FOSSへの道を歩むXara

ソフトウェア開発会社がフリーソフトウェアおよびオープンソースソフトウェア(FOSS)のビジネスモデルに転向するのは難しい、というのが世間一般の考え方である。だが、Xaraの楽観的なCEO、Charles Moir氏には、この考え方が通用しなかったようだ。

Adobe Illustrator、Macromedia FreeHand、Corel Drawのような大手製品に対抗できるグラフィックエディタ、Xara Xtremeで知られるXaraは、フラッグシップ製品をGNU/Linuxに移植する意向を2005年後半に発表していた。

同社は先月、Xara Xtreme on Linux(Xara LX)の第一弾となるコードをリリースした。以来、Xara LXのコードには毎日のように追加が行われている。この移植は、Xaraにとって大きな賭けである ― Moir氏は、文字どおり社運を賭け、FOSS標準への適合と、新しい市場を開拓する機会の獲得に臨むべく、対外的にも社内的にも方針の変更を行ったのだ。

戦略的な移行

Xara LXをFOSSとしてリリースした動機は戦略的なものだ、とMoir氏は率直に認めている。Xara Xtremeは、売り上げは好調ながら、「いつも大手には及ばず、3位か4位の座に甘んじている」とMoir氏は話す。大手と張り合うには、レビューや口コミ、そして価格で勝負するくらいしか方法がなかった。たとえば、Xara Xtremeの価格は、現在、同社のホームページで79ドルになっている。これに対し、Adobe Illustratorは499ドル、MacroMedia FreeHandは399ドルだ。「彼らがマーケティングや開発にどれだけ予算をとっているかは知らないがね」とMoir氏は語っている。

Moir氏は、Corel LinuxやCorel Officeのように、かつてGNU/Linux市場への参入に失敗した製品のことを意識していた。だが、今やマーケットはもっと成熟している、と彼は信じている。さらに、IllustratorやFreeHand ― 今ではどちらもAdobeの製品だが ― それにCorelが、GNU/Linux市場への参入を躊躇している今こそ、Xara LXによってXaraが先手を打つ好機だと考えているのだ。彼は、GNU/Linux市場について「これからまだまだ成長が期待できる」と話している。「小さな市場ではない。数字を信じるなら、LinuxデスクトップにはMacデスクトップと同じくらいのユーザがいる。数百万人規模だ。ということは、我々にとって相当大きな市場なのだ」

同時に、Moir氏は、グラフィック・プログラムをクロスプラットフォームにすることで、リスク分散の効果もあるだろう、と語っている。10年前、Xara Xtremeを初めて開発した頃は、Appleが不調だったので、Windows向けにリリースを行うのが当然だったが、「正直なところ、その選択は間違いだったようだ」とMoir氏は言う。この間違いを繰り返さないという決意だけでなく、ここ数年、AdobeがOS X向けの取り組み意欲をなくしているという噂もあって、クロスプラットフォーム化は、Xaraが競合他社を出し抜くもう1つの方法なのかもしれない。

また、社内的には、Xara LXの開発は、既にOS Xへの移植に役立っている。最終的には、3つのプラットフォームのすべてのバージョンで、多くのコードが共有されることになるということだ。

確かに、グラフィック分野のプロフェッショナルで仕事にGNU/Linuxを使っている人は少ないかもしれない。しかし、この問題を認めながらも、Moir氏は、クロスプラットフォーム化を市場開拓のよい機会と捉えている。また彼は、プロフェッショナルだけでなく、仕事でたまにグラフィックツールを必要とする人々やホームユーザにもXara LXを訴求していく必要があるとはずだ、と語った。

ビジネスモデル

多くの人と同様、Moir氏も彼のアドバイザも、最初はコードを公開することに反対した。「まったく納得がいかなかった」と彼は話している。「製品を無料にしてどうやって儲けを出すのだ、という気持ちだった」 だが、FOSS市場への参入について事前調査をやってみた結果、基本的な条件が明確になった。「はっきりとわかったのだ」と彼は言う。「Linuxの市場で製品を成功させるには、オープンソースでなければならない。それもGNU General Public Licenseの下で公開するのが理想的だ」

ソフトウェアが高品質である限り、これらの基本的条件を満たせば、Xara LXは公式リリースから6カ月以内に「ほぼすべてのディストリビューションに含まれ、大多数のLinuxユーザのデスクトップにインストールされる製品」になりうる、とMoir氏は語る。「もしそうなれば、Xara LXの直接の売り上げがあろうとなかろうと、我々はビジネスを成功とみなすだろう」と彼は述べている。

これらの基本的な条件を確信してすぐに、この移植は長期的なプロジェクトになるだろう、とMoir氏は悟ったのだった。「短期的に利益が出せるとは思っていない。おそらく中期的にも難しいだろう」と彼は言う。Xaraが最初にもたらしてくれるのは、世間からの注目と、FOSS製品によるブランド価値だろう、と彼は述べている。

もう1つの短期的な利点は、Xaraによって、首尾よく開発のコミュニティを構築できれば、大手の競合製品に対抗するために必要な機能を開発できることだ。「我々の先を行く製品と真剣に渡り合うには、開発者が20〜30名必要になる」と述べながらも 「社内だけではとても無理 だが、コミュニティ主導のプロジェクトをうまく組織できれば、それなりの開発スピードが期待できそうだ」と語る。また、コードはプラットフォーム間で共有されているので、XaraのWindowsユーザがこのコミュニティから恩恵を受けることも考えられる。

一方、長期的にXara LXから確実に利益を得る方法は、まだMoir氏自身も明確にできていないようだ。CD-ROM商品や解説書など、サポートや基本的サービスの販売について語っていた Moir氏が気にかけているもう1つの可能性は、独占的コードによる機能を含めた商用版だ。Xara Xtremeには、付属フォントやエフェクトのプラグインなど、サードパーティが所有する機能がたくさんあるが、当然のことながら、これらの機能は、フリー版であるXara LXに含めることはできない。

Moir氏は、こうした独占的コードによる機能の一部をFOSSの同等機能で置き換えること ― たとえば、独自仕様のPantoneカラーシステムをFOSSであるlittle cmsに替えるなど ― を検討しているが、ちょうどOpenOffice.orgの機能がStarOfficeによって強化されるように、フリーソフトウェアの機能を独占的ソフトウェアによって補う、という別のやり方もある。最終的には、すべてのプラットフォームに対して、FOSS版に始まって機能強化された一連の独占的ソフトウェア版に至るまでのXara製品ラインナップを用意することになるかもしれない、とMoir氏は考えている。

ただし、こうした意志決定が行われるのはまだ先のことだ。当面、Xaraの計画は、独占的ソフトウェアであるWindows版からの収益に依存することになる。「オープンソースの基準では、開発者に対してMac版やWindows版の開発を禁じることはできない」とMoir氏は語る。「とすれば、彼らがMac版やWindows版を開発してもおかしくはない。だが、当社のWindows版の売れ行きが悪化すれば、この実験的プロジェクトは中止せざるを得ないだろう」

FOSSの道をどう進むか

転換の準備に際し、Moir氏と社員たちは、コミュニティの特性を丹念に理解しようと努めた。とりわけ、急速にXara製品のライバルになりつつあるFOSSのグラフィックエディタ、Inkscapeの開発者たちとは定期的に意思疎通をはかってきたという。この2つのプロジェクトの連携を押し進めたMoir氏は、Inkscapeを「多くの点で我々にインスピレーションを与えてくれる存在」と語っている。彼がFOSSの開発モデルに秘められた強みを理解し、競合関係とは対照的な相互依存関係の利点を認めるようになったは、Inkscape開発状況を目にした経験の影響もあったという。

2005年秋にFOSSへの取り組みを発表して以来、Xara社内では、開発手法が徐々に独占的ソフトウェアのものからオープンソースのものへと変わっていった。こうした変化のうち最も些細なものが、Moir氏が大げさに「頑固なWindows開発者」と呼ぶプログラマたちがGNU Compiler Collection(GCC)の使い方を習得したことだった。

もっと重要な変化は、Xaraの開発者たちがコミュニティをベースにした開発への切り換えを始めたことだった。Moir氏は、「我々はずっと、開発物を機密事項として扱う閉鎖的な独占的コードの世界にいた」と語っている。Xara LXの発表をきっかけに、Moir氏は、コードが公開される日に備えて、個人的な人脈に頼るよりもむしろメーリングリストでの情報交換を行うように、と開発者たちに要求した。「自分の書いた電子メールが広く公開される、という考え方にもそろそろ慣れただろう」と彼は開発者たちに語りかける。「やればできることだ」

Xara LXのコード公開に伴い、Xaraは、最近6カ月間の社内アーカイブも同社Webサイトに置いた。Xaraの開発者たちは、「FOSSのやり方にもうすっかり慣れ」、いつでもFOSSコミュニティで開発に携われる状態だ、とMoir氏は語っている。

成否の判断基準

それでも一部のFOSSコミュニティに対しては、Xaraの実力をまだまだ示さねばならないこともMoir氏は承知している。2005年の秋にXaraが初めてFOSSへの取り組みを発表したとき、多くの人々は、懐疑的な態度をとり、Windows中心の企業が口先だけの宣伝をしているのだろうと真剣に取り合わなかった。Xara LXの最初のコードが公開された今、Moir氏は、懐疑論者たちが間違っていたことを証明してみせ、面目を保ったわけだ。しかし、最終的に彼は、この賭けをどのように評価するつもりだろうか。

わずか1%のユーザが、独占的コードによる機能強化版を購入してくれれば、Xara LXは採算が取れるはずだ、とMoir氏は語る。同時に、収益だけが成功の基準ではないことも明らかにしている。「おそらく我々はXara LXをLinuxに移植するのに20万ドル以上を費やしているが、このビジネスゲームにかけた費用はそれですべてだ。だからといって、Linux市場から20万ドルの収益を挙げる必要はない。Windows版やMac版からの直接または間接的な売り上げや、もっと現実的な線として、入門書やCD-ROMの販売によってそれに見合う額を回収できれば、Xara LXプロジェクトを継続するつもりだ」

もっと端的には、Xara LXプロジェクトが必要としている開発者のコミュニティに関心を持ってもらえるかどうかが、この賭けの成否を決するのだ、と彼は語っている。「たとえば、もし、あと3カ月か4カ月経っても、我々を支援してくれる社外の開発者の目途が立たないようであれば、この実験的取り組みは失敗だった、とみなさなくてはならないだろう。うまく行かなかったとしても、我々にまだ何とかしようという気があるなら、ただ、またあの閉鎖的な会社に戻るだけのことだ」

この基準に従えば、Xara LXプロジェクトには既に成功の兆しが現れ始めている。ソースコードが1時間おきに更新されることもしばしばで、最新のダウンロード用tarファイルは先月のリリース時よりも2MB大きくなっている ― これは数週間で25%増えたことを意味する ― ことも事実だ、とMoir氏は話している。「興味を示してくれた人は既に相当な数にのぼる」という。さらに、もう社外の貢献者によってテキストルールの有効化などの取り組みが行われているのだ、と話す彼は興奮気味だ。「今のところ、とても興味深い展開になっている。当社の開発者たちは、プロジェクトが本当にどんどん進展していく様子を目の当たりにして、この試みがひどく気に入ったようだ」

Xaraが、自ら発掘したこの新たな利権を収益に換えることができるかどうかは、まだわからない。ただ、FOSSの市場で成功に値する企業が存在するとすれば、他社が障害と捉えた状況に機会を見出し、自社を再興させるべく努力を重ねた、Xaraがまさにそうであろう。

Bruce Byfield氏はセミナーのデザイナ兼インストラクタで、NewsForge、Linux.com、IT Manager’s Journalに定期的に記事を掲載しているコンピュータジャーナリストでもある。

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