アジア式IT管理

アジアでIT企業を経営することには、世界中のCIOが普通に直面する諸問題に加えて、特別の困難があるようだ。タイで活動するCarsena Technology Services社のCEO、Kim Carterに悪夢のシナリオを尋ねたところ、「朝一番の報告が『ボス、サーバがダウンしました』になることかな」という答えが返ってきた。「当然、『じゃ、再起動して』と指示すると、『できません、ボス。停電ですから』とくる」

Carsena社が提供しているサービスは実に多様である。Web設計から始まって、ホスティング、ネットワークの設計と実装、マルチメディア制作、グラフィックとプリントの設計/制作/描画サービス、建設/土木プロジェクトの管理……と、数えだすと切りがない。「何でも屋ですな」とCarterは言う。

Carsenaという社名は、自身と奥さん(タイ人)のラストネームを組み合わせたものらしい。この会社を興す前、CarterはSeatec International社のIT部長をやっていた。Seatec社は東南アジア最大の環境工学企業で、東南アジアと中央アジアのいくつもの国の政府から環境政策の立案を請け負っている。Seatec在職中、Carterはタイ政府のあちこちの省庁に派遣され、ネットワークとコンピュータにまつわる諸問題を解決して歩いた。

その結果、恐るべき環境でコンピュータと情報システムを稼動させるこつを学んだ。当時経験した――もちろん、現在も経験しつづけている――困難には、たとえば次のようなものがある。

  • 電力が不安定で、停電や電圧変動が頻繁に起こる(ハードウェアに深刻なダメージを与える)
  • ハードウェアの中古品や不合格品が再包装され、新品として売られている(東南アジアではごく普通のこと、とCarterは言う)
  • モンスーンや高潮に代表される熱帯の気候と、コンピュータに潜り込みたがる熱帯の小動物

Carterはフリー/オープンソースソフトウェア(FOSS)の信奉者で、顧客にもその利点を熱心に説いて回っている。「ここでは、いつでもライセンスが重要な問題です。知的財産の窃盗を悪とはみなさない風潮がありますからね。私企業はもちろん、政府機関も盗品ソフトウェアを平気で使っていますよ。ソフトウェアベンダにとっては大きな問題です。一方、ソフトウェアに金を払うことに慣れていない企業にとっては、オープンソースが安上がりで魅力的なソリューションとなります」

「反面、実装やカスタマイズ、訓練などという問題もあるのですが、ここの市場は地元ユーザとプロバイダの知識ベースの広がりとともに成長しています」

Carterによると、タイとその周辺ではLinuxも普及しつつあるが、まだ市場のごく小さな一部を占めているにすぎない。この地域では、店でコンピュータを買うと、必ずと言ってよいほど代替OSとしてLinuxを勧められるし、Linux搭載のマシンはWindows搭載のマシンより安い。だが、ライセンス問題が足を引っ張っている。つまり、Linuxに移行するのはよいが、その過程で、これまでライセンスなしでWindowsソフトウェアを使っていたことがばれてしまうのではないか。ユーザはそれを恐れている、とCarterは言う。そのユーザには、もちろん、政府機関が含まれている。

Carterの顧客の間では、オンライン不動産販売目録や自動車販売目録にOpen-Realtyがよく使われている。オンライン教育システムのMoodleもアジアでは人気がある。実装と習得が簡単で、アジアの複数の言語をサポートしている点が評価されているようだ。もう1つ、アジアに広いユーザベースとオンラインコミュニティをもつアプリケーションとして、Mamboがある。これは設定が自由なコンテンツ管理システムで、多くのテンプレートが用意されていて、ルック&フィールが簡単に変えられる。最近、タイのパタヤで毎年恒例のMambo懇親会が開かれ、かなりの企業が参加して盛況だった。

「帝国はまだ健在です」とCarterは言う。「でも、反乱軍も着々と勢力を拡大していますよ」