お茶のオンライン販売にオープンソースソフトウェアが活躍
まず、必要なソフトウェアのリストを作成してみた。iMacにはメールプログラムとアドレス帳がついているし、AppleWorksソフトウェアも付属していて、ちょっとしたデータベースと文書作成に使える。あと必要なものは、HTMLコーディングソフトウェア、ショッピングカート、画像操作とグラフィックス、ワードプロセッサ、DTPソフトウェアである。
Web上で探すと、私の要求に応えてくれそうなオープンソースアプリケーションがたちまち見つかった。たとえば、HTMLオーサリングにはNvu、ショッピングカートにはOSCommerce、画像操作にはGIMP、ベクタグラフィックスにはInkscape、ワードプロセッサにはOpenOffice.org、DTPにはScribus、等々である。あとは、それを私のコンピュータにインストールし、使い方を学ぶだけである。
Finkプロジェクトを見つけたときも、Webとはなんとありがたいものだろうと思った。Finkプロジェクトは、UnixからMacへのソフトウェア移植を専門に行っている。最初はFinkの仕組みがよくわからず、セットアップに苦労したが(私はMacバカで、Unixのことは何も知らない)、多少の我慢と、Finkメーリングリストからの多大な手助けによって、なんとかFinkを使ってUnixプログラムをインストールできるまでになった。オープンソース運動の最大の美点がここにあると思う。オープンソースプログラムのインストールとアップグレードは、危険がいっぱいの作業である。それを新米でも乗り切れるよう、実に多くの人々が援助の手を差し伸べてくれる。
幸いなことに、今日の状況はMacユーザにとって大いに好転している。上で名前をあげたほとんどのプログラムは、すでにネイティブポートとして存在する。少なくとも、Mac OS用の簡易インストーラが存在する(ただし、X11システムを使用するものもある)。ほとんどは、Windowsでも使用できる。
私のWebサイトの構築にも、いくつかのオープンソースプログラムが見つかった。かつて、NetscapeにはComposerと呼ばれるWYSIWYGコーディングモジュールがついてきた。これが、いまではNvuというまったく新しいスタンドアロンプログラムに進化している。Nvuを使用する利点は2つある。1つは、それが完全にMac用に開発されたプログラムであることで、当然、Macインストーラがついてくるし、Macプログラムのルック&フィールを備えている。おかげで、Nvuのインストールは無問題だったし、これを使うのも楽しい。
Nvuは文句のつけようのないプログラムだが、私としてはX11システムベースのプログラムも試してみたかった。Bluefishは大当たりだった。実に見事なプログラムで、BBEditのようなHTMLコーディングの大物にも決してひけをとらないと思う。何より、インタフェースがすっきりしているし、HTMLとPHPのコーディングができる。結局、私はNvuよりBluefishを使うことのほうが多かった(ほかにTaco HTMLというフリープログラムも使ったが、これはオープンソースではない)。
次に必要だったのはショッピングカートプログラムである。プロプライエタリなショッピングカートプログラムがいくつかあるので、私はそれぞれの長所と短所を徹底的に調べ上げた。最終的にOSCommerceに決めたのは、ビジネス上の理由もあるが、それに劣らず哲学上の理由もある。これは、オープンソースのMySQLデータベースを使用するオープンソースのショッピングカートである。私はOSCommerceソフトウェアのインストールを自分ではやらず、やってくれるというWebホストを選ぶことにした。
OSCommerceのセットアッププロセスは自動化されていて簡単だったが、カスタマイズはまた別問題である。私はまだPHPを学習中とあって、エキスパートからの手助けが必要になることはわかっていた。幸い、OSCommerceにはすばらしいオンラインフォーラムがある。OSCommerceフォーラムの住人の献身ぶりは頭が下がるほどで、私が何か質問をすると、普通は数分以内に答えが返ってきた。もしプロプライエタリシステムを選んでいたら、この種のサポートを頼むのにどれだけのお金がかかっていたことだろう。しかも、サービスの質はこれの半分にも満たなかったに違いない。
お茶の小売りにはカタログが欠かせず、カタログの作成には画像処理とDTPのソフトウェアが欠かせない。私は画像処理にGIMPを使用した。撮影後のすべての編集をこれで行い、結果には十分満足している。まあ、CMYKをサポートしてくれていたらもっとよかったのだが、私のプリンタが言うには、写真と見まがうほどの画像を印刷してやるから心配するな、とのことである。
GIMPのインストールには最初Finkを使用していたが、最近では、開発者の努力でMac用の簡易インストーラが作られ、インストールが朝飯前の仕事になっている。Mac上にX11が必要なのは変わらないが、もうコマンドプロンプトに頼らなくてもプログラムが使える。GIMPは絶えず改善をつづけており、困ったときに手を差し伸べてくれる大勢のボランティアのコミュニティがある。また、Web上を探せば、役に立つチュートリアルも数多く存在する。
多くの画像をカタログにまとめるには、DTPプログラムが必要である。AppleWorksを使うことも考えたが、これははっきり力不足とわかった。だが、私は運がいい。Scribusというプロジェクトが始まっていて、発足からほんの数か月ほどだったが、もう試しに使ってみられるほどに開発が進んでいた。昨年初頭、私はScribusの0.7バージョンを使って茶筒の設計を始めた。Scribusに触れたごく初期のビジネスユーザの1人であることを、誇りに思っている。
私はそれまでDTPプログラムを使ったことがなく、金属製の茶筒に印刷したこともなかった。したがって、プリンタ関連の用語を掻き分けて進むのはとても大変で、Scribus開発者グループには大変お世話になった。また、Scribusメーリングリストには質問をしっぱなしで、ここの人々にも大いに助けてもらった。苦労の甲斐あって、金属製の茶筒を無事にScribusで設計することができた。また、カタログの発行、会社用の名刺や便箋の作成、しおりや販促ちらし類の作成も、すべてScribusで行った。何百ドルものソフトウェア費用を節約しながら、高品質のカタログが得られたのは、Scribusのおかげである。また、設計作業の多くを社内ですませたことで会社に自給自足の力がつき、やはり経費節減の効果は大きかったと思う。
私がこういうことをやりはじめた当初、Scribusはまだ生まれたての赤ん坊だった。いまでは、Macユーザが利用できる簡易インストーラもある。プログラム自体も大幅に改善され、中小企業向けのきわめて有能なプログラムに生まれ変わった。
あと2つ、ぜひ名前をあげておきたいプログラムがある。まず、OpenOffice.orgスイートである。これは中小企業の最大の味方と言ってよい。私はMicrosoft OfficeからOpenOffice.orgへ完全に切り替えた。最新版にはまだちょっといらつくところもあるが(たとえば、プログラムの起動に時間がかかる、大量のディスクスペースを占有する、など)、十分に目をつぶれる。1.9バージョンには、Macユーザ用の簡易インストーラもついた。Web上を探せば、使い勝手をもっとMac似にする工夫がいろいろと見つかるが、プログラムの長所を堪能するのにとくに必要ではない。
最後にベクタグラフィックスプログラムである。ときどきこれが必要になる。最近まで、X11上でSodipodiを使用していたが、Inkscape開発者がMacユーザのために使いやすいインストーラを用意してくれてからは、Inkscapeにした。Open Clip Artプロジェクトと組み合わせて使うと、Inkscapeは驚異的な働きをする。私は自社Webサイトのバナーのほとんど(たとえば、この雪だるまバナー)をこれで作成した。
これ以外にも、日常使用しているオープンソースプログラムは多い。FTPにはCyberduck、ブログにはWordPress、電子メールにはThunderbird、ブラウザにはFirefoxと、数えだすときりがない。オープンソースプログラムがなかったら、私のような零細企業でも、あと何百ドル単位の開業資金が必要になっていただろう。
わがJaya Teas社は完全にオープンソースに移行し、それを誇りに思っている。道のりにはいくつもの落とし穴があったが、途中の学習経験は実り多く、豊かで、オープンソースコミュニティに多くの友人もできた。初歩的な質問にも丁寧に答えてもらい、ずっと支援しつづけてもらった恩は忘れられない。私自身もできるだけお返ししたいと思い、ときにまだ実験的な段階にある製品をビジネス環境で試してみた。疑問点を投げ返し、必要な機能を要求しつづけ、そうすることで製品の向上に多少は役立つ場面もあったか、と自負している。
何より重要なのは、オープンソース運動が新しい着想と創造性の源泉であることだろう。顧客が製品開発で中心的な役割を果たすというのは、究極のビジネスモデルとも言える。この種の共生関係を実現することが、オープンソース運動の意義ではなかろうか。
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