ソースコードを開示せよ、さもなくば報いあらん
しかし、この要請の実現にはちょっとした障害がある。問題の装置Intoxilyzer 5000のメーカーであるCMIが企業秘密を盾にコードの開示を拒んでいるのである。この裁判所命令が適用され、担当弁護士にこの最新の申し立てが通知されている係争中の酒気帯び運転訴訟は157件あるが、CMIがコードの開示を拒んでいるために、フロリダ州は訴訟を進行できない事態に陥っている。
影響はそれだけに留まらない。同装置はフロリダ州全域で使用されており、CMIがソフトウェアの開示を拒否すれば、同州の酒気帯び運転に関連する法律の執行が将来困難になると同州検察は憂慮している。こうした問題があるにも拘わらず、CMIは要請に応ずるつもりはないようだ。同州検事補Jason Millerは同紙に「(CMIは)頑なに企業秘密を保護しようとしている」と語っている。
CMIは誰に対してもソースコードの開示を拒んでいるが、今回の裁判所によるコード開示命令にはそのコードに関する情報を公的記録に残さないという保護条件が付されている。フロリダ州法では、機器を用いて検査された場合、被検査者はその検査に関する「すべての情報」を求めることができるとされている。今回の裁判所命令はこの条項に基づくもので、「『すべての情報』には、その機器に使われているソフトウェアも含まれる」とし、複数の郡判事が署名している。これまでにも「すべての情報」条項が適用された例はあるが、主として、解説書や電子的構造についてであった。
法的問題はさておき、ビジネス・モデルの観点から見ると、ソースコードの秘匿に固執するCMIは甚だ滑稽に見える。というのは、二重ソース・ライセンス方式の下でコードを完全なオープン状態で提供することによって、大成功ではないにしても、成功を収めることは可能だからである。このライセンス方式については、先だって掲載されたSleepycat – a blue ribbon example of open source financial successで論じたので、ここでは繰り返さない。
CMIがソースコードを開示したとしよう。その場合、それを利用して同種のハードウェアを作りCMIに挑む企業が出てくるだろうか。確かに、その可能性はある。しかし、CMIはすでに納入業者の立場にあり、これから採用を巡って競うわけではないのだ。しかも、CMIは、そのソフトウェアを作りオープンソース・ライセンスで提供しているのは自社であると堂々主張できるのである。さらには、どこかの企業がCMIのソフトウェアを利用するにしても、そのソフトウェアを動かすハードウェアを設計し製造する必要もある。
逆に、CMIがソースを開示しなければ、多くの酒気帯び運転が処罰されないことになるだけでなく、フロリダなどの州はコードの検査を許容するという条件で他のメーカーの代替製品を探すに違いない。オープンソース・ライセンスが嫌なら、コードを第三者に寄託して調査を許し、州法の求めに応えるという方法もある。CMIは企業秘密を守り通せるかもしれない。しかし、それに固執すれば顧客を失う可能性もあるのだ。
各州がフロリダ州の例に従い、一方、酒気検知器のメーカーがコードをオープンソースにすれば、ハードウェアの優劣と価格の高低が競われることになるだろう。しかし、CMIの提供する製品の品質が高くCMIが納入業者の立場を維持すれば――これは使用担当者を研修する必要性も使い方を誤る危険性も低いことを意味し、したがってコストが低いことを意味する――、オープンソース・ソフトウェアの世界に入ることにCMIが関心を寄せることはあるまい。