オープンソースプロジェクトと企業間の確執

昨年末、フリーソフトウェアプロジェクトPreludeと、プロジェクトのプログラマの一人を起用した企業ExaProtect Technology社の関係が破綻した。Preludeプロジェクトは、開発チームがExaProtect社から不当な扱いを受けたとして、開発ソースリポジトリを遮断した。これにより、ExaProtect社だけでなく全世界がこのソースリポジトリにアクセスできなくなった。これは明らかに、GPLとフリーソフトウェア倫理の精神に反する行為だ。NewsForgeは教訓的なこの確執について取材した。

Preludeは、不正侵入を検出して追跡するセキュリティプログラムだ。1998年から開発されてきた。PreludeプロジェクトのリードYoann Vandoorselaere氏によれば、ExaProtect社は、過去3、4年に渡ってPreludeを使用し、同社のセキュリティ製品のベースにPreludeの通信インフラストラクチャが使われているという。ExaProtect社は、2003年の売上額17億5000万ユーロのフランスの企業で、セキュリティ管理を専門とし、Preludeのようなセキュリティシステムを管理する専門技術を販売している。

こうした関係を考えれば、ExaProtect社が自社製品をニーズに応じてカスタマイズするために、Preludeチームのメンバー(本人の希望により本記事では名前を伏せる)と契約してフルタイムで製品開発に取り組めるようにしたのは理にかなっている。こうした雇用は、フリーライセンスに基づいてソフトウェアをリリースすることで収入を得る方法の1つとして、多くのフリーソフトウェア支持者たちが引き合いに出すことでもある。

最初の3ヵ月間がたち、ExaProtect社とその開発者が次の3ヵ月の契約を更新する時期がきた。だが、昨年12月21日、ExaProtect社は、そのPrelude開発者が契約に反して「PreludeチームとExaprotectチームの間に十分な交換の場」を作らなかったとして、契約を更新しないことを開発者とプロジェクトに通達した。ExaProtect社のCEO、Jean-Francois Dechant氏は、Vandoorselaere氏との間で問題が持ち上がった、とNewsForgeに語った。以前、Vandoorselaere氏が困難な時期にあったとき、ExaProtect社は同氏を採用しようとしたが同氏はこのオファーを断ったという。同社はまた、「Vandoorselaere氏と別の会社の間に契約を成立させようと試みたが、同氏はこれも拒否した」という。Dechant氏はさらに、開発者との契約が2ヵ月に入ったころ、Vandoorselaere氏は「このエンジニアと6ヵ月契約することを強硬に迫り、そうしなければ世間に対する(同社の)イメージを傷つけると脅した」と語った。最後にDechant氏は、ExaProtect社がまだ何も決定しないうちに、Vandoorselaere氏が開発者に契約の打ち切りを言い渡したのだと話した。

PreludeチームはExaProtect社の主張に異議を唱えている。Preludeチームは即座に開発ソースリポジトリを遮断した。Preludeプロジェクトチームを保護するために、そして、PreludeプロジェクトがNewsForgeに「オープンソースの倫理」に反する行為だと語った、ExaProtect社の行為に対して報復するために、ExaProtect社にソフトウェアの開発バージョンへアクセスさせないようにしたのである。Vandoorselaere氏は、詳細については、法律上の理由からということで明らかにしなかった。ただ、ExaProtect社は2003年にカスタムコードを書かせるためにPreludeの開発者を起用し、条件としてオープンソースにすることを約束したが、その約束を守らなかった、という話を例に挙げた。Vandoorselaere氏はNewsForgeに、フリーソフトウェアは権利ではなく特典であり、プロジェクトが自らを悪徳企業から守らなければ失うことになる、と話した。Preludeチームはソースリポジトリを遮断することで、これ以上の悪用行為から自分たちを守り、あらゆるフリーソフトウェアユーザを守っているのだという。

もちろん、これによって、ほかのすべてのPreludeユーザも迷惑を被っている。そこで、チームは1月9日、コミュニティに公開書簡を発表し、その決定について簡単に説明して、この問題を「速やかに解決する」ことを約束した。

ExaProtect社の反応はすばやかった。同社は、プレスリリース(フランス語)を発表し、契約を更新できない理由を2つを挙げた。第1に、Preludeが技術要件を満たさなくなった、第2に、Preludeチームとの関係が破綻したからだという。同社によれば、Vandoorselaere氏は同社との共同作業に建設的な態度を示さず、同社におけるPreludeの重要性を過大評価したという。Dechant氏は、Vandoorselaere氏は「一緒に仕事をするのが非常に難しい」人物であるがゆえに、「このプロジェクトの貢献者のほとんどがここ3年間でいなくなってしまった」といい、Vandoorselaere氏のひどい態度の証拠として、NewsForgeにこの電子メールを示した。ただ、ボランティアが進めるプロジェクトでは、わがままと気難しさが多彩な役割を果たすことも多いので、この主張を立証するのは非常に難しい。

NewsForgeは、起用された開発者が契約上の義務を果たしたことを示す法的資料を見た。Vandoorselaere氏がExaProtect社に対する自分の主張を裏付けるために示した資料である。ExaProtect社側の弁明として、Dechant氏は、同社は善意から開発者に支払いをしたのだと話した。

Vandoorselaere氏は、ExaProtect社のPreludeプロジェクトに対する評価と推進のレベルに、Preludeチームは何年も不満だったと話す。ExaProtect社の機能とバグ修正の要求を満たすために、自分たちが進んで並ならぬ時間を割いたと感じているだけに、Preludeチームはなおさら不満だったという。Preludeは、ExaProtect社のWebサイトに謝辞を掲載する要望を何度も送った。ExaProject社は2004年半ばにその要望を聞き入れた(謝辞は今も掲載されている)。

ExaProtect社は、プロジェクトへの評価不足に直接触れた声明は公開していない。その一方で、プレスリリースでもNewsForgeの取材に対しても、同社は、開発者との契約、コード、ルールセット、バグレポートにおいて、自分たちがプロジェクトに貢献したといっている。Preludeチームは、コードへの同社の貢献は「微々たるもの」で、品質があまりに低いため統合されなかったこともあるほどだといっている。その貢献は言及されている貢献も含めてここで見ることができ、その一部はCVSログで見ることができる。

Preludeチームは現在、ExaProtect社が今後Preludeを使わないようにするため、拘束力のある合意をExaProtect社と締結しようとしている。そうすれば、約束どおり、Preludeのソースリポジトリを再開することができるという。そのような合意はフリーソフトウェアの倫理に背くように思える。プログラムを使用する自由を奪う理由としてGPLが唯一認めているのはGPL違反であり、今回の件は当てはまらないからだ。だが、Preludeは、自分たちとコミュニティを保護する正当な行為だと信じて疑わない。ExaProtect社は、Preludeチームと問題が起きたからにはもうPreludeソフトウェアは使わないといっている。

フリーソフトウェアプロジェクトへの教訓

さて、このエピソードから私たちは何を学べばよいのだろう。雇用された開発者は契約義務に反していなかったが、Preludeチーム全体では反したことになるかもしれない。Vandoorselaere氏は、以前3年近くMandrakeSoft社にいたことがあり、MandrakeSoft社は同氏の人柄や業務記録についてコメントしようとしないが、在職中またはその後に何か問題があったともいっていない。同様に、ExaProtect社が使用しているほかのどのフリーソフトウェアプロジェクトも、同社との関係への不満を公に示したことはない。この確執は、単純に感情的な対立といえるかもしれない。

だが、このような立場に置かれたフリーソフトウェアプロジェクトが、開発ソースリポジトリを遮断するという形で報復するのはいかがなものだろう。ExaProtect社はGPLには違反していないのだから、Preludeは、ライセンスを変更もしないで、ソフトウェアを使用、コピー、適用、再配布する自由をいかなるユーザからも奪うことはできない。フリーソフトウェアを活用する企業、それも開発者に資金提供する企業ならなおさら、こうした関係に近寄るには十分な注意を払い、誤解を避けるために問題をオープンにする賢明さを持つことだろう。

Vandoorselaere氏は、ほかのフリーソフトウェア開発者へのアドバイスを求められたのに答え、企業からの申し出については常に法的な助言を求め、すべてを書面にすることを勧めた。もちろん、法的な助言を得る予算がないプロジェクトは多く、難しい状況だ。ライセンス違反についてはFree Software Foundationの支援があるが、それ以外の問題については、コミュニティ法務基金が設立されていない今、コミュニティは危うい立場にある。

原文