、権限を少しずつ委譲していき、今週予定しているプレリリースがAndrewの責任者としての出発点となります。
NewsForge: 業界誌では、Linuxに対するSCOの異議(ソースコードを剽窃されたとの指摘)をないがしろにしているとの批判の声もありますが、今はどうでしょう。SCOの一件を前より重く受け止めていますか。
Torvalds: SCOの一件については、最初から重く受け止めていたつもりです。ただ、いつの間にかSCOとIBMの契約問題が議論の中心になってしまったので、今はあまり関心はありません。
(訴訟自体は始めから契約の問題でした。しかし、IPに関してSCOのFUD戦略が尋常ではなく、そのことについては心配しています。最近のSCOの言い分は、IPがIBMのもので、不正はなかったことを認めているようなものですが。)
NewsForge: 2.5カーネルのスレッド処理に対するこれまでの取り組みをふまえて、2.6カーネルが大型コンピュータにうまくフィットすると思いますか。
Torvalds: もちろん、そう思います。改良の一部は2.4.xカーネルでも見いだすことができますが、2.6.xカーネルは大型コンピュータでもまったく問題なく機能するはずです。私が言っているのはスレッド処理の問題だけではありません。各種サブシステムのロック機構も大幅に改良されています(ファイルシステムやブロックIOレイヤなど)。
NewsForge: Linuxの「スイートスポット」が最新のハードウェアに寄りすぎて想定され、一般ユーザが自分のコンピュータに最新版をインストールした場合、前より動作が遅くなってしまったと感じる──そのようなことが起こり得ると思いますか。
Torvalds: いいえ。私自身、Linuxをありきたりのデスクトップマシンで毎日使っています。それに、ご質問の内容は、私が最も注意していることでもあります。たとえば、私が最近自分で(他のプログラマのコードとマージするのではなく)書いたパッチは、実行可能イメージのページフォールトに備えて先読み機構を改良し、X11とMozillaの読み取り速度を向上させるというものです。
もちろん、私の言う「ありきたりのデスクトップマシン」は、一般から見ればハイエンドの部類に入るかもしれませんが、トップクラスのマシンでないことは確かです。私のマシンにはギガバイトレベルのRAMと3GHz CPUが搭載されていますが、今後1、2年の間、発売される新型マシンもおそらくこの程度のスペックにとどまるはずです。
私がハイエンドに傾いていると思われるかもしれませんが、そのハイエンドも数年で「ありきたり」のものになってしまうのです。もちろん、ローエンドマシンのことも考えています。見捨てるつもりはありません。
NewsForge: 2.6カーネルで最大の改良点を挙げてください。
Torvalds: 大きな改良はいくつかあります。私個人にとって意義深いのはブロックレイヤとVMですが、一般ユーザのみなさんに「良くなった」と感じていただけるのは、ACPIやUSBといったところでしょう。
NewsForge: 今回の退職は円満退職だったのでしょうか。将来、Transmeta社に戻る可能性はあるのでしょうか。
Torvalds: 別に会社を「辞めた」わけではありません。実際、まだTransmeta社の仲間とは連絡を取り合っていますし。つまり、退職ではなく休職です。もちろん、会社側には十分に理解してもらえました。先のことはそれほど考えていませんが、少なくとも背水の陣とは思っていません(笑)。
NewsForge: より多くのハッカーや他のOSDLメンバーがカーネルの開発に協力してくれると思いますか。
Torvalds: こればかりは、時間が経ってみないとわかりません。
NewsForge: OSDLのスポンサー企業各社(Computer Associates、富士通、日立、HP、IBM、Intel、NECなど)には、あなたに対して、ニーズをより敏感に察知してほしいという期待があるのではないでしょうか。
Torvalds: 私が生意気なやつだということ、そして口癖が「たとえそうだとしても」で、やりたいことは絶対に押し通すということは、もう、広く知れわたっていると思います。しかし、同時に、環境が変われば仕事のやり方が変わるのも事実です。どうでしょう、1年後くらいにOSDLの誰かを捕まえて、私のやり方が変わったかどうか尋ねてみるというのは?