ソフトウェアで一攫千金はもはや夢物語か?

ソフトウェアが著作物として認識され、商品として大量販売されるようになってから実はまだ30年ほどしか経っていない。その意外に短い歴史の中、ソフトウェア業界は大富豪を輩出してきた。しかし、一時代が終わりを迎えつつある。新しいソフトウェアに対するニーズが高まり、ソフトウェア開発者が活躍する機会が増え続けていくことに変わりはないだろうが、今後、彼らの中から新たな億万長者が誕生する可能性は低そうだ。

ソフトウェアビジネスで利益を得るのは、乾いた布から水を搾り取るようなものだ。 ご存じのとおり、サーバ向けオペレーティングシステムの市場ではLinuxがシェアを 拡大しつつあり、ソフトウェア会社の収入の中でオペレーティングシステムが 占める割合は微々たるものになってきている。

各社の対応はどうか? 過去のパターンからすれば、Sunは黙っていないだろう。 SCOは訴訟を起こし、MicrosoftはLinux関連のカンファレンスに出席しまくるという 作戦に出るかもしれない。しかし、今は事態を静観するしかないようだ。Linuxは 大方の企業ユーザにとって「手頃」なサーバソリューションであり、そのシェアは 今後も拡大していくものと予想される。プロプライエタリなオペレーティング システムを提供しているメーカがどんなに困ろうが、ユーザはおかまいなしだ。 ユーザが欲しているのは「自分にとってベストのソリューション」であり、多くの 場合、それはLinuxなのである。それに次ぐのがBSD系オペレーティングシステム という状況だ(BSD系はLinuxでは力不足という分野で好まれている)。

Red Hat Enterprise Serverの動向は?

Red Hat Enterprise Serverは、MicrosoftにとってのWindows ServerやIISとは 異なり、巨額の利益を生み出すことはないだろう。そもそも商品の位置付けが 異なる。Red Hat Enterprise Serverはプロプライエタリな製品セットではなく、 サーバのセットアップとメンテナンスを自分でしたくないというユーザ向けの 製品だ。ユーザがこのRed Hatの最上級製品を購入するのは、自分で サーバを運用するより安く上がるからであって、それ以外に彼らをそうさせる 理由はない。

企業向けLinux製品を提供しているのはRed Hatだけではない。SuSE、Mandrake といったメーカも同様の製品を提供している。この競争によって製品価格が 抑えられ、SunやMicrosoftなどの非オープンソース陣営も自社製品の価格 引き下げや、サーバ向けオペレーティングシステム市場からの撤退を余儀なく されている。いずれにせよ、今後、この市場はますます収益性の低いものに なっていくことだろう。その中で新しい活路があるとすれば、それは、製品を 売ることではなく、サービスやサポートを提供することだ。しかし、大きな収益は 期待できない。参入障壁が低いため、小企業でも大企業と対等に渡り合える からだ。むしろ、間接部門を持たず小回りの利く小企業の方が有利な局面も あるだろう。

結論 : サーバ向けオペレーティングシステムの市場で巨額の利益を 得るのはもうあきらめた方がよい。今後有望なのはきめ細かなサービスの 提供だ。目の付け所のいい起業家であれば、億万長者は無理でも百万長者 にはなれるかもしれない。有能なソフトウェア開発者、システム管理者、 サポートエンジニアは優遇されるだろう。しかし、この分野で特定の企業 または企業グループが一人勝ちすることはありそうもない。

デスクトップ/クライアントの変化

率直に言って、現在のLinuxデスクトップ環境は、WindowsやMacに比べれば いろいろな意味で敷居が高い。一般ユーザにとって、Linux用のソフトウェアは WindowsやMac用のソフトウェアよりもはるかにインストールが難しく、利用 できる数がずっと少ない。マウスの設定を変える、気に入ったスクリーン セーバーをダウンロードしてインストールする、という簡単な作業でさえ 不必要に複雑だ。こうした作業のやり方をLinuxのオンラインフォーラムで 探してみれば、有益なアドバイスが見つかるどころか、GUIよりコマンドライン 操作の方が優れていることを長々と語る文章や、だれもがDebianやGentooを 使うべきであると主張する大演説に出くわす始末だ。

もちろん、あまり複雑な作業をしないSOHOユーザであれば、Linuxを使うことで かなりの経費節減になり、WindowsやMacを使う場合よりも、安価なハードウェア 上でより速く安定したデスクトップ環境を手に入れることができる。さらに、 企業や官庁のデスクトップで、いくつかの決まった機能だけを(通常はリモート サーバ上のカスタムアプリケーションにアクセスして)実行できればよいという 場合は、Linuxは経費節減に大きな威力を発揮する選択肢と言えるだろう。

無料のOpenOfficeや安価なStarOfficeといったLinux用アプリケーションは、Microsoft Officeほど多彩な機能を備えていないかもしれない。しかし、考えて みてほしい。リンカーンやキャデラックがパトカーとして使われているだろうか。 警察に支給されるのはフォードやシボレーなど、価格も維持費も格段に低く、 職務上求められる最低限の機能をすべて備えた車種である。

企業や官庁の賢明な幹部たちや、何百万という個人ユーザは、デスクトップ コンピューティングのニーズを以前よりも現実的にとらえるようになってきて おり、必要な作業はすべてフリーソフトウェアやオープンソースソフトウェアで 実行できると考える人々は年々増えている。

だからと言って、MicrosoftやAppleが凋落するわけではない。事実、Microsoftは 最低限の装備しかない低価格製品を発表しようとする動きを見せている。 そのうち、安価なIntel x86ハードウェア用のMac OS Xが登場する日がやって 来るかもしれない。

今日のデスクトップソフトウェア市場では、オペレーティングシステムとアプリ ケーションの両方で低価格化が進んでいる。この低価格化は今後さらに 進むと見られているが、それはLinuxとLinux用のオープンソースアプリケーション のせいだけではない。Corelなどのソフトウェア企業がWindowsユーザを取り 込もうとして製品価格を引き下げると考えられるからだ。実際、いわゆる 一流メーカのWindows PCでも、基本的なホーム/オフィス用ソフトウェア パッケージとしてMicrosoft WorksではなくCorel WordPerfectを組み込むケースが 増えてきている。

このことからも、かつてはきわめて儲かる商売だったソフトウェアビジネスの 利益(プロプライエタリソフトウェアの利益幅はしばしば75〜80%以上に 上っていた)が圧縮されていることが見て取れる。

利益幅の縮小のせいで非オープンソース陣営が消滅することはないだろうが、 ソフトウェア開発によって新たに億万長者が何人も生まれる可能性は少なく なっている。もちろん、新しいソフトウェアが開発されなくなるわけではない。 家電製品の利益幅はたかが知れているが、新しい家電製品は次々に開発 されているし、レストラン経営が成功する確率はそれほど高くないにも かかわらず、新しいレストランが次々に開店しているのが現実だ。

ソフトウェア産業とレストラン産業

旅先や出張先でもない限り、自分で食事を用意することができるはずだ。 自宅から3,000 kmあまり離れた土地にいる場合でも、レストランに行かずに、 どこかの店でシリアルやサンドイッチなどを買ってしのぐことができる。

レストランにとってのもう1つの強敵はファーストフードである。ファーストフードが レストラン産業の利益を圧迫している、という話についてはおおよそ想像が つくだろう。ファーストフードのせいで従来の着席形式のレストランに入る客が 少なくなり、客に給仕して相応の対価を得ることが難しくなったという理屈だ。 実際、従来型のレストランの比率は(少なくとも米国では)過去30〜40年の間に 激減し、その一方で、ファーストフード店はほとんどどの街角にも顔を出している。

それでも、優良なレストランはなんとか生き延びて、低価格のファーストフードや 自炊との競争に打ち勝って利益を上げている。新しくオープンした店の中には、 店主が生活していけるだけの利益を上げたり、チェーンやフランチャイズに まで拡大して創立者を億万長者に押し上げたりするものもなくはない。

フード産業は本質的にオープンソースだ。だれでも(自炊派の人でも)同じ 食材を扱うことができ、レシピは簡単に作成でき、リバースエンジニアリングも 簡単である。たとえば、この前レストラン Lawry’s で食べた27ドルのプライムリブとまったく同じ料理を自宅で作ることができる。 しかも、Lawry’sは 人気メニューの レシピ をインターネットで公開してくれているので、同じ料理を再現するのも簡単だ。 それでもなお、人々はレストランに行く。かく言う私も先週、アールデコ調の Lawry’sラスベガス店 に出かけ、自宅のダイニングキッチンとは比べものにならない雰囲気と サービスを楽しみ、快く料金を支払ってきた。

つまり、サービスとサポートに対して料金を支払ったわけだ。

もちろん、Lawry’sのサービスとサポートがそれに値するものであった ことは言うまでもない。もう少しサービスの劣るレストランだったら、もっと安く 済んだところだ。たとえば、この間泊まったホテルのレストランでは、Lawry’sの 看板メニューと同じ「プライムリブスペシャル」が、サラダ、ポテト、ヨークシャー プディングが付いて15.95ドルだった。

ソフトウェア産業はやがてレストラン産業のようになるのではないだろうか。 フリーソフトウェア開発者はレシピを共有している自炊派の人々に相当し、 低価格の汎用ソフトウェアパッケージ(StarOfficeやWordPerfect、あるいは パッケージ化されたLinuxディストリビューション)はファーストフードに相当 する。そして、いくつかのソフトウェア会社(Oracle、Microsoft、Adobeなど)は これまでどおり市場の上位で小規模ながら重要な位置を占める、という形 である。

ソフトウェア産業とレストラン産業のもう1つの共通点は、米国内の高賃金の 労働力よりも低賃金の外国人労働者に頼る割合が多くなってきていることで ある。レストラン産業ではかなり前からこのシフトが見られ、農業ではさらに その前に同じことが起きている。米国内のプログラマにとっても状況は厳しく なりつつあるが、彼らの多くは、レストランが(しばしば不法の)外国人労働者を 調理場に雇い始めたときに抗議の声を上げたり、輸入車が市場にあふれ 始めたときに不買運動に参加したわけではない。今頃になって低賃金の 外国人労働者に職を奪われつつあると訴えたとしても、政治家たちは ほとんど聞く耳を持たないだろう。米国内のプログラマは、他の産業の 労働者たちがここ数十年直面しているのと同じ労働問題をなんとか生き抜く すべを身につけなければならない。もっとも、米国内のソフトウェア開発者の 大半は今なお労働組合を嫌い、「市場の自由競争」を主張する傾向に あるので、この流れが近い将来逆転する可能性はほとんどないと思われる。

花形プログラマになるには

McDonald’sやLawry’sの調理場で働くのであれば腕利きのシェフである 必要はない。基本的な技能があり、マニュアルに従って正確に調理できれば 十分だ。Lawry’sで働くなら、調理により多くの技能とトレーニングが必要に なる。その分給料が高くなり定着率は高くなる。一方で、有名なシェフを 抱えるという強みから、値段が高くてもいつも満席というレストランもある。 また、McDonald’sと言えども(失礼!)レシピを守るだけでなく、新しいレシピを 考案する責任者がチェーンの本部に必要だ。

一流のシェフは高額な(ときに法外な)給料を得るものだ。花形シェフ ともなれば、TV番組(多くはケーブルTVだが)に出演し、本を執筆し、 さらにはNBAのスター選手モデルのシューズのように、台所用品を自分の ブランド名で売り出すこともある。スターダムにのし上がったシェフはこうして 億万長者となるのだ。

しかし、料理学校を卒業しさえすれば誰でも花形シェフになれるという わけではない。中古車を運転するなど彼らの生活は慎ましく、極めて 長い時間働いて給料を得るが、他の職業と比べて安定しているとは 決して言えない。彼らより不安定な条件の下で働いているのは、建築 現場の労働者とプログラマくらいのものだろう。

料理学校では真っ白いシェフのユニフォームに憧れる生徒がクラスに 溢れるように、コンピュータサイエンスやプログラミングのクラスは、「 got root? 」とプリントされたT-シャツに憧れる学生で一杯だ。この生徒たちはみな、 自分の選んだ分野でスーパースターになれる者など、ほんの一握りである ことを知っている。NBAのドラフト会議で指名されるバスケットボール選手は ごくわずかだ。そして、プロになれたとしても、Nikeとのスポンサー契約で 大儲けできる確率はきわめて低い。

調理も、プログラミングも、そしてバスケットボールも、大儲けしたいという 願望と同じくらい強く愛着を持って取り組まなければ、その世界で成功 することはできない。その上、これらは何か他の仕事で生計を立てつつ、 純粋に好きだからという理由で、つまり趣味としてやる人も多い。スターに なるには、野心を持つプロとだけではなく、才能豊かなアマチュアとも競争 していかなければならない。要するに、ただ優秀なだけではなく、並外れて 優秀でなければ、トップに登り詰めることはできないのだ。

どれほど懸命に努力しても、スター選手や花形シェフになれる保証はない。 プログラミングの世界も同じはずだ。しかし、プログラマの多くは、もっぱら ソフトウェアを調理するコックであり、シェフではない。指示に従ってルーチン ワークをこなしているだけなのだ。

プログラマは多ければ多いほどいい

コンピュータがますますユビキタスな存在となり、IT産業の重要性がさらに 増している今、新しいプログラムを求め続けるユーザのニーズに対応 していくためには、より多くのプログラマが必要になる。プログラムは今後、 フリーライセンスやオープンソースライセンスの下で書かれることが増える だろう。そのコーディングに携わるのは、十分な能力を持つアマチュアや エンドユーザ側にいるプロ、そしてRed HatやIBMのような、ソフトウェア そのものではなく、ソフトウェアに関するサービスやサポートを提供する ことで利益を得ている企業で働くプロたちだ。とはいえ、プロプライエタリな 商用ソフトウェアも開発され続けるだろうし、絶対数だけを見れば、その数は 減るどころか増え続けてもおかしくない。なぜなら、現在の傾向が今後も 続くなら、世界中で開発されるソフトウェアの総数は、オープンソースへ 移行するソフトウェアの数よりも高い割合で増加していくはずだからだ。

つまり、Microsoftを始めとする非オープンソース陣営にとって、市場での シェアは落ちるかもしれないが、絶対的な販売数は増えていくだろうということだ。

ここで重要なのは、彼らが現在のような高い利益を今後も上げつづける ことができるかどうかだ。

その答えは、まず間違いなく「ノー」だ。

最近、100万ドルもするUnixのプロプライエタリ・ハードウェア/ソフトウェア サーバ環境が、Linuxを搭載した30〜50万ドル程度のハードウェアに次々と 取って代わられているというニュースをよく耳にする。また、同じく100万ドル 相当の、ハイエンドの商用デスクトップソフトウェア環境が、20万ドル、場合に よっては10万ドル程度のLinuxやオープンソースアプリケーション(または、 廉価な商用アプリケーション)に取って代わられているという報告も聞かれる ようになった。このような傾向は、今後数年、ますます強まっていくだろう。

結果的には、プログラム1本、またはコード1行に対して支払われる対価は、 現在よりもずっと少なくなるだろう。ただし、プログラマにとってこれが大きな 打撃になることはないだろう(仕事が増えて喜ぶのは、北米やヨーロッパより、 インドや中国のプログラマたちかもしれないが)。実際に打撃を受けるのは、 企業のトップたちだろう。それまで、ソフトウェアの大幅値上げ(そしてそれに 付随する利益)に慣れてきた投資家たちは、メーカのCEOに、業界の趨勢に 逆らうという理不尽な注文を付け、その無理難題を実現できなかった マネージャたちを解雇するかもしれない。ほとんどすべての企業が、いずれ その憂き目に遭うだろう。

それでも、何社かは生き残るだろう。中には、「座って食べる」レストランに 勝ち目はない、という大方の予想を裏切って好調な経営を見せている Outback Steakhouseなどのチェーンのように、新しいソフトウェア・ビジネス 環境で成功を収める者もいるかもしれない。

しかし、生き残ったこのような企業も、Outback程度の 利益と財務諸表 を手に入れることはできるかもしれないが、シリコンバレーのソフトウェア業界で かつて見られたような億万長者になることはできないだろう。

ビジネスとしてのソフトウェア産業がなくなることはないだろう。ただしこれまでと 違うのは、有能な経営者を持つ企業が一人勝ちし、その他の企業は消えて いく他の業界と何ら変わりのない、普通のビジネスになるということだ。

これが良い知らせか悪い知らせかということは、近ごろよく言われる「ソフトウェア 生態系」のどこに身を置いているかによって変わってくる。確実に勝者となる のはユーザだ。今までと同じ額で、より多くの、そしてより高機能なソフトウェアを 入手できるようになる。メーカ側では、大企業のトップから、求職中の情報科学 の学生まで、大勢の人々が苦しむことになる。学生たちは、ソフトウェア業界 の再編に伴う痛みを誰よりも先に味わっている。業界の他の人々はまだ感じて いないかもしれないが、それも時間の問題だ。