オープンスタンダードが重要な理由

オープンソースソフトウェアはすばらしいものだ。しかし、これをやみくもに崇拝する原理主義者には決して賛同できない。こういう人々は、IT分野の記者として取材した多くの団体で目にしてきた。LinuxではなくWindowsを使っているという理由で人々を非難することは、特定の製品に人々を縛りつけようとする独占的ソフトウェア業者の高圧的な政策と質的には変わりがない。では、本当の選択肢を人々に与えるオープンスタンダードは存在しうるのだろうか? ここでは、私が支持できる考え方を紹介しよう。

今週、LinuxWorld BostonのGovernment Dayに開かれた6時間半にわたるサブカンファレンスに出席した。X.orgの創始者、Leon Shiman氏が主催したものだ。Shiman氏は、ITインフラストラクチャでのオープンスタンダードの必要性について公的機関の関心を高めるためにこの長時間のセッションを企画したのだった。彼は、各企業スポンサーの代表者だけでなく、ITを利用した取り組みを説明するマサチューセッツ市庁の人々や、プロジェクトについて語るフリーソフトウェアコミュニティのリーダーたちもこの場に招いていた。

そうした発表者の中には、私が姿勢を正して聞き入ってしまった人物が2人いた。Institute for Defense AnalysisのDavid Wheeler氏と、Harvard Law Schoolのハッカーで自称「フリーソフトウェア信奉者」のLuis Villa氏だ。

Wheeler氏は、オープンスタンダードとは何か、それがITインフラストラクチャのセキュリティにとって重要なのはなぜか、をたとえ話を通じて説明した。まず、彼は「魔法の食物」について語った。必要な栄養素がすべて含まれ、1年間食べると栄養満点になるという架空の物質だ。最初の1年はたったの1ドルだが、これを食べ続けた身体はそれ以後ほかの食物を毒として受け付けなくなるという。「次の年にはこの魔法の食物が値上がりするのがわかりますか?」 とWheeler氏は尋ねた。「私が言いたいのはMicrosoftやRed Hatのことだと皆さんは思うでしょう。でも違うのです。サプライヤは必要です。問題は、依存してしまうことにあるのです」と説明した。次に、1904年に起こったバルチモア大火災の話を通して、オープンスタンダードが独占的ベンダへの不健全な依存関係をどのように断ち切れるか、を彼は聴衆に語った。「周りの州から消防士たちが応援に駆けつけました。しかし、彼らはただ立ち尽くして建物が燃えるのを眺めるばかりでした。持ち込んだ消火ホースは現場の消火栓に差し込めなかったのです」と、消火ホースの連結器が標準化されていたならば、あの大惨事は防げたことを述べた。

元来、オープンスタンダードとは、プラットフォーム非依存で、共同で開発され、ベンダにとって中立で、営利を目的とした知的財産権とはまったく無関係なものだ。この話から、ハードウェアやソフトウェアの基礎になる標準規格によって、特定ベンダの市場独占を回避しながらベンダによる技術革新が可能になるしくみがわかってきた。消火ホース連結器の例で説明しよう。オープンスタンダードがなければ、資金に余裕のある消火栓メーカーが小さなベンダを市場から追い出し、消火ホース連結器の特許を取得して自社の消火栓に合うホースだけ生産し、独占状態を作り上げることになる。もし消火ホース連結器の形状パターンが誰にでも利用できれば、他社もその消火栓に合うホースを作ることができ、自由競争の市場になるのだ。この考え方は、独占業者を締め出すものではなく、ほかの業者にも市場を開放するためのものにほかならない。

この日の後半には、GNOME Boardに名を連ねるVilla氏が、オープンスタンダードとオープンソースソフトウェアについての考えを発表した。「『オープンソース』という言葉を口にするだけでも辛い。自分はフリーソフトウェア信奉者だから」とVilla氏は言う。彼は、Richard Stallman氏が始めたこの活動の背景にある原理を職業倫理的な理由から信奉している。しかし、行政機関のソフトウェア調達の話になると、彼の考え方は違ってくる。「オープンソースの利用を法律で規定するのは間違いだ。選択肢を奪ってしまうからだ」

また、行政関係の参加者には「おそらく2006年中に皆さんのデスクトップPCにLinuxが入ることはないでしょう」とVilla氏は語った。しかし、FirefoxやOpenOffice.orgのような、オープンスタンダードに対応しているソフトウェアを今使い始めれば、Linuxの導入準備が整う頃には切り換えがずっと容易になる、と彼らを勇気付けた。「あるいは、切り換えの決断をしないこともあるでしょう」とVilla氏は続けた。「ただ、少なくともその選択権は皆さんの手にあるのです」

私は心の底から賛同した。まさに今、この業界に必要なのは、オープンスタンダードの実現と強化なのだ。

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