合法的目的とオープンソース性、それがBitTorrentを訴訟から守る

Loki TorrentのWebサイトは、先月、アメリカ映画協会(MPAA)によって閉鎖に追い込まれた。しかし、そのLoki Torrentが無償かつ無許可のファイル共有サービスを提供するために利用していたオープンソース技術BitTorrentは、映画産業など、コンテンツ提供者のターゲットにはなっていない。このソフトウェアの目的が合法であることが主な理由だが、法律の専門家によれば、オープンソース・ソフトウェアであることも理由の一つだという。

「あのソフトウェアはオープンソースです。一体、誰を追及するというのでしょうか」。サンフランシスコの法律事務所Townsend and Townsendのパートナーで知的財産を扱う弁護士Phil Albertは言う。「ソフトウェアの作者を追及すれば、追いつめて二度と関わらないと言わせることはできるでしょう。しかし、それでどうなりますか? あれはオープンソースのソフトウェアです。あらゆる人が利用できるのですから」

RIAA(レコード業界の機関で映画のMPAAに相当する)は死者を告訴することまでしている。しかし、「あらゆる人」を訴えることはできない。これが、肝心な点である。

オープン性と目的の合法性

BitTorrentはBram Cohenが2001年に作ったオープンソース・ソフトウェアだ。そして、そのオープンソース性によって法廷闘争を免れている。同弁護士は、元祖Napsterの訴訟を引き合いに出して、その理由を次のように説明する。かつての音楽交換サービスは集中化されており、Napsterは、その交換を可能にする中央サーバーを代表していた。その点ではLoki Torrentも同じである。Napsterが訴訟で破れると、今度はKazaaやMorpheusなどの分散型モデルが登場し普及した(そして現在に至る)。ファイル交換が分散型になったのを受けて、RIAAはそのサービスの背後にいる企業を告訴したが敗訴した。訴訟は敗訴に終わったが、何はともあれ追及すべき企業はあったのだ。ところが、BitTorrentなどの広く使われているオープンソース・アプリケーションでは告訴すべき相手がいない。

「今では、追及すべき企業さえありません」

また、BitTorrent――最新のMorpheus 4.7に搭載された――は広く合法的に利用されていることも法的に追及しにくい点だと言う。

「誰かが自分のコンテンツを配布したいと思い、それが大部であれば、最も簡単な方法はBitTorrentです。娯楽産業以外にBitTorrentの合法的な利用法はいくらでもあります。もちろん(BitTorrentを)映画や音楽の違法な交換に利用することはできるでしょうが、このソフトウェアの第一目的はコンテンツを合法的に配布することにあるのです」

BitTorrentのオープンソース性と目的の合法性の2点により、「法的に追及しても勝ち目はありません」。同弁護士は、このように説明する。

技術は使い方次第

Worldwide Anti-piracy Operations担当のMPAA副会長John Malcolmは、インタビューの中で、MPAAは、技術であるBitTorrentに不快感を持っていないと述べた。

「あの件で使われている技術については、全く問題にしていません。技術の革新は歓迎すべきことです。多少は海賊行為を誘発する面があるとしても、コンテンツを創造した者がそれを人々に安価に届けられるという大きな利点があります」

ただし、他の技術よりもBitTorrentが好ましいわけではなく、MPAAの考え方はオープンソースとは相容れないとも言う。

「最新かつ過去最大の技術でしょうが、完成形にして最良というわけではありません。技術は進歩します。私たちはBitTorrentの開発者たちを追及してきませんでしたが、それは技術の開発者だからです。しかし、もしこの技術の目的を違法なことに向けるなら、あるいは、違法目的の使用を防ぐための簡単な対策さえも施そうとしないなら、私たちは考え方を変えるでしょう」

そして、BitTorrentなどの技術を無許可コンテンツの流通に利用する人々を法的に追及しているMPAAは、ファイルを不法に共有する人々以上に、技術側の立場に近いと言う。

「私たちが追及するのは、反技術的な人々です。彼らは技術を利用して、やりたい放題に窃盗を繰り返しています。私たちの不満は技術を開発する人々に向けたものではなく、それを不法に利用する者たちに向けられたものなのです」

分散化による合法性

BitTorrentはビデオなどのコンテンツを何本かの「急流」に分割し、帯域を共有してその分流が効率的に流れるようにする巧妙な技術である。MPAAにとって、Loki Torrentなどは、くみしやすい相手だった。しかし、BitTorrentの新世代や変種――eXeemなど――は、集中サーバーを持っていない。それは、Napsterが下火になりMorpheusやKazaaなどの分散共有モデルが増えたのとよく似ている。

Yankee Groupのシニア・アナリストMike Goodmanは、BitTorrentを「P2Pの中では最も合法性が高いもの」と述べ、MPAAがBitTorrent技術を追及することはないだろうと言う。

「BitTorrentは、確実に、P2Pネットワークの合法性を指し示しています」

P2Pを調査してきた同氏は、MPAAなどのコンテンツ所有者はBitTorrentのオープンソース性を訴訟への障害とは見ていないが、その一方、Loki Torrentを訴訟の場に立たせたのはその集中モデルの故であり、そうした集中モデルは今ではなくなったと言う。

「コンテンツ所有者がBitTorrentを追及するとは思えません。BitTorrentが機能するには、(コンテンツを)見つけるための中核的なサーバーが必要です。彼らが追及するのは、その中核なのです。つまり、違法コンテンツが蓄積されるサイトを追及するのであって、それを実現する技術ではありません」

Electronic Frontier Foundationの弁護士Fred von Lohmannは、Cohenが海賊行為のためのツールとしてBitTorrentを提供したのでないことは明らかだと言う。そして、MPAAは、多くの人の目には時代に逆行するように映っているだろうが、この技術やその作者を追及できないことを十分に理解していると言う。

「BitTorrentにしろ(それを開発した)Bram Cohenにしろ(ソフトウェアの)使われ方にまで責任を持てないことは明らかだと、私は思います。それについては、Cohenもあまり心配していません」

同弁護士も、前述の弁護士Albertと同じように、BitTorrentの合法性や告訴の対象となり得ないことは、このよく知られているソフトウェアがオープンソースであるという事実によって補強されていると言う。

「(MPAAは、)たとえCohenを追及しても法的な立場は極めて脆弱であることを認識しているでしょう。MPAAの行動から、私はそう見ています。どちらにしても、あの技術がオープンソースであるという事実から、MPAAは(BitTorrentを)追及しないだろうということが言えます。あの技術は現に存在し、誰にでも使えるのですから」

ただし、BitTorrentでダウンロードするコンテンツを探すために集中型「トラッカー」を置いている場合は、Loki Torrentのように、MPAAなどのコンテンツ所有者から追及される可能性があると言う。そして、同弁護士は、P2Pは合法であり、しぶとく生き続けるだろう、BitTorrentはその所産なのだと力説した。

「消費者とインターネット利用者は、常にファイル交換の手段を求めています。それが私たちが生きるこの世界なのです。魔神を瓶の中に永久に閉じこめておくなんて、できるわけがありません」

原文