ウィジェット開発に注目したOperaコンテスト

昨年6月、Opera Softwareは同社Webブラウザの最新版リリースに伴い、ウィジェット ― デスクトップ上の独自ウィンドウで実行される小さなWebアプリケーション ― を導入した。現在、同社はプログラミング・コンテストの開催によってウィジェット作成の活性化をねらっている。

Operaウィジェットは、KDEGNOME、Apple、Yahoo、DesktopXによる各種ウィジェットエンジンの他、今ではMicrosoft製のウィジェットエンジンでも利用可能な「ガジェット」やその他のデスクトップアプレットに類似している。たとえばJakub Adamczyk氏作のArtist’s Sketchbookというウィジェットは、PhotoshopやGIMPにこそ及ばないものの、Microsoft Paintをはじめとするそれほど高度でない画像編集プログラムには負けない見事な描画プログラムだ。Adamczyk氏のプロジェクトは他にもあり、なかでもSimAquariumは奥が深くて病みつきになる。Maxis社の初期のゲーム群と並んで販売されていたのが想像できるほどだ。

Operaウィジェットは、単純で奇抜なものから秀逸で有用なものまで多岐にわたる。シンプルなものとしては、必要最小限の機能だけを持つメール通知ソフトGmail Checkerや基本的なToDoリストマネージャdotooがある。もっと複雑なウィジェットとしては、グラフ作成ユーティリティFunctions 3Dや太陽系モデラPlanetWerksのようなものがある。一方、Write!やChartsは、基本的なオフィス生産性アプリケーションの機能をWebブラウザに提供する。またゲームにも、スクロール型シューティングGalaxy FighterからCircular Tetrisまでさまざまなものが存在する。Operaのウィジェットホームページには、さらに多くのウィジェットが用意されており、これらのウィジェットはWindows、Linux、Mac OS X用のOperaで実行できるほか、携帯電話などOperaがサポートしている多種多様なプラットフォームに対応している。

業界にコンテストを導入

現在Operaは、Opera Widget World Cupコンテストを開催している。こうしたきっかけがないとウィジェットの恩恵に預かれなかったかもしれない開発者に動機を与えるためのものだ。それぞれの予選国で11月15日までのダウンロード数が最多となったウィジェットの開発者13名には、1,000ユーロの賞金が贈られた。ただし予選国として認められたのは、ダウンロード数500以上のウィジェットが最低5件存在する国である。現在、各予選国の優勝者は2,000ユーロの賞金がかかった世界一の座を競い合っている。この賞金を獲得するには、ダウンロード件数25,000以上という条件をクリアし、かつ審査員に選ばれなければならない。

Operaがサードパーティによる開発を奨励するためにコンテストや賞品を利用する試みは、今回が初めてではない。これまでにも、総合最優秀ウィジェットに対する賞品として「ハイパフォーマンスなゲーム用」コンピュータを用意したThe Gatheringや、「最も感銘深いウィジェットを作成した開発者」を対象として毎週1名にThinkGeekの「お楽しみ袋」を、毎月3名にNokia 770sを、そしてグランプリ受賞者には15インチのMacbook Proを贈呈したWidget Idolのようなコンテストを開いたり、すべてのウィジェットに”Close”ボタンが要求される新スタイルのガイドラインを満たした作者にOpera WidgetのTシャツをプレゼントしたりしている。直近のコンテストでは、賞品として任天堂のWiiとDS Lite、そして8つの「お楽しみ袋」が用意され、審査の一部はOperaコミュニティが行うことになっている。なお、これらの任天堂ゲーム機にはOperaブラウザの移植版が搭載されている。

Operaによるコンテストは、フリーソフトウェアの世界でよく利用される報奨金制度によく似ている。こうした制度では、プログラマが成果物の対価を得ることも利益目当てに成果物を売ろうとすることもない。むしろ彼らは、より良い方向にコミュニティを発展させる特別な役割を担うことにやり甲斐を見出しているのだ。Opera Softwareのテクニカル・エバンジェリストであり、ブログOperaWatchの主筆も務めるDaniel Goldman氏は、次のように話す。「Widget World Cupのようなコンテストは、優秀で創造力のある開発者が確実に自分の開発成果の認知度を高めるためのすばらしい手法だ。開発者は自らのウィジェットの普及と売り込みにこのコンテストを活用することもできる。我々のサイトからのウィジェットのダウンロード件数はすでに200万以上にのぼっている」

今回のコンテストには、ウィジェット開発者たち自身も賛同しているようだ。ブラジルの国内予選を勝ち抜いたウィジェットTrue HTML Editorの作者Guilherme Campos氏は「国内予選の賞品が、私にとって最も大きな動機付けになった」と話している。ポーランドの国内予選を勝ち抜いたSimAquariumなど、数々の注目すべきウィジェットの開発者Adamczyk氏も同じように感じている。「何より、ウィジェットの作成は楽しく、それに(比較的)易しい。私が初めてウィジェットを開発したのは、HTMLやJavaScriptを使って小さなアプリケーションを作ることは良いアイデアだと単純に思ったからだ。でも一番の動機は、賞品のMacBook ProとOperaによるWidget World Cupだった」

だが結局のところ、コンテストだけでは十分でないかもしれないことをウィジェット開発者たちは認めている。Campos氏は「趣味でウィジェット開発をする人々にとっては良い動機付けになるだろうが、専業の開発者にウィジェットを開発させるにはあまり良いアイデアとは言えない」と話している。

ウィジェット開発で稼ぐには

Operaは同社のウィジェット仕様をW3Cに提出し、オープンスタンダードとして承認を得ようとしている。OperaによるW3Cのウィジェット仕様では、ウィジェットをHTML、CSS、JavaScriptのような標準で解釈されるWebテクノロジで配布し、ZIPファイルとしてアーカイブ化すること ― よって、すべてのウィジェットがオープンソースソフトウェアであること ― が求められる。現在、Operaコミュニティにふさわしいのがオープンソースとクローズドソースのどちらのウィジェットなのかが議論の的になっている。

当面は、ウィジェットでお金を稼ぐ方法が他にほとんど存在しないため、ウィジェット開発者はコンテストの賞金に頼らざるを得ないだろう。開発者は自作ウィジェットに対して好きなライセンスを指定できるが、ソースコードは保護されていないZIPファイルに格納されるため、制限的ライセンスの遵守をユーザに期待するのは現実的ではない。ユーザによるおせっかいな修正が行われた事例がすでに少なくとも1件発生している。Adamczyk氏のSimAquariumの難易度を下げるために別のOperaユーザがこのウィジェットに変更を加えたというもので、この行為は後になってAdamczyk氏によって容認された。SimAquariumのダウンロード件数は約250,000にのぼり、Opera.comのWebページに寄せられたいくつかのコメントからは、このウィジェットのためなら快くお金を払っただろうという人々がいるほど喜ばれている様子が伺える。

他のオープンソースソフトウェアと同様、関連サービスの提供によって開発者が収益を得ることは可能だ。ただ残念ながら、ウィジェットのサポートプランや市販パッケージにお金を出す人は少ないだろう。ウィジェットの作者は保護されたプロプライエタリなバックエンドサーバからのコンテンツ取得を強制的にウィジェットに行わせることも可能だが、こうしたやり方は作者の側に間接的なコストをかけることになるし、すべてのウィジェットに適した方法とも言えない、とGoldman氏は述べる。

また、Adamczyk氏は次のように話している。「ウィジェットを直接売ることに多くの可能性があるとは思えないが、定評のあるウィジェットに少額で機能を追加できる場があってもよいと考えている。その場合も、ウィジェットそのものはダウンロードを無料にしてオープンソースにすることができる。なぜなら、追加機能のほうはサーバ側で実行し、利用登録後に提供することが可能だからだ」

Goldman氏は、収益が見込める最も有力な領域はブランディングだと示唆する。たとえばスポーツニュースの大手配信元が、競合他社からではなく自分たちの情報網から確実に最新ニュースをファンに届けたいと考えるなら、コミュニティから開発者を1人雇い、コンピュータや携帯電話からアクセス可能なOperaウィジェットを開発することができる。コンテンツプロバイダは可能ならどこでもマインドシェアの獲得をねらっているが、Goldman氏によれば、有益なウィジェットを提供することがその第一歩になるそうだ。すでに、そうした活動が適切だと考える企業が少なくとも1社、存在すると彼は言う。「我々の見たところ、データプロバイダは顧客へのデータ配信の手段としてOperaウィジェットに相当な関心を寄せている。たとえばAccuWeatherは最近、同社の気象情報ページのすべてにOperaの気象情報ウィジェットtouchtheSkyをダウンロードするためのリンクを追加した」。このtouchtheSkyは、今回のコンテストで英国予選を勝ち抜いたウィジェットだ。

問題はクローズドソースとオープンソースの対立ではなく、むしろクローズドスタンダードとオープンスタンダードの対立に関わるものだ、とGoldman氏は主張する。開発者側の知的財産を保護するある種のプロプライエタリなウィジェット形式を実装することで、Operaは他のブラウザによるOperaウィジェットのサポート可能範囲を制限することもできた。だがOperaはむしろ正反対のアプローチをとり、標準化に向けてその仕様をW3Cに提出することによって、他のブラウザがOperaのウィジェット形式を利用することを奨励しているのだ。

これについてGoldman氏は次のように語る。「仮に各種ウィジェットがオープンスタンダードに基づいていれば、ウィジェット開発者はもっと恩恵を受けることができただろう。というのも彼らのウィジェットは、特定のプラットフォームやOSに縛られずに済んだはずだからだ。ウィジェット向けのオープンスタンダードが存在すれば、開発者はすべてのプラットフォームやデバイスを対象としたウィジェットを開発することができる。しかし同時に、W3Cの規格Widget 1.0のレビューページには、「ウィジェットにはそのコンテンツへのアクセスを回避する何らかの手段を持たせるべきとの提案が出ている」という一文が含まれている。

大半のフリーソフトウェア開発者はオープンスタンダードへの傾倒を支持するだろうが、Operaコミュニティのなかには自らのウィジェットをプロプライエタリなクローズドソースのソフトウェアとして販売したいと要望する者もいる。他方、ウィジェットのソースコードをオープンにして入手可能にする、あるいは開発者にその選択を委ねることに賛成する者もいる。Campos氏は「誰もがソースを入手できるかどうかは気にしない。ただOperaコミュニティにはオープンソースのウィジェットがふさわしいと思うので、私がソースを非公開にすることはないだろう」と話している。Campos氏はオープンソース・アプローチの価値を認め、Widget World Cupコンテストにも満足しているが、その他の可能性については現実的な見方をしている。「ウィジェットを作るのは好きだが、妻と娘、それに多数の請求書の存在は無視できない。自作のウィジェットを売って十分な生活費が稼げるのなら、喜んでそうしたいのだがね」

Adamczyk氏は「ウィジェットの大半はオープンソースが好ましいと思うが、選択の余地があってもよいというのが私の意見だ。開発者は自分のウィジェットをオープンにするのかクローズドにするのか、その形式を選べるべきだ。そのこと自体がユーザのコミュニティにとって大きな問題になることはないだろう。むしろ開発者にとって重要なことだ。オープンソースを好む人もいれば、クローズドソースを好む人もいる」

Campos氏も選択制を支持している。「開発者は、ウィジェットをオープンソースにするかクローズドソースにするかを選択できる必要がある。Operaコミュニティにとってはオープンなウィジェットのほうが良いと思うが、ウィジェット開発者にとっては必ずしもそうとは言えない。広告付きのウィジェットがその例だろう。開発者は優れたウィジェットを作るためにお金と時間をかけ、収益を得るためにちょっとした広告を付けることもある。このウィジェットがオープンソースなら、誰でもとても簡単に「広告なし」バージョンを作ることができるわけだ。私はオープンソースもクローズドソースも擁護していない。開発者がウィジェットをクローズドにするかオープンにするかを選択できる権利の正当性を主張しているに過ぎない」

Campos氏は、フリーソフトウェアの考え方の理想と実現から個人的に恩恵を受けた人物だ。1,000ユーロの賞金を彼にもたらしたウィジェットは、htmlEditorという別のウィジェットのソース解析中に見出したあるコンセプトを借用したものだ。そこから「ソースの入力時にWebページを表示する方法を発見した」のだという。

ウィジェット開発の容易さは、経験の浅い開発者を惹き寄せることになりそうだ。たとえば、Adamczyk氏がオープンソース・ライセンスの下でリリースした最初のコードは、自作ウィジェットのいくつかであり、BSDライセンスの下でリリースされたものである。「あらかじめHTML、JavaScript、CSSについての知識があればOperaウィジェットの作成プロセスはとてもシンプルで、新参の開発者でも自力でウィジェットを作れるほど簡単だ」とGoldman氏は言う。

革命を起こすほどのことではないかもしれない。だが、オープンソースが特別なものではなく標準になっている環境で、経験の浅いプログラマたちが簡単なアプリケーションを作ることができるなら、彼らはきっとフリーソフトウェアの恩恵を理解することだろう。

NewsForge.com 原文