SourceForge.JPプロジェクト開発者インタビュー:M+ FONTS
「M+ FONTS」(エムプラス フォント)は日本語ゴシック体を含むFreeなフォントセットです。ビットマップフォントおよびTrueTypeフォントが用意されており、またウェイト(太さ)ごとにフォントファイルが用意されてます。単体で利用されるほか、VLゴシックなどほかのフォントと組み合わされての利用も盛んです。今回はM+ FONTSのメイン開発者でありプロジェクト管理者のcozさんこと森下浩司さんから、現在も拡張を続けるM+ OUTLINE FONTSのお話を中心に伺いました。
- プロジェクト名: M+ FONTS
- 登録日: 2002-10-21 23:36
- URL: http://mplus-fonts.sourceforge.jp/
- プロジェクトホーム: http://sourceforge.jp/projects/mplus-fonts/
- ライセンス: M+ FONTS License
- 主要対話語: 日本語
- プロジェクト管理者: coz
- プロジェクトメンバー imazu、kanou、koron
最初に森下さんの経歴を教えてください
デザイン学校に通っていた頃、担当講師の推薦でとあるデザイン事務所にアルバイトとして転がり込みました。当時から第一線で活躍されていた先生の元で経験を重ね、やがて正式採用となり、チーフデザイナーの一人として認められるようになりました。1989年からはロットリングペンの替わりにMacintosh IIでロゴタイプの制作などを行うようになり、個人のためのコンピューターが現実のものになったことを確信します。1994年に13年半勤めた事務所を退職。商業デザインの現場から離れて結婚し、2000年に双子の子どもが生まれました。現在は義父の家で家業を手伝っています。
M+ OUTLINE FONTSとはどのようなものでしょうか? また、その特徴は?
保証に対する免責事項以外、特に制限のないライセンスで公開されているオリジナルフォントです。フリーフォントとしては類型の無い「モダンゴシック」系デザインと、豊富なウェイトバリエーションが特徴です。
2種類のかな文字に7種類の欧文グリフを組み合わせ、プロポーショナルフォントが4種類(各7ウェイト)、固定幅フォントが3種類(各5ウェイト)用意されています。共用される漢字は2009-08-01時点のCVSで1,725文字。既に教育漢字が揃い、次の目標である常用漢字の完成を目指して作業中です。日常的で平易な文章の表示であれば「時々、足りない漢字が出てくる」程度の含有率になりました。UNIX/Linux系OSやMac OS Xなどでは自動的に補完されるので、画面表示用としてほぼ実用的な段階になったと思っています。プロポーショナルフォントではラテン文字の他に主要なギリシア文字、キリル文字、国際音声記号、演算子、特殊記号などが揃い、多言語フォント、多目的フォントとしての利用も可能です。
デザイン面での特徴(として実現できていれば良いのですが、目的としていること)は、あくまでも普段使い用として多くの方に親しんでもらえる造形にあります。一部の先端的な方だけにしか理解されないような造形や、目立つことのみを目的とした「個性」とは対極の、使用する方が親しみを感じる文字でありたいと思っています。かといって、ただ「甘い」だけの文字にはしたくありませんので、その兼ね合いの実現にデザイン技術が必要となります。
M+ OUTLINE FONTSのターゲット・ユーザーは?
PCや携帯端末を利用する全ての方々。と言いたいところですが、現状では足りない漢字が自動的に補完される環境に限定されます。しかしVLゴシックなどの合成フォントを利用することで、より多くの環境の方にも試していただけるようになりました。
固定幅フォントの英数字はプログラム作業での利用を重視し、M+ BITMAP FONTS制作時から頂いている多くのご意見を元に識別性の高い字形を心がけています、プログラマーの方々にはぜひお勧めしたいと思います。
M+ OUTLINE FONTSあるいはプロジェクトについて誇れるところは?
自分自身には文字文化や言語文化の知識も無く、ただ表層的に字面をデザインすることしかできません。そんな様子を見かねた国内外の多くの専門知識を持った方々からご協力をいただき、自分でも驚くほどの拡張性を持ったフォントに成長を続けています。そもそも自分一人の力では、単なる文字デザインをフォントとして形成することさえ不可能でした。このような多くの方々から持ち寄られた無償の専門知識、専門技術の集積こそが M+ を支える核心であり、誇れるところだと思います。
なぜ、M+ OUTLINE FONTSを作ろうと思ったのでしょうか?
グラフィックデザイナーとして文字に接していた者であれば誰でも、もし自分で書体を作ることができたらどんなに素晴らしいことだろうと考えたはずです。しかし大抵のデザイナーは日々の仕事に追われ、いつしかそんな夢を忘れてしまいがちです。幸いにも自分は商業デザインの現場から離れていたことで、逆に自由な時間を得ていました。技術的な問題は現プロジェクトメンバーが次々と解決してくださり、夢に描いていたことを現実に移す決心がつきました。
M+ OUTLINE FONTSをフリーなフォントとして公開した理由は何ですか?
以上のように、M+ FONTSは多くの方々の無償のご協力が無ければ絶対に実現できなかったものです。その大切な成果を独り占めしようとは思いもしませんでした。また何かを制限するということは、どこかで線を引く決断をしなくてはならないということです。そのようなことで悩みたくはありませんし、制限することで自分に生じる義務も負いたくはありませんでした。
また、フリーにすることでM+ FONTSを下敷きにした新たなフォントが生まれるかもしれませんし、もしかしたら未来の技術で、今は実現不可能と思われる様々な問題が解決されるかもしれません。その日が 5 日後でも、5 年後でも、50 年後でも、自分の存在の有無に関わらず、誰もが安心して利用することができるものを残すことができれば、創造する者としてこれ以上の名誉はありません。
M+ OUTLINE FONTSという名前の由来は?
1996年頃、複雑化する Mac OS への悪戯心から、極力シンプルで見通しの良い環境を模索し始めました。中古のSPARCstation 2を用意して、素人なりにSunOS + X11 + FVWMの環境を設定し「M+」と名付けました。「M」は Minimum の「M」、「+」は Minimum 以上の「何か」を意味しています。ただMinimumなだけではデザインになりません、「何か」の部分がその設計思想を際立たせ、普遍的な魅力を付加することになると信じているからです。
機材の変遷とともにOSも NetBSD、Linux(LFS)と変わりましたが、画面表示の重要な要素であるフォントが手付かずの状態だったことに我慢できず、2002年にM+ BITMAP FONTSの制作を始めました。当時すでにビットマップフォントは時代遅れなものという認識が一般的だったので、あえて「BITMAP」と強調しました。その後アウトラインフォントを制作することとなり、M+ BITMAP FONTSに対しての「M+ OUTLINE FONTS」と名付けました。
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M+ OUTLINE FONTSの製作環境や製作方法、プロジェクトの今後など、インタビュー全文はSourceForge.JP 今月のプロジェクトページに掲載されていますので、そちらもご覧ください。