OSDLが公開特許のオンライン情報センターを開設
同サイトは、8月に発表されたプロジェクトに基づいて、利用が許容された個々の特許および大規模な利用が可能な特許ポートフォリオに含まれる知的財産(IP)の情報およびその関連情報に関するセンターとして今月15日に開設された。
また、同サイトは大企業が提供を約したIPを調べる手段ともなるだろう。大手の技術企業はこれまで営々と特許を積み上げ収益を追求してきたため、その特許を公開しても、企業自体やコミュニティにとってほとんど価値のないものを開示しただけと見られがちである。
「何の価値もないがらくたを市場に出そうとしていると揶揄されました。しかし、これからはpatentcommons.orgサイトがあります。このサイトで特許を実際に調べ、どんな特許かを確認してから、善し悪しを言っていただきたいものです」。IBMが1月に500件の特許を公開したことに関連して、同社の知的財産および標準担当の副社長Jim Stallingsはこのように述べている。
公開特許の森の歩き方
OSDLの法務担当Diane Petersによれば、同サイトは2つの部門から構成されている。すなわち、オープンソースでの利用が許容されている附番された特許およびより広範な特許ポートフォリオのオンライン・ライブラリと、利用に当たって開発者が必要とする情報である。後者には、公開されたIPの使用に関する解約条項を含む利用案内など、特許を利用する際の条件が並んでいる。一方、ライブラリは5つのデータベースから構成されている。すなわち、公開企業(現在は7社)のデータベース、公開企業が定めた方針・規程・約款のデータベース、特に指定された特許のデータベース、標準技術や特許ポートフォリオに関する特殊性の低い公開物件のデータベース、免責、オープンソース・ライセンス条項、標準団体のIPに関する権利とポリシーなど、サイト利用者に関わる法律関連情報のデータベースである。
OSDLは、このサイトがすでに特許を公開している企業を超えて政府機関などにも広がることを期待している。さらに、大学にも参加を働きかけているが、大学は自身の改革と研究の維持だけで手一杯だと、Petersは述べている。
また、Petersによると、このサイトはOSDLのカーネル開発者から歓迎されており、Red Hatが2002年に公開して以来増え続ける公開特許の情報センターとして位置づけられているという。
「情報を収集して利用しやすい形で提供する情報センターを設置し、ユーザーや開発者が特許を調べ安心して利用できるようにする必要があると考えたのです」
Red Hatの上級副社長Mark Webbinkは、同社が特許を公開して以来、IBMやNokiaやNovellなど多くの企業が後に続き、Linuxなどのオープンソースに対して特許権の不適用を宣言したと述べた。
Fedora Foundationや最近発表されたOpen Invention Networkにも触れつつ、「オープンソース・ソフトウェアが特許の恐れなしに開発できるようにしたいという思いは当社だけのことではありませんでした」とWebbinkは述べている。Open Invention Networkは、IBM、Novell、Philips、Red Hat、ソニーが設立した企業で、入手した特許を、Linuxには自社の特許を適用しないと宣言した企業に無償でライセンスする。
IBMのStallingsは、Computer Associates、Ericsson、Intelなど、オープンソースに特許を提供する企業が続々と増える中、開発者がそれらを利用する上でPatent Commonsサイトは必要な存在だと言う。
「種類も形式もさまざまで目眩がするほどですから」
OSDLのPetersは、このサイトの目的について、コミュニティに提供される特許やIPが増えることで発生する問題を回避することを挙げた。
「特許を公開する企業が増えており、そうした共有財産の利用が妨げられることのないように情報センターが必要だと判断しました」
特許の価値とサイトの効果
オープンソース・ライセンスと法律の専門家Larry Rosenは、特許権がオープンソースに要求されない限り、この特許サイトの真価が明らかになることはないだろうが、ソフトウェア特許を巡る錯綜に光を投げる手だてにはなるだろうと述べた。
「情報提供については、何であれ、私は反対しません。大きな混乱と不安を引き起こしている分野では尚更のことです」
しかし、Rosenは大手技術企業の特許公開について若干の疑念を持っている。たとえば、1月にIBMが500件の特許を公開したが、オープンソースの開発者にとってほとんど無意味なもので、IBMの点数稼ぎと見なされていると言う。
「もう一点指摘したいのは、ほとんどの特許にはさしたる有用性はないということです。期限切れが近いか、回避が容易なものばかりなのです。真価は、特許権がオープンソースに要求されたときに明らかになるでしょう。そのとき、Patent Commonsは盾となると思います」
とはいうものの、産業界の特許を大規模に収集することについての利点は認めており、Patent Commons――500件以上を超える指定された特許が掲載されている――はオープンソース・コミュニティにとって心理的な武器、そしておそらくは価値ある武器となるだろうと述べた。
オープンソースに対して特許の利用を許容する理由
Red HatのWebbinkによると、ソフトウェア特許はオープンソースにとって危険だというベンダーとしての立場から同社は特許を公開したのだという。
「特許は業界にとって致命的な害毒だと当社は主張してきました。しかし、現実の世の中を見ると、直ぐになくなる方向には動いていません。特許に関しては、コミュニティと株主に対する責任があると考えています」と述べ、同社が「制限的または保護的なオープンソース・ライセンス」――それでもオープン性は維持している――を採用していることを強調した。
そして、Linuxソフトウェア・デザイン特許、カーネル開発特許、TUX Content Accelerator、Execシールド・セキュリティ・ソフトウェアについては、いずれも、Red Hatの特許運用指針により、オープンソースのユーザーと開発者はIPに関わる権利の要求を全く心配せずに利用できると述べた。
また、Red Hatの大規模な顧客は「持つものが多ければ標的も大きくなる」ことを理由にPatent Commonsサイトに特に興味を持っていると言う。
IBMのStallingsは、Patent Commonsサイトによって同社が利用を許容している特許などを調べ利用するのが容易になると評価している。同社は特許を「これからも蓄積」し、来年1月には、特許保有件数で2位以下を大きく引き離して米国内トップとなることを再度発表する予定だが、その一方で特許公開をオープンソース・コミュニティを支援する手段の一つと見ていると言う。
「自社のポートフォリオの一部を切り離して提供し、その他のものと合わせて創造的活動に使ってほしいのです。次に来るべき革新の波は、コラボレーションとオープンソースと標準から生まれるだろうと当社は見ています。それは、これまで以上に大きな何かを生み出そうとしています。当社は発明し特許を得て活動する企業ですから、特許を提供する(ことでその波に貢献しようとしている)のです」
そして、Patent Commonsサイトは業界とオープンソースの成熟を示すものであり、オープンソース開発者によって大いに利用されるだろうと述べた。「一番最初にIPを検索をする際のプラットフォームになるでしょう」
原文