FLOSSで稼ぐ方法

今では、FLOSS(Free/Libre and Open Source Software)開発モデルはプロプライエタリな開発に勝ると、多くの人が確信している。倫理的・思想的な理由を根拠にFLOSSを選択する人たちもいる。しかし、FLOSSで収益を得る方法については、さほどには明確ではない。

と言っても、Bill Gatesのように大金を稼ぎたいということではなく、しっかりした企業を作る、あるいは人並みの生活を維持する程度の収益を得る方法のことである。どうすれば、無償の活動で収益を上げられるだろうか。

現実は厳しい。FLOSSには数十年ほどの歴史があり、この業界ではほんの数年でゼロから数十億ドル規模に成長することも可能だが(多くの実例がある)、FLOSSを収益源として、そのような成長を遂げた例はない。それに準ずる例でさえ、一つとしてないのである。(FLOSSを利用しつつ広告などで収益を確保している企業は多い。しかし、ここではそうしたモデルを問題にしているのではない)

これは、成功例のほとんどない挑戦なのである。

しかし、まったく手がないわけではない。もちろん、MicrosoftやIntelがこの10年間に示したのと同様の発展は、期待できそうもない(もっとも、FLOSSの世界でそれを望む者はいないだろうが)。しかし、FLOSSで十分な糧を手に入れ、あるいは純FLOSS企業が成功するのは不可能なことではない。

クライアントの注文によるソフトウェア開発

出来合いのソフトウェアでは割に合わない、そう実感している企業が増えている。ソフトウェア・パッケージを購入するときは妥当だと思ったライセンス料だが、実際に使ってみると予定していたことの半分も実現できない。かといって、機能の追加もバグの改修もできず、揚げ句、ベンダーにがんじがらめにされ、逃れられる可能性はほとんどないのだ。

先見の明のある企業では、昔ながらの社内開発部隊も、あながち悪い考えではなかったかもしれないと考えているところも多い。

これに対して、FLOSSによる開発は市販品と自社開発が持つ良い点を兼ね備えている。必要な機能を持つソフトウェアを開発でき、アプリケーションを自由に変更することができる。ベンダーに絡め取られる恐れも、ライセンスの心配も不要。しかも、社内プログラマを維持する必要もない。社外に出し、適切なFLOSSライセンスを付与して開発を任せればよいのだ。ソフトウェアを手元に置いておきたいなら、開発者と非開示契約を結ぶこともできる。これは、GPL(GNU General Public License)にはまったく抵触しない。

ブラックボックス・ソリューションの開発

購入したままの状態ですぐに使えるシステムの市場が広がっているが、そうしたシステムの開発にFLOSSが適していることは実績が示している。Linuxがルーターや携帯電話に搭載されているのは周知の通りである。また、英国のEmbedded Software Foundryなどのように、Linuxを多くの装置に組み込もうとしている企業もある。Linuxにすれば、ハードウェア・ベンダーがプロプライエタリ・ソフトウェアのベンダーにライセンス料を支払うことなく高機能な製品を販売できるからである。

特定用途向けにインストール済みのサーバーやPCあるいはシンクライアントを製作している企業もある。導入や維持管理は容易。ソフトウェア込みだから価格も手頃だ。自分でインストールする手間をかけたくない人々が買っていく。

実装・サポート・解説書の有償提供

動くことは動くが、適切に動作させるには数か月もかかるようなソフトウェアを欲しがる人はいまい(プロプライエタリなベンダーの作業は、大部分、そうしたもののように思えるが)。したがって、企業は、フリーソフトウェアを適切に実装・サポートすることに対しては支出を惜しまないだろう。コンサルティング・研修・ハードウェアを揃えれば、十分な収益源となる。

機能の追加

ソフトウェアを使っていて「xx機能があればよいのだが」と思ったことはないだろうか。もう一歩踏み出して、プロプライエタリ・ソフトウェアに独自機能を追加してもらおうと要望したことはないだろうか。その機能強化案は、運がよければ、山積みになっている「今後の課題」に加えられるかもしれない。そして、何年か後に実現されるだろう。しかし、FLOSSであれば、こうした悩みはない。必要な機能を追加するよう誰かに有償で頼めばよいのである。

英国のClockwork Software Systemsは、自社のオープンソース会計スイートをカスタマイズするビジネスを始め、重要な事業となっている。自社に必要な機能が適切に動くソフトウェアを得るために、クライアントは喜んでコストを負担する。

ライセンスの使い分け

MySQL ABはFLOSSのライセンスを使い分けて、収益を上げている。データベースのアプリケーションが完全に私的利用であるか、FLOSSライセンスで開示される場合は、料金は取らない。クライアントがコードをFLOSSライセンスで開示したくない場合は、商用ライセンスを購入してもらうのである。

自社のソフトウェアをどう扱うか迷っているなら、商用ライセンス1つにつきGPLでのデータベース利用が1,000件あること(MySQL ABによる)を考えるべきだ。それで元を取るには多くのユーザが必要だろう。

ほかにもいろいろなやり方があるだろうし、思いもよらない方法も多々あるに違いない。非営利団体と企業でライセンスを変えてもよい。プロプライエタリとしてソフトウェアを開発・販売していたが、後に、それをオープンソースとしてリリースした企業もあるのだ(IBMはその明らかな例だ)。

行政および学術機関の資金提供

FLOSSには、その少なからぬ部分が行政や学術機関からの資金によって実現されてきたという歴史がある。しかし、これは驚くべきことではない。FLOSS開発モデルには、科学の発展の仕方と多くの共通点がある。学術的色彩が強いのである。

たとえば、Sakaiプロジェクトは、インディアナ大学とミシガン大学を始めとする米国の多くの学術機関が協力し、必要に合わせてCMSとその関連ツールを開発してきた。

FLOSSの利点を認める行政当局も世界的に増えている。英国のOpen Source Consortiumは小規模FLOSS企業の団体だが、全約80社を合わせれば、英国の公共部門によるFLOSSの効果的利用を支援できるだけの規模になる。もちろん、これによって各社の利益は増えている。同様の団体はほかの地域にもあり、増加傾向にある。

クライアントの糾合

ソフトウェア開発が高額に及び、1社だけでは負担しきれないことがある。しかし、数社を集めることができれば、各社がコストを分担し、できあがったソフトウェアを各社で利用することができる。ただし、こうしたプロジェクトでは、参加各社が歩調を合わせるように注意深く管理する必要がある。

FLOSS企業への就職

いろいろと提案してきたが、それらは主として企業向けだった。では、仕事が欲しい場合は、どうすればよいのだろうか。FLOSS企業の数は膨大だが、問題は、そのほとんどが小規模であり、高給の従業員を雇える状態にないことだ。

IBMやSunなどの企業で働く手もあるが、FLOSSプロジェクト以外では働きたくないという願いを上司が快く受け入れてくれるとは思えない。したがって、ある程度の妥協が必要になるだろう。

FLOSS企業に正社員として働く機会がなければ、フリーランサーとして働くことを考えよう。英国にはOpen Source Consortiumという団体があり、FLOSSフリーランサーと企業の出会いを支援している。

もちろん、LinuxやFLOSSが今後ますます発展すれば、そうしたソフトウェアを利用している企業でのシステム管理やプログラミングの仕事も増えるだろう。

まとめ

今は、FLOSS関連のビジネスを立ち上げる好機である。しかし、「好機」は「簡単」と同じではない。この点を誤解すれば厄介なことになるだろう。しかし、5年後には、今よりも多くの人がFLOSSで生計を立てるようになり、多くの企業がFLOSSで成功していることだろう。

Iain Robertsは、Open Source Consortiumの評議会メンバー。英国のFLOSS企業Axiom Techの役員。

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