マテリアルズ・インフォマティクスの研究開発動向 ~データ駆動型材料開発におけるグラントとスタートアップ分析~

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アスタミューゼ株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長 永井歩)は、先端半導体に関する技術領域において、弊社の所有するイノベーションデータベース(論文・特許・スタートアップ・グラントなどのイノベーション・研究開発情報)を網羅的に分析し、動向をレポートとしてまとめました。
はじめに:データ駆動型材料開発とは
「データ駆動型材料開発」とは、情報科学を活用して材料の探索・試作・評価を行う、新しい材料開発を指します。データ駆動型材料開発においては、材料・素材に関する知見だけでなく、情報通信技術もオリジナリティとなりえます。

例えば、2024年1月、Microsoft社がパシフィックノースウエスト国立研究所との共同研究についてレポートしました。量子コンピューティングとAIを活用し、リチウムイオン電池において安全性が高くリチウム含有量を減らす新材料の探索を行い、約 3,200 万の無機材料から有望候補 18 種類を80時間で絞り込んだ、と発表しました(注1)。

注1: https://news.microsoft.com/source/features/sustainability/how-ai-and-hpc-are-speeding-up-scientific-discovery/

このように、材料開発において情報通信技術が存在感を増している状況を受けて、日本でも開発におけるデータ活用を支援する取り組みが進められています。

例えば、文部科学省は、2021年度から、実験の先端設備を導入・共用し、マテリアルデータを収集・蓄積して提供する「マテリアル先端リサーチインフラ」事業を開始しました。材料開発にデータサイエンスを有効利用するため、データベース及びデータ提供体制の構築が進められています。

かつての新物質や新材料の開発は、これまでに得た知識や知見を元に研究者が仮説を立て、それに基づいて進められることが一般的でした。これは研究者の経験や勘に大きく依存していました。1990年代には、目的とする物質をいくつかのブロックに分け、各ブロックの候補物質を組み合わせて、類似の操作を適用し、化合物群を合成する「コンビトリナル合成」と呼ばれる手法が確立されました。しかし、実際に合成できる物質の範囲には限界があり、大量に合成された化合物群を評価するためのスクリーニングを実験で行うには、時間と労力がかかるという課題がありました。

人の手で実験的に行っていたスクリーニングを、シミュレーションなどの機械的・仮想的なアプローチも活用することで、探索できるデータの範囲を拡大できる可能性があると考えられます。そこで、データサイエンスを駆使した材料開発手法である「データ駆動型材料開発」には、従来は経験や勘、人手に頼っていた開発過程を合理化・自動化し、生産性を高めることが期待されています。この手法の具体的な価値としては、製品性能の向上、新材料の創出、資源使用量の削減、開発期間の短縮、実験事故の被害軽減、そして開発プロセスの標準化などが挙げられます。

データ駆動型材料開発の主な構成要素として、以下のものが挙げられます。
– マテリアルズ・インフォマティクス:材料や物質のデータベースを活用し、機械学習や計算シミュレーションを用いて新規材料や物質の設計・探索を行う
– 計測インフォマティクス:データサイエンスを活用し、高精度な計測や実験データの解析を行う
– プロセス・インフォマティクス:材料の製造工程(材料を構成する物質の合成経路や温度・圧力などの条件)を最適化する
– 自動・自律実験:ロボットやAIを用いて実験操作を自動化・最適化する

この中でも、マテリアルズ・インフォマティクスは「何を作るか」を扱う、データ駆動型材料開発の根幹となる技術です。新物質の設計を通じて、材料の機能向上や新材料の発見に貢献できると考えられます。さらに、物性予測を通じて実験結果を推測できるため、実験の実施回数を減らし、失敗や事故のリスクを軽減することも可能です。そのため、マテリアルズ・インフォマティクスは上述した価値を幅広くもたらす技術といえます。

本稿では、情報通信技術を活用した新規材料や物質の設計・探索に焦点を当てて、アスタミューゼ独自のデータベースを活用し、マテリアルズ・インフォマティクスの開発動向を見ていきます。
マテリアル・インフォマティクス関連技術の研究予算の動向
グラント(科研費などの競争的研究資金)には、まだ論文発表に至っていない、新たなアプローチや研究に対する資金が含まれていると考えられます。

アスタミューゼでは、キーワードの出現数の年次推移を算出することで、近年伸びている技術要素を特定する「未来推定」という分析を行っており、萌芽的な分野の予測をしています。キーワードの変遷をたどることで、すでにブームが去っている技術やこれから脚光を浴びると推測される要素技術を可視化することができ、これから発展する技術や黎明・萌芽・成長・実装といった技術ステータスの予測が可能です。

図1に2012年から2023年までの、マテリアルズ・インフォマティクスに関わるグラントの研究概要に含まれている特徴的なキーワードの年次推移を示します。
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図1:マテリアルズ・インフォマティクスに関わるグラント文献に含まれる特徴的なキーワードの年次推移

成長率(growth)は全期間の文献内における出現回数に対する、後半6年間の文献での出現回数の割合を表します。その数値が1に近いほど直近に多く出現しているとみなせます。

「data-centric」や「data-driven」といった、データ主導での開発を志向する語が成長率の上位に見られます。マテリアルズ・インフォマティクスの基礎的な開発は進んでおり、開発の中心と位置付けられるほどの信頼を得つつあると考えられます。また、絶対数は少ないものの「doped-covalent-bond(ドープした共有結合)」、「semiconductor-design」といった半導体の開発に関連する語も見られ、特定の構造や分野への適用を目指した研究も開始されていることがうかがえます。さらに「metamine」や「xenopy」といったオープンソースの解析ツールに関する語も見られ、研究結果を共有する取り組みが進められていることも伺えます。

図2は、2012年から2023年の期間で、マテリアルズ・インフォマティクスに関連するグラントプロジェクトの件数が上位5つの国の動向です。ただし、中国はグラントデータを非公開としており、実態を反映していない可能性が高いため除外しました。また、公開直後のグラント情報にはデータベースに格納されていないものもあり、直近の集計値については過小評価されている可能性があります。
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図2:マテリアルズ・インフォマティクスに関連する研究プロジェクト件数の国別の推移(2012~2023年)

図3は、研究プロジェクト配賦額の、国別の推移です。配賦金額はプロジェクト期間で均等割りし、各年度に配分して値を集計しています。たとえば3年計画で3万米ドルのプロジェクトは、各年に1万米ドルを計上しています。
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図3:マテリアルズ・インフォマティクスに関連する研究プロジェクト賦与額の国別の推移(2012~2023年)

件数および研究配賦額の両方で、米国が1位となっており、特に配賦額では他国を大きく引き離しています。この背景には、米国において早期に政権主導の国家プロジェクトが立ち上がったことがあります。

米国では、2011年にオバマ政権主導のもと、Materials Genome Initiative (以下、MGI)という、先駆的な国家プロジェクトが立ち上げられました。MGIは、最新技術を活用して、従来の2倍の速さでの材料開発を実現することを目指しています。これまでに、新規物質・材料の設計開発に特化したプログラム「DMREF」の発足、計算手法と最先端の実験設備の開発を扱う研究センター「CHiMaD」の設立、そして材料特性を提供するオープンアクセスデータベース「Materials project」の構築などが実施されました。

政権主導ということもあり、MGIでは2016年までに5億ドルもの資金が投じられました。それ以降も各省の予算において取り組みは続けられており、2021年には計算・実験ツールやデータインフラストラクチャの統合、人材の教育などが含まれた戦略計画を公表されました。さらに、2023年にはNSF(National Science Foundation)が材料設計分野に対して7,250万米ドルの追加投資を決定しています(注2)。米国においては、引き続きマテリアルズ・インフォマティクスへの巨額投資が継続されていくと考えられます。

注2:https://new.nsf.gov/news/nsf-invests-72m-design-revolutionary-materials

MGIにおける米国の取り組みが諸外国に刺激を与え、米国のみならず他国でも巨額の資金が配賦されたプロジェクトが立ち上がっています。以下に配賦額の高いグラントの事例を紹介します。
– Battery Interface Genome – Materials Acceleration Platform
– – 研究機関/企業:Technical University of Denmark他
– – グラント名/国:CORDIS/EU
– – 研究期間:2020~2024年
– – 配賦額:約2,200万米ドル
– – 概要:人工知能、高性能コンピューティング、大規模かつ高スループットな特性評価を活用してバッテリー材料を開発するためのモデルを構築し、その結果をバリューチェーン全体で活用して製造を促進するための取り組みを実施
– Predictive Hierarchical Modeling of Chemical Separations and Transformations in Functional Nanoporous Materials: Synergy of Machine Learning, Electronic Structure Theory, Molecular Simulation, Electronic Structure Theory, and Experiment
– – 機関/企業:University of Minnesota 他
– – グラント名/国:DOE/米国
– – 研究期間:2021~2023年
– – 配賦額:約1,700万米ドル
– – 概要:ナノ多孔性材料に特化し、吸着および反応特性を予測するための理論化学と機械学習を活用した手法を開発
– NCCR MARVEL: Materials’ Revolution: Computational Design and Discovery of Novel Materials (phase III)
– – 機関/企業: Swiss Federal Institute of Technology in Lausanne他
– – グラント名/国:NCCR /スイス
– – 研究期間:2022~2026年
– – 配賦額:約1,500万米ドル
– – 概要:データベースドリブンのハイスループット量子シミュレーションを活用した材料情報プラットフォームを通じて、特にエネルギー、情報通信、医薬品の領域における新しい材料の設計と発見を加速することを目指したプロジェクト
– 最先端のAI技術を用いたマルチターゲット予測と構造発生を組み合わせた包括的な創薬AIプラットフォームの開発
– – 機関/企業:国立研究開発法人理化学研究所
– – グラント名/国:AMED/日本
– – 研究期間:2020~2025年
– – 配賦額:約16億円 (約1,100万米ドル)
– – 概要:創薬研究者へのアンケートを行いながら、構造生成・医薬品らしさの予測・合成難易度予測・特許性評価のそれぞれに対してAIを開発。新規医薬品物質とその合成経路を探索する、製薬企業、アカデミアの創薬研究者向けのプラットフォームを構築。

マテリアル・インフォマティクスに関するスタートアップ企業の動向
※スタートアップ企業の動向分析とまとめについては以下、弊社サイトでご確認ください
https://www.astamuse.co.jp/report/2024/240905-mi/

著者:アスタミューゼ株式会社 神田 知樹 修士(工学)
さらなる分析は……
アスタミューゼでは「マテリアルズ・インフォマティクス」に関する技術に限らず、様々な先端技術/先進領域における分析を日々おこない、さまざまな企業や投資家にご提供しております。
本レポートでは分析結果の一部を公表しました。分析にもちいるデータソースとしては、最新の政府動向から先端的な研究動向を掴むための各国の研究開発グラントデータをはじめ、最新のビジネスモデルを把握するためのスタートアップ/ベンチャーデータ、そういった最新トレンドを裏付けるための特許/論文データなどがあります。

それら分析結果にもとづき、さまざまな時間軸とプレイヤーの視点から俯瞰的・複合的に組合せて深掘った分析をすることで、R&D戦略、M&A戦略、事業戦略を構築するために必要な、精度の高い中長期の将来予測や、それが自社にもたらす機会と脅威をバックキャストで把握する事が可能です。

また、各領域/テーマ単位で、技術単位や課題/価値単位の分析だけではなく、企業レベルでのプレイヤー分析、さらに具体的かつ現場で活用しやすいアウトプットとしてイノベータとしてのキーパーソン/Key Opinion Leader(KOL)をグローバルで分析・探索することも可能です。ご興味、関心を持っていただいたかたは、お問い合わせ下さい。
– コーポレートサイト:https://www.astamuse.co.jp/
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提供元: PR TIMES