イタリアの公務員がオープンソースを推進
行政機関では、ソフトウェアの選定や各部署における使用方法についての指針は政治家や非技術系の人が定めるのが通例であり、IT担当者には指示されたソフトウェアを実装することしかできない。地方行政では、特にこの傾向が強い。こうした状況は、技術者、とりわけフリーソフトウェアの利点を知る者にとっては大きな不満の種となる。
数か月前、イタリアのある地域的なメーリング・リストで幾つかの意見が交わされた。その中で、Robert Resoliは次のように述べている。「私たちは、外部のソフトウェア・サプライヤーといつも戦っています。彼らは自社製のソフトウェアやハードウェアのプラットフォームにカスタムDBMSソリューションを載せて売り込んできます。どのベンダーもシステムを半分再実装したがります。自社の本人確認ソリューションを(統合してシングル・サインオン・アーキテクチャにするのではなく)採用させようというのです。そして、彼らが言う『統合』は彼らの製品への統一という意味なのです」
Resoliは、行政機関が大規模なアプリケーションを作る時代は終わったとも述べている。行政機関同士が協力して各行政機関に適したアプリケーションをオープンソースで作成することもできようが、その場合アプリケーションの維持経費が高くつき、それを行政機関が単独で負担することはできない。したがって、行政機関とフリーおよびオープンソース・ソフトウェア(FOSS)プロジェクトが協力する場が必要だと結論づけている。
好ましきROSPA
しかし、この議論は嘆き節だけでは終わらなかった。それどころか、この議論を通じて、そのような場がすでにあることが明らかになった。ROSPA(Rete dell’Open Source nella Pubblica Amministrazione、行政におけるオープンソース・ネットワーク)である。ITなどの専門家が参加するネットワークで、イタリア全国の行政機関にFOSSを広げようと活動している。
ROSPAは、その活動が利益をもたらすであろういかなる機関からも支援を受けていない。ネットワークのメンバーが個人的に行っている活動だ。彼らのユーモアのセンスは、その名に現れている。rospaはイタリア語で雌のヒキガエルを意味し、転じて、非常に醜い女性を指すのである。
ROSPAは、すべてのFOSS派公務員がお互いの経験に学び、ソフトウェアのインストールに関するヒントから、部門のオープンソース推進戦略の是非あるいはその欠如についての議論まで、あらゆるレベルでサポートしあう場である。カスタマイズしたGNU/Linuxディストリビューションやソフトウェアのローカライズ、あるいは教材の作成など、他の部署でも再利用できるプロジェクトの揺り籠でもある。
ROSPAには、もう一つ目的がある。イタリアの行政機関におけるFOSS採用の実態を調べ、公表することである。ITの選定を左右する政治的戦略に、長期的にプラスの影響を及ぼそうというのである。オープンソースの本質を理解せずに、単に流行だからといってオープンソースを主張すること、つまり票集めは避けることが重要だ。メンバーはそう感じているからである。
しかし、海路に日和を見てスタートを切ったものの、ROSPAメーリング・リストへの投稿数は目に見えて減っている。参加者側に時間のないことや、データや手続きを公開状態に置くことが困難なためである。不満も募っている。FOSS導入は多くの場合個人的な活動によるものであり、その担当者が別の部署に定期異動すると廃れてしまう。そして、元々の開発者を支援できる人がいない場合、管理職はそのシステムを維持管理できる人を探すのではなく、反故にしてしまうことが多いのである。
ソフトウェアか書式か? おそらくはその両方
ほとんどのROSPAメンバーは、フリーソフトウェアへの思い入れが、ときとして時間的制約や人材および予算上の厳しい制約という現実と二律背反的に対立することを経験的によく知っている。そのため、彼らは「行政機関のITシステムには、多くの場合、FOSS製品を用いるべきだ。書式とプロトコルは、いつでも例外なく、非プロプライエタリなものでなければならない」をモットーにしている。
前半の「多くの場合」は、過激な――おそらくは反生産的な――立場を避ける必要性を表している。ときには、プロプライエタリ・ソリューションを採用するのが妥当な場合もあるということである。等価なFOSSアプリケーションが存在しない、あるいは、FOSSソリューションでは割り当てられた予算や期限内に導入できないこともあるのだ。また、ソフトウェアを実際に動かすのが行政機関ではなくサービス・プロバイダの場合で、契約上アプリケーションの選択が任されていることもよくある。
しかし、そうした場合でさえも、越えてはならない一線がある。すなわち、いかなるソフトウェアが選定されようとも、別のプログラムの使用や自主開発の可能性が残されていなければならない。オープンソース・ソフトウェアを使わない場合でも、オープン・フォーマットにはすべきだということである。これは、元々の開発者にとっても柔軟性が得られるという利点がある。後で、さらに良いソリューションができたとき、フィルターを挟まずに自由に移行できるからである。
ROSPAのメンバーが関わっているプロジェクト
Consortium for Open Source in the Public Administration (COSPA) Project――行政機関におけるオープンソースへの移行という欧州規模の研究――や、Riva del Gardaという町のポータルサイトの開発には、ROSPAのメンバーが参加している。
このポータルサイトには、多くのWebサイトにも採用可能な興味深い機能がある。OpenOffice.org Python-UNOブリッジに基づくシステムで、これを使うと単純なWebインタフェースを介してOpenDocumentとMicrosoft WordとPDFのファイルを作成することができる。開発者によると、若干の手直しで他のアプリケーションにも組み込めるという。
他に、FLOSS Competence Center of the Province of Romeという有意義なプロジェクトにも、ROSPAのメンバーが関わっている。ローマ県がFOSSを採用すれば、より小さな県に対する前例となるだろう。
国際協力の可能性
こうした分野では、国境を越えたコードの直接協力や共有は、多くの場合、不可能だ。従うべき規制が国ごとに異なることが多いからである。にもかかわらず、「何らかの国際的な支援が欲しいですか」とROSPAの参加者に尋ねてみた。その答えは、2通りあった。その一つは、「多分必要はないだろう。しかし、EUのIT規制を改善するために政府に共同して働きかけることはできるだろう」といった類のもの。
そして、もう一つの答えは、国際ROSPA――欧州あるいはそれ以外の地域も含めて行政機関におけるすべてのFOSS派IT技術者のための団体――のような組織を立ち上げるのはよいかもしれない。各地でバラバラに行っている活動を糾合する潮時だ。ミュンヘンの場合のように、賭のような選択と不公平な出来事は避けなければならない。
この活動への呼びかけをここに紹介できたことは嬉しいことだ。フリーソフトウェアの開発者たちは、これまで国境を越えて活発にソフトウェアを作ってきた。その成果を実際に採用している人々の間にその活動モデルを広げるのは、極めて自然なことである。
原文