ボリバル・コンピュータの夢

米国に蛇蝎のごとく嫌われている南米ベネズエラのチャベス政権が、フリーソフトウェア/オープンソースを熱狂的に支持していることはよく知られている。このところRMSも毎年のようにベネズエラを訪問しており、たぶん来月も行くはずだ。

そのチャベス率いるベネズエラ政府が、今度は「ボリバル・コンピュータ」と銘打って、自らPCを作って売るらしい(Tectonicの記事)。ボリバルとは南米独立の英雄シモン・ボリバルのことで、「ボリバル主義」というのがチャベスのオハコなのだが、ようは外国(というかアメリカ)支配のくびきを脱して南米で何事も自給自足しよう、というような気概を名前で示しているわけだ。当然組み立てはベネズエラで行い、搭載されるのはGNU/Linuxである。具体的にはベネズエラの軽工業・商業省と中国資本が共同出資でジョイント・ベンチャーを設立し、そこが生産するという運びになるらしい。ようするに中身は中国の技術なんでしょう。デスクトップもラップトップもやるようで、見たところ(少なくともデザインは)結構良さそうだ。ちょっと欲しくなってしまった。基本的には国内向けなんでしょうがね。

他のブランドの類似製品は930ドルしますが、私たちのコンピュータの価格は40%も安い。しかもオープンソース・ソフトウェアが搭載されていて、3年間の保証も付きます。他のブランドはわずか1年しか保証がないのに。
と大統領自ら述べるあたり、チャベスは自分を扱っている製品がどのようなものかよく分かっているような印象を受ける。よく勉強しているのか、あるいは良い助言者が付いているのだろう。

ベネズエラのみならず、いまや南米は「オープンソースの大陸」となりつつある。去年ボストンでのGPLv3 Conferenceに出席した際、南米から来た人たちが政治的に非常に先鋭で、またかの地でのフリーソフトウェア/オープンソース運動が当地の政治的な(往々にして社会主義的な)アジェンダと密着していることに辟易したことがあった。とは言え経験上こうした「活動家」タイプの人は言うだけで何もしないことが多いので、どうせ大したことはあるまいと高をくくっていたところもあったのだが、こうして実際にいくつかの動きが現実化してくるのを見ると、私はとんだ思い違いをしていたと言わざるを得ない。連中本気だったのね。

個人的にはあまり政治的なことにかかわりたくないと思ってきたし、それは現在でも変わらない。だが、今はGoogleすらロビイングに本腰を入れるご時世である。著作権や特許がらみの話もそうだが、私たちも自分たちの権利を守るため、もう少し政治的にアクティヴに行動すべき時期に差しかかっているのかもしれない。