オープンソースプロジェクトのマーケティングに効くお呪い

オープンソースプロジェクトを立ち上げるのは簡単ではない。新しい技術の創造はもちろん難しいし、開発者に――さらには未来の顧客に――注目してもらい、開発作業を支援してもらうことも容易ではない。ほとんどの開発者にとって、マーケティングは黒魔術だ。

お決まりの広告とPR活動は金食い虫であり、「ブランド」や「競争相手」について口角沫を飛ばしている人々の形相はすさまじい。だが、困難を克服して成功したプロジェクトも現に存在する。そうしたプロジェクトは、どう注目され、どうコミュニティを形成していったのだろうか。それに学べば、成功への道のりの険しさも多少は緩和されるだろう。

たとえば、MySQLとSugarCRMという会社がある。互いに性格の異なる2社だが、ともに開発者に対するマーケティングとコミュニケーションに大きな成果を収め、ブランド認知度の向上とユーザベース(および顧客層)の拡大に成功した。MySQL社はオープンソースデータベース市場で最大のシェアを占め、SugarCRM社はオープンソースCRM市場を支配している。両社の製品は、それぞれの市場で最良の製品だろうか。そうかもしれない。両社は人心のシェア獲得に積極的に乗り出し、それに成功したのだろうか。間違いなくそうだ。MySQL社は2004年から2005年までに65%も売上高を伸ばし、市場での地位を確立した。この一事を見るだけで、成功の程度が推測できる。また、Firefoxの目覚しい成功はどうだろうか。ダウンロード件数が7000万件を超えた。これが、主としてGetFirefoxなどの草の根キャンペーンで達成された数字だという。最近では、SpreadFirefoxも立ち上がっている。オープンソースマーケティングが成功すると、ウィルス感染にも似た爆発が起こる。

もちろん、製品(またはプロジェクト)を開発し、効果的に市場に出すことが簡単だと言っているのではない。現実には困難であり、開発者とのコミュニケーションにも独特の心のありようが要求される。

開発者社会

John Seely BrownとJohn Hagelは、最近出したThe Only Sustainable Edgeという本の中で、社会という概念を「各人による自己定義と、その自己定義確立のために試みる社会参加の形式との間に発生する複雑な関係」と定義している。開発者相手のマーケティングでは、顧客相手のマーケティングや一般的IT製品のマーケティングに比べ、この社会的側面の比重が高まる。多くの開発者にとって、あるプロジェクトに自分が積極的に参加するかどうかを決めるときの鍵は、開発プラットフォームの周囲に存在するコミュニティの性格である。開発者なら誰でも、「これは最高、勝つ」と(実際にそうなるかどうかはともかく)思える技術と関わり、その陣営に属したいと願う。オープンソース指向の開発者の場合は、その傾向がとくに顕著である。これは、オープンソースが単なる技術的・経済的選択をはるかに超え、1つの社会的・政治的声明になっていることに由来する。

大金をばら撒くか、コミュニティを築き上げるか

開発者相手のマーケティングでは、大金をばら撒くか、コミュニティを築き上げるか、2つに1つしか方法がない。もちろん、活動を始めたばかりの企業には――とくに、フリーソフトウェアを販売しようという企業には――潤沢なマーケティング資金などあるはずがない。

となれば、残るはコミュニティモデルである。ブログ、Tシャツ、ニュースグループ、開発者イベントなどを駆使し、ゲリラ的マーケティングを展開することが必要となる。大企業なら、業界刊行物で宣伝し、駅を広告で埋め尽くすなど、金に物を言わせたメッセージ伝播方法が採用しやすく、楽だろう。そういう金満企業(や、ときに飛び交う誹謗中傷)に対抗するには、コミュニティによる支援を実現し、ウィルス感染的な効果を期待するしかない。大企業にしても、内心望んでいるのは実はそれである。

コミュニケーションが鍵

さて、深遠な知恵の一端を上に述べたが、当然湧いてくる疑問は「で、次は何を……」だろう。これまで学んだことをまとめておこう。

  • 開発者相手のマーケティングは、他のマーケティングと異なる。だが、気心の知れた相手に直接語りかける方法であるだけに、成果は上がりやすい。
  • 類似の関心を抱いている人々をニュースグループやWebサイトで探し、意思疎通をはかることで自分の努力をアピールしよう。コミュニティとの知識共有は重要であり、その価値を見くびってはならない。
  • ブログ、Tシャツ、開発者イベントは、気楽で安上がりなメッセージ伝達方法である。
  • 参考になる先行企業またはプロジェクトがたぶんある。見つけて、アイデアを拝借しよう。
プロジェクトまたは製品の成否を決定するものは、結局、現在および将来のユーザベースとの間にどれだけの対話が交わされたか、である。オープンソースコミュニティは、製品開発者とその開発努力を支援する人々との助け合いで成り立っている。コミュニティを作っている人々と正直に粘り強く対話しつづけることが、マーケティングの第1歩であり、大きな成功を引き寄せるための鍵となる。

Dave Rosenbergは、オープンソースプロジェクト問題のライター兼コンサルタント。ほかに、LinuxWorldのコンテンツプログラムを担当している。Linuxベースの携帯電話でオープンソースのグリッドアプリケーションを実行することが夢。

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