オープンソース界に多大な貢献をするオレゴン州立大のホスティングサービス
OSLのホスティングサービスを受けているプロジェクトにとって、OSLは日々の開発やダウンロードに欠かせない存在である。
Gentoo Linuxの理事でインフラストラクチャリーダーであるKurt Lieberは次のように述べている。「今日のGentooがあるのはOSLの支援のおかげである。OSLは長きにわたり、無料ホスティングや帯域幅およびハードウェアの無償提供といった形で我々を支援してくれている。さらに、OSLの構築するミラーインフラストラクチャは非常に堅牢でスケーラブルであり、最大1Gbpsの容量を実現している。おかげさまで、我々が新しいバージョンのGentooをリリースしたときでも、ダウンロードの問題はめったに起こっていない」。またOSLのサービスは模範的であると述べ、「実際、OSLは私が商業ベンダに期待する以上のものをさまざまな面で提供してくれている」と語っている。
「彼らは、『契約条項に照らして何をする義務があるか』ではなく、『どうしたらGentooの力になれるか』という観点から物事を考えてくれている」というのがLieberの評価だ。
Drupalの設立者であるDries Buytaertは、同プロジェクトのハードウェア(2台の専用Webサーバ、1台の専用データベースサーバ、1台の電子メール/CVSサーバ)はいずれもDrupalが用意したものだが、帯域幅や電力などのセットアップはOSLに負っていると述べている。「OSLはセットアップの設計に協力し、全マシンのインストールを行ってくれた。さらに、非常にありがたいことに、Drupalのインフラストラクチャの日々のメンテナンス作業(つまりバックアップ、アップグレード、トラブルシューティングなど)にも協力してくれている。彼らがこのような素晴らしいサービスを無料で提供しているのは実に驚くべきことだ。これほどまでの親切を受けるのはそうそうあることではない。OSLはDrupalプロジェクトの重要な貢献者の1人であると言っていいだろう」。
ところで、このオープンソースホスティングサービスはどのようにして生まれたのだろうか、またどのようなインフラストラクチャによって、巨大なLinuxカーネルのディスカッションやFirefoxなど各種プロジェクトのダウンロードに対応しているのだろうか。OSLのAssociate DirectorであるScott Kvetonと彼の部下の協力により、OSL誕生の経緯を聞くことができた。
Kveton:8年ほど前、たいへんな浪費家のCIOが我々を残して東部に去りました。オレゴン州立大のIT学部には大きな荷物が残されました。年間予算400万ドルに対して600万ドルの借金があったのです。大学当局は、この借金を返済し終わるまでIT学部の年間予算を100万ドルに切り詰めることに決定しました。全額返済までには6年かかりました。
その間、在学者数は13,000人から19,000人に増え、キャンパスのインターネット利用やネットワーク利用は急増しました。需要は増える一方で、それに応えるためにかなりのリソースを増設する必要がありました。私は2001年にドットコム業界から大学に戻ってきました。私は限られたIT予算の中でたくさんの仕事をこなさなければならない一介のシステムエンジニアでした。我々には今までどおりすべてをSunマシンでまかなう予算はなかったので、低価格のハードウェア上でLinuxを動かすという道を選ぶのは当然の流れでした(具体的にはDellマシンとDebianを使用しました)。
かいつまんでお話しますと、我々がすべてのコアインフラストラクチャをオープンソースで実現しようと考えたのは、他に選択肢がなかったからです。結果的には、Sunのハードウェアを使った場合の年間経費の4分の1で、インフラストラクチャ全体をLinuxと低予算のハードウェアに置き換えることができました。5年経った今でも、これらのハードウェアは現役で稼動しています(管理自体は私の手を離れましたが)。その間に、オレゴン州立大学はftp.orst.eduでオープンソースミラーを管理していました。2001年に私が戻ってきたときには、72GのRAID5ディスク領域をSPARCstation 20に接続していました。そう、Sparc20です。当時は、いくつかのLinuxディストリビューションとCPANとidソフトウェアアーカイブをミラーしていました。
NF:オープンソースコミュニティやMozilla、Debian、Gentooなどのプロジェクトの間にWebホスティングのニーズがあるということはどのようにしてわかったのでしょうか。
Kveton:当時行っていたミラーリングのサービスを通じて自然に見えてきたのです。我々は彼らがデータをミラーにアップロードするのを手助けするという立場にあり、限られたリソースの中でも、その仕事に誇りを持っていました。2002年のことです。Corvallis在住の元Gentoo開発者であるZack Welchが私のところにやってきて、これだけオープンソースを利用しているのだから、このうちいくつかのプロジェクトを間借りさせてやってもいいんじゃないかと言い出したのです。Zackは2台のShuttle XPCマシンを寄付してパン棚に設置し、それをGentoo開発者のために使いました。たしかCVSやシェルやWebサイトもそこに置かれていたと思います。Gentooから始まったこの試みは、Freenodeにも広がりました。Freenodeの管理者の中に、Gentoo開発者が何人かいたからです。まもなくDebianにも協力することになりました。これも、いくつかの開発サーバのホスティングのミラーを行っていた関係から出てきた話です。その後、MozillaがAOLと決別し、基盤組織を持たない独立した団体になりました。そこで我々はMozillaのミラーネットワークの管理(最新情報の連絡や次リリースの通知など)を行うようになり、しだいに関係が深まって、Mozillaのサーバをここに設置するという運びになりました。最初に設置されたのは、Mozillaのいくつかの新しいWebサービス(のちのアプリケーション更新サービスとaddons.mozilla.org)を提供する数台のDell 2650でした。
FreenodeからのつながりでArklinuxが、DebianからのつながりでSoftware in the Public Interestが、我々のサービスを利用するようになりました。PHPBBとDrupalは、他のプロジェクトからの口コミでやってきました。Kernel.orgは、それまでのホスティングインフラストラクチャの一部が利用できなくなったときに我々を頼ってきました。我々が選ばれたのは、他に同じサービスをしているところがなかったことと、コミュニティで高い評価を得ていたことが理由であると思われます。今日の形はきわめて有機的なつながりによるものであり、我々は常日頃からパートナーのニーズを満たすべく努力しています。
もう1つ指摘しておきたいのは、我々OSLのチームはただのWebホスティング以上のことをしているという点です。我々はTrac、SVN、CVS、LVS、mailman、Xenといった各種のアプリケーションやサービスの配備を手伝うことによって、各パートナーが「高品質のオープンソースソフトウェアの開発」という目標に専念できるようにしています。我々がしているようなことは、各プロジェクトにとっては進行の妨げとなる周辺作業ですが、我々がそれを比較的大きな規模で引き受けることにより、それぞれの負担を軽減することができます。OSLのインフラストラクチャチーム(Corey、Eric、Matt、Trevor、Michael)は、その辺りのよくあるコロケーションサービスには真似のできない上質なサービスを提供するために誇りを持って仕事をしています。チームのメンバーはこの仕事を本当に大切に思っており、その姿勢は日々の仕事にも現れています。
NF:実際の設備面では、最初はどのような規模から始め、現在ではどのぐらいに拡大しているのでしょうか。
Kveton:最初は文字どおり2台のShuttle XPCと、ミラー用の72GのRAID5ディスクから始まりました。今から3年ほど前の話です。現在では、120台強のサーバで40個ほどのプロジェクトに対応しています。これらのサーバは4台のラックに詰め込まれ、さらにいくつかのパン棚に置かれています。そうです。最初にShuttle XPCを設置した棚がまだ現役で頑張っているのです(笑)。OSLのマシンルームのWebカメラ映像をご覧になると、最新の増設状況がわかります。OSL用に30台を追加し、空きのラックをいくつか入れる予定になっています。この増設は今年の6月までに終わらせる予定です。
NF:オープンソースプロジェクトのための無料または寄付金方式のホスティング/帯域幅サポートとして始まったわけですが、実際のところ、現状で採算が取れているのでしょうか。
Kveton:そこがポイントです。プロジェクトが成功すると、彼らは通常はコミュニティへの寄付もしくは企業献金という形でホスティング費用を出すようになります。プロジェクトによっては採算が合わないこともありますが、Linuxやデスクトップに欠かせないものであれば、特殊な例と考えるようにしています。
NF:この分野では引っ張りだこのホスティングプロバイダですね。
Kveton:ホスティングの基本的なニーズをきちんと押さえているということもあるでしょうが、我々は実際に、持てるすべてのものを使ってできる限り最善のサービスを提供すべく努力しています。チームメンバーはいつもオープンソースコミュニティのためを考えて作業していますし、この姿勢こそが、これまで離れていったパートナーは1つもないという実績につながっていると思います。
NF:プロジェクトのホスティング依頼を断ることはありますか。
Kveton:これまでに断ったことがあるのは、我々が掲げている「コミュニティ主導によるオープンソースプロジェクト」という基準に合わないプロジェクトのみです。過去にいくつかのベンダから、自社のコミュニティサイト(.comサイトに対応する.orgサイト)のホスティングを打診されましたが、大学との契約に反するためお断りしました。それに、そもそもそのような依頼は、オープンソースプロジェクトのコミュニティを支援するという我々の使命とは相容れません。我々は、このホスティングサービスを積極的に宣伝したことは一度もありません。これまでの発展は、まさにオープンソース的なつながりによるものです。ここでホスティングサービスを受けている誰かが話をし、それを聞いた人が我々を訪ねてくるわけです。
NF:オレゴン州立大学OSLは、パートナーであるオープンソースコミュニティから十分な見返りを得ていますか?
Kveton:オープンソースコミュニティの人々は、彼らができる範囲で最大限の支援を寄せてくれています。彼らはマシンやメモリ、ハードディスクを集めてきて、ホスティング用のマシンを我々のために用意してくれています。サービスへの需要は増える一方なので、いずれオンラインの新しいデータセンターを設け、いくつかの企業に設備や資金を援助してもらいながら、より良いサポートをオープンソースコミュニティに提供していきたいと考えています。
私は、このようなオープンソースコミュニティでこそ、真の革新的なコラボレーティブ技術が生まれるのではないかと真剣に思っています。このようなコミュニティは、ただソフトウェア開発を進めやすくするだけでなく、それ以上の可能性を持ったソフトウェアを作成しています。あらゆる人々が何の境界もなくグローバルに協力し合うための基盤を固め、そのための方法論を構築しているのです。
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