LinuxWorldのガバメント・デイ

X.orgの創立者であるLeon Shiman氏の主催によるガバメント・デイが、LinuxWorldで開催された。これはNovell、Red Hat、Trusted Computer Solutions、Microsoftをスポンサーとしたサブコンファレンスで、政府への影響力を持つ招待者限定の会合ではあったが、同フォーラムの目的は行政機関によるオープンソースおよびオープンスタンダードの採用に関する周辺問題をディスカッションする場を設けることであり、議題の中にはベンダの固定化に関する問題も取り上げられていた。なお同イベントに参加できた報道関係者は、私達だけである。

最初のパネル・ディスカッションでは、マサチューセッツの地方自治体と州政府の職員による、IT関連の調達業務での経験が語られた。Massachusetts Office on Disability(マサチューセッツ州障害課)の責任者であるMyra Berloff氏は、彼女自身をアクセシビリティーに関する“総体的な良心”であると呼ぶだけあり、政府のIT関連調達の話題になると、100%のアクセシビリティーの達成はオープンスタンダードよりも重要性が高い問題であり、それ以下の状態に政府組織が妥協するのは許されないと強調した。ただし出席者の中からは、こうしたオール・オア・ナッシング式のアプローチに対する懸念が表明されており、最初はより敷居の低い状態を出発点とし、その後で100%のアクセシビリティーの達成を目指すのでなければかえって前進速度を停滞させるのではないか、との意見も出されている。Massachusetts Commission for the Blind(マサチューセッツ州視覚障害者委員会)のJoe Lazarro氏はこうしたパラダイムについての発言をしており、デベロッパー達は問題を後追いする形で「アクセシビリティーを取って付けている」だけであり、結果として膨大な支出を強要させて有権者の怒りを買っている、としている。Lazarro氏の意見は「事の初めからアクセシビリティーを装備するようにし、そうした点をベンダ側にも承認させるようにすれば、アクセシビリティーは基本的に無料で確保できるようになるはずです」というものである。

ほどなくしてShiman氏が、アクセシビリティーに関する自身のコメントを行った。「何故(オープンソースソフトウェアには)アクセシビリティーがフル装備されていないのでしょうか? いったい何が困難なのでしょうか?」というのが、同氏の発した質問である。「これは現行のデスクトップ・コンピューターが独占状態にあることと、何か関連しているのかもしれません。このような問題に人々が取り組むには、何かの動機付けが必要であるのに、独占企業の製品が手元に溢れた状況では、予算的な動機付けを促すのは難しいでしょう」。Shiman氏の発言の背景にあるのは、オープンスタンダードを公共部門で採用することにより真の意味での自由競争が展開されるだろう、という考えだ。「私が皆さんに求めているのは、これらのテクノロジーを適切に評価して最大限に利用するにあたって自分にいったい何ができるのだろうか、という発想をするように心がけて頂きたい、ということです」と同氏は、出席した75名の政府職員に対して語った。「これは、業績の一覧に記載される類の行為ではありません。これは、何が問題であるのかを現実的な視点から見極めようとする試みの一種であり、そうしたものは我々にとって馴染みの深いもののはずです」。

マサチューセッツ州スプリングフィールドのCFOを務めるMary Tzambazakis氏は、危機的状態に陥った自治体の財政を正常化させるにあたって彼女自身が遭遇したいくつかの障害について説明した。Tzambazakis氏が最高財政責任者として任命されたスプリングフィールドは、すでに管財人の管理下におかれている。「それまで私はIT関連の民間部門で働いていたのですが、こうした状況を打開するには、まず最初にIT関連の事柄から着手する必要があることが分かっていました」、とTzambazakis氏は語る。「私の使命は、予算を有意義に使うようにさせることです」。話がオープンスタンダードとオープンソースソフトウェアの導入に及ぶと、彼女自身の考えとして、「流行に飛びつく気はありません。オープンソースによって新たな機会が得られるのもたしかでしょうが、これらには世間の常識に合わせる形での調整を施す必要性があることも見逃せません」という見解を語った。

マサチューセッツ州ブルックラインのCIOを務めるKevin Stokes氏は、今回のパネリストとして、ベンダの固定化に対して「プロセスの固定化」と同氏が呼ぶ事象に言及した。そしてオープンソースソフトウェアとオープンスタンダードの評価に話が及ぶと「何かに投資をするとしても、そのこと自体を目的として行うことはないはずです」と語った。オープンソースが利用できる場所を探し出したいのは山々ですが、それには現在私が遭遇している制限を取り払う必要があります」。Stokes氏によると、最も差し迫った問題はIT部門の機能をスリム化することであり、他の部門や市民から浴びせられる些末的な質問の対応にスタッフが時間を取られないようにすることだとしているが、同氏が指摘するこうした問題は、オープンソースやオープンスタンダードであれば簡単に解消されるという性質のものではない。

Shiman氏が今回のガバメント・デイを組織したのは、分断状態の政府組織をまとめあげて自由競争について検討させることが目的の1つでもあった。つまりオープンスタンダードによって真の競争を育む土壌が形成され、独占化の道をひた走るオペレーティング・システムやデスクトップの市場を動かすことができる、というのが同氏の考えである。今回のガバメント・デイのスポンサーの1つであるMicrosoftから派遣されたColin Nurse氏は、同社のNational Technology Officerであるが、まずはMicrosoftの人間がLinuxWorldのコンファレンスで発言することを題材にしたジョークを聴衆に投げかけてから、同社の進めているすべての新規開発は相互運用性を念頭において進められている旨を伺わせる簡単な発言を行った。「Microsoftは標準を軽んじているという話を耳にされた方がおられるかもしれませんが、それどころか私達は、大規模な相互運用性プログラムに多大な投資をしており、カスタマーの皆様がより統一性の取れた環境で仕事ができることを望んでおります。データーの停滞したストーブパイプ環境で、仕事ができるわけありません。そのためにはクロスプラットフォームを確立する必要があります。実際、私どもの現行製品は、相互運用性を確保するよう最初からデザインされているのです」。

次に発言したのはInstitute for Defense Analysis(防衛分析研究所)のDavid Wheeler氏で、同氏は再び自由競争について言及し、民間部門におけるセキュリティーとオープンスタンダードの関連性について解説した。同氏は包装紙にくるまれたクッキーを取り出すと、「これは魔法の食品だとしましょう」と切り出した。「この食品さえ口にすれば、1週間は食事する必要がなくなるという代物です。そして、この食品を1ドルで販売するとしておきましょうか。ただしこれには注意書きが付いていて、この食品をいったん摂取したら、その他の食品はすべて人体に有害に作用するようになるので、今後一切食べることはできなくなります、と小さな書体で印刷されていたらどうです。さて、来年度においてこの食品が間違いなく値上げされるだろうことに気づく人間が、はたして何人いるでしょうか? このように依存性というのは、セキュリティー面で非常に大きな問題となるのです」。Wheeler氏はその他のたとえ話として、1904年に発生したボルチモアの火災では消防ホースの金具に互換性がなかったため1,500棟の建物が焼失したこと、あるいは、南北戦争中に北部側が鉄道のレール・ゲージの標準化を進めたのに対して、南部側はこれを行わなかったため、補給物資の輸送に支障を来して勝利を逃す要因になったことなども取り上げた。「標準化のメリットは、より有意義な仕事に時間と資金を回せるようになることです。レール・ゲージの例などは“プラグ・アンド・プレイ”標準の元祖と言ってもいいでしょう。その後ディーゼル・エンジンが導入された時に交わされたのが、こいつは新技術で動く機関車だが、標準化されたレールにはめるだけで使えるんだぜ、という会話だそうです」。

「標準化とセキュリティーは無関係ではありません」とWheeler氏は繰り返し念を押した。「サプライヤーもベンダも不可欠な存在ですが、依存性を築くことは避けねばなりません。あまりに深く依存しすぎると、別のベンダに乗り換えることができなくなりますが、そうした事態はそれだけでセキュリティー面での問題であり、何らかの手を打つ必要があります」。また同氏は先にShiman氏が寄せたコメントを繰り返す形で、「オープンスタンダードの採用によって、セキュアなコンポーネントの構築に必要な経済的背景を作り出すことができます」と発言した。

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