Sunがオープンソースを大学へ
先月のEducause 2005カンファレンスで、Sun社はGELC(Global Education Learning Community)という非営利のスピンオフ組織を発表した。「教育と学習のグローバルコミュニティ」を通じ、教育における知識の共有を目指す、と言う。
「カンファレンスでScott McNealyが発言したとおり、Sun社には、過去にいくつものすばらしいコミュニティを育ててきたという実績があります」と、GELC執行役員のLarry Nelsonは言う。「教育、オープンソース技術、すぐれたプログラム作法、そしてコンテンツ。その周辺に大きな機会――と言いますか、コミュニティ育成の必要があるというのが、Sun社の考えです」
さらに、オープンソースには「1回限りで終わってしまい、共有されず、効果的な広がりも持たなかった活動が多すぎる」と言い、GELCが自立的な組織であること、何かを狙ったSun社の目論見の一部ではないことを強調する。
Sunの考えるオープンソース
だが、オープンソースと高等教育に早くから取り組んできた陣営からは、疑問の声があがっている。Sun社は「Solaris University Challenge」と称し、Solaris 10またはOpenSolaris用にアプリケーションを書くよう大学生に働きかけている。それは大学生自身のためのものなのか、背後に控えるSun社のためのものなのか。
オレゴン州立大学オープンソース研究所(OSL)副所長のScott Kvetonは、教育に対するSun社のアプローチと、IBM社が昨年暮れに教育機関向け発表した「Academic Initiative」計画とは対照的だと言う。また、OSL自身が行っているサーバ管理(ホスティング)活動や、Mozilla、Debian、その他の主要オープンソースプロジェクト用の開発者育成活動にも言及しながら、次のように言う。
「Sun社の狙いが、自社ソフトウェアであるSolarisとJavaに触れてもらうことであるのは疑いないでしょう。IBM社がオープン標準をベースにしたソフトウェアに焦点を当てているのとは、ずいぶん違います。もちろん、IBM社も自社ソフトウェアを並べてきていますが、それ以外のソフトウェアも排除していませんから。オープンソースコミュニティが健康でいることは企業にとってもいいことで、IBM社やGoogle社にはよくわかっているようですが、Sun社にはその辺の理解が不足しているように思います。GELCを見ても、またあれかと考えてしまいます。オープンソースへようこそ、と言いながら、実は『Sun社が考えるオープンソース』へようこそ、だったりして……」
コードは誰のもの
GELCの念頭にあるのは、主としてK-12(幼稚園から第12学年までの)教育と、オープンソースの周囲に存在するオンライン教育コミュニティだと言う。また、Sun社には「Solaris University Challenge」計画もあり、こちらは高等教育の場にオープンソースを持ち込むことを目指している。Solaris 10とOpenSolarisを使う参加者とその所属機関に、現金とSun社の技術を供与するという内容である。
Sun社の高等教育市場開拓マネージャ、Jay Visvanathanによると、大学にはメインフレームとMicrosoft ITによる囲い込みが目立っていて、コントロールがきかず、アカデミックコミュニティ内部にも懸念の声が大きい。Sun社のUniversity Challenge計画はその声に応えようとしたものだ、と言う。「個々の大学がITを使って差別化を図ろうとしている高等教育の場で、囲い込みは許されませんよ。Univetsity Challengeは、コミュニティに『革新のための10億を』というSun社のモットーの具体的表現です。今回は、たまたま教育コミュニティが対象になっただけです」
オープンソースに詳しい大学関係者の間にも、教育界に対するSun社の働きかけを評価しながらも、コミュニティへのフォローがあるか、と心配する声がある。クラークソン大学の院生、Patricia Jablonskiはこう言う。
「GELCの理念は、自らへの金銭的利益を度外視してコミュニティへの還元を目指そうということですから、オープンソースモデルに合致します。理念上は、学生と教師とオープンソースコミュニティに大きな恩恵をもたらそうというものですからね。あとは、それが実際にコミュニティの精神にのっとって行われるかどうかです。それが計画の成否を決定するでしょう」
Jablonskiは、今年のTuxMasters開発競争で栄冠を勝ち得たクラークソン大学チームの一員である。Sun社らの企業が後ろ盾となって実施される開発コンテストは、技術革新の起爆剤になりうると言い、その意義を認めている。ただ、そうしたコンテストで開発されたコードが誰のもので、誰がそこから利益を得るのかという問題が残る、とも指摘する。
「最近は、いろいろな会社が大学生向けコンテストのスポンサーになっていて、オープンソースプロジェクトを募集しています。ですから、Sun社が独自のコンテストを開始するというのも、方向としては間違っていません。Sun社のコンテストで1つ目立つのは、他社のコンテストと違い、学生だけでなく大学の教官やIT職員にもプロジェクトエントリを認めていることです。応募作品の多様性が増して、Sun社にもコミュニティ全体にもいいことかもしれません」
「こういうコンテストで問題だと思うのは、応募する多くのオープンソースプロジェクトのなかには、すぐに目に見えなくても、大きな革新の可能性を秘めたプロジェクトがいくつも含まれているかもしれないのに、選ばれるのはほんの1つか2つだということです。でも、選外のプロジェクトもすべてオープンソースですから、主催企業は作者になんら代価を払う必要もなく、どれでも都合よく利用できます。もちろん、大学生向けのコンテストでなくてもそうしたことは起こるでしょう。たとえば、既存のオープンソースソフトウェアコードの山をひっくり返し、利用できるものを掘り出してくればいいわけです。でも、大学生向けのコンテストの場合は、企業が積極的に探すまでもなく、向こうからどうぞと言って、目の前に送られてきますからね。さらに、コンテストの応募作品ですから、主催企業が関心を抱く特定分野のソフトウェアに限られているというのも、大きなメリットでしょうね。そう考えてくると、応募作品に適用されるオープンソースライセンス条項の内容が重要な問題になります」
プロジェクトのプラットフォームが、CDDLのもとで提供されるSolaris 10かOpenSolarisに限定されているのも問題だ、とJablonskiは言う。「特定のオペレーティングシステム/ハードウェアに合わせるというのでは、プロジェクトの多様性と応用範囲が狭められてしまいます。それに、大学への賞品が10万ドル相当のSun社製品ということですから、その大学がプロプライエタリのハードウェアとソフトウェアを使いはじめるのは目に見えています。もっとも、x86用のSolaris 10をリリースするというのは、Sun社にとって正しい1歩でしょうね。オープン標準の柔軟性が増します」
Sun社は目を世界に
こうした批判があることは、Sun関係者も認めている。確かに自社技術を広め、試したいという希望がある、とVisvanathanも言う。一方、同社教育市場開拓ディレクタ、Art Pasquinelliは、オープンソースの重要性はSun社としてもよく理解しており、コミュニティにとっての利益こそSun社にとっての利益だと認識している、とも言う。
「Sun社の内と外では、もちろん、外にこそ大きな創造性があります。それを育てることができれば、報われるところも大きいでしょう」
教育分野での活動は国際的な視野に立ったものだ、とSun社は強調する。現に、GELCは地方・州・全国・海外の教育機関と協力していくし、University Challenge計画はいくつかの国の優秀な大学の教官・職員・学生にも開放されている。
オープンソースソフトウェアを活用してカリキュラムと研究を充実させるという点では、アメリカが世界をリードしている、とOSUのScott Kvetonは言う。
「しかし、中国やインドといった市場には勢いがあって、毎年、何百万人単位で技術者が増えていますから、いずれ、これらの国がオープンソフトウェアでも中心的なプレーヤになっていくのは目に見えています。これらの市場にどう関わるかが、オープンソースコミュニティのこれからの課題でしょう」
アメリカの企業が国境を越え、世界市場に対応していくことが重要だ、とJablonskiは強調する。
「とくに、Sun社はネットワークとインターネットに大きな影響力を持っているわけですから、自身もインターネットに劣らずグローバルになることが、同社の利益にかなうと思います。Sun社は、よく、情報の時代から参加の時代へ、と言いますよね。そうなら、世界中の誰もが知識共有活動への参加の機会を与えられるべきで、そうでなければ参加の時代とは言えません。地球規模のコラボレーションが必要ですし、その結果もグローバルコミュニティ全体を益するものでなければなりません」