オープンソースのグラフィックアプリをそろそろ統合しよう

グラフィック・アーチスト兼Webデザイナーとして10年以上を過ごしてきたが、その間私はソフトウェア会社が市場を独占しようと必死になる姿を見てきた。 たとえばAdobe。PhotoshopやIllustratorなどの強力な製品を開発し、デスクトップ・パプリッシングの分野を早々に握った。

MacromediaはWebデザイン/開発のビジネスを制覇するために熾烈な競争を強いられたが、この分野をようやく独占できたのは、製品の統合化を進めた後だったようである。現在、Webデザインと開発のアプリケーションのラインナップを驚くほど充実させたMacromediaは、疑問の余地なくこの分野のリーダーだ。オープンソースのグラフィック・アプリケーション開発者が、そろそろ同じことをしてもいいだろう。

プロプライエタリのグラフィック・ソフトウェア会社は、製品の統合化へ向かう傾向にある。統合化された製品には、開発が個別に進められる製品と比べて、収益性の高さ以外にも有利な点がある。市場の特殊な分野で求められる具体的なソリューションを提供できるので、そういった分野で大きなリードを得られることだ。

オープンソースの世界では、製品の統合化はまだ遅れている。ほとんどのオープンソース製品は個別に開発されており、その傾向はグラフィック・アプリケーションの分野で特に顕著だ。しかし、もしDTP開発者とグラフィック・アーチストをターゲットとする3つのアプリケーション ─ GIMP、Inkscape、Scribus ─ を1つのパッケージにまとめたとしたら、それは強力なハーモニーを奏でることだろう。共通のインタフェースを作成し、機能を統合することを、それぞれの製品の開発者がやる気になればだ。

GIMPは、評価の高いビットマップ編集プログラムだ。前記の3製品の中では最も成熟された製品である。Photoshopに匹敵する高度な機能を持ち、Windowsユーザの間でも人気がある。まだカラー管理機能が欠けているが、次のリリースで実装するため開発が進められている。

Inkscapeは、ベクタ描画プログラムである。多くの可能性を秘めた製品だ。プロジェクトはまだ開発の初期にあるが、気の利いた機能で既にはちきれそうである。精巧な形状編集ツールが搭載され、インタラクティブな編集作業をやすやすと、しかも楽しく進められる。オープンソースのベクタ描画標準であるSVGがサポートされるほか、JPEG、PNG、TIFFなどの主なビットマップ形式に対応する。

Scribusは、レイアウト・アプリケーションである。デスクトップ・パブリッシングにおける事実上の標準のレイアウト・プログラム、QuarkXpressと勝負できる潜在力がある。ファイルを高度なPDF形式で出力でき、この機能に関してはAdobeのフラグシップ・デスクトップ・パブリッシング・アプリケーションであるInDesignに次ぐ完成度を誇る。また、ツールセットはよく考え抜かれており、インタフェースはQuarkXpressよりも直感的で使いやすい。Inkscapeと同様、Scribusは比較的最近のプロジェクトであり、市場に食い込むにはまだ完成度を高める必要がある。

以上の3製品を統合するのは大仕事だろう。だが、困難はあろうとも、現実味のあるシナリオが私には見える。GNOME GUIガイドラインに従う共通のユーザ・インタフェースを各製品に実装することに、さまざまなイニシアチブの開発者が合意する、というシナリオが。GNOMEスタイルのアイコン、カラースキーマ、レイアウト規則が「製品ライン」全体のルックアンドフィールに統一感をもたらすだろう。ドラッグアンドドロップ、コピーアンドペースト、カラー管理テクニック、フォント仕様などの一般的な機能がシームレスに統合された結果、相互運用の問題は解消される。

統合化が開発者に与えるメリットが明らかになるだろう。最大のメリットは、アイデアとソリューションをプロジェクト間で共有できることだ。たとえば、今のInkscapeにはスワッチ・ライブラリがない。大きな短所である。だが、GIMPには高度なスワッチ機能が実装されている。GIMPのソリューションを採用する、というのがInkscape開発者にとっての解答になるだろう。また、アイコンなどのアートワークを共有すれば、3つのプロジェクトでアートワークを保守する作業が楽になる。最終的には、スイートとして商用製品とも張り合えるような、シームレスに統合されたグラフィック・アプリケーションが出来上がるだろう。

開発者にお手本とされる成功したプロジェクトはたくさんあるが、中でも最高の例はMozillaプロジェクトだろう。成功を収めただけでなく、オープンソース開発者の間ではまだ一般的でない考え方を取り入れたプロジェクトだからだ。重要なポイントは、MozillaアプリケーションがWebを包括的に利用できるようにすることである。Firefoxブラウザ、Thunderbird電子メールクライアント、そしてリリースが予定されるSunbirdカレンダにより、統一された製品ラインが構成される。Mozillaの開発者は、オープンソースの世界でソフトウェア統合化の利点に最初に気が付いた開発者に数えられる。その結果は何か。製品を見れば一目瞭然だ。Firefox Webブラウザのダウンロード数は、累積で2,000万件を突破した。

昨今の企業では、たくさんのプログラムを使いこなすことがグラフィック/Webデザイナーに期待される。ビットマップ・エディタ、ベクタ描画アプリケーション、レイアウト・プログラム、3Dモデリング/アニメーション・ソフトウェアといったプログラムがそうだ。共通のルックアンドフィールを持つプログラムをデザインするだけで、このような立場にあるグラフィック・アーチストのストレスをかなり軽減できるだろう。

最近は、ビジネスの風向きの変化がソフトウェアの開発を後押ししている。Linuxはオフィスのドアをノックするようになり、開発を個別に進める従来の戦略はソフトウェアを作る最適な方法ではないように思われる。商用ソフトウェア企業は既に戦略を変え、製品の統合化にしばらく前に着手した。オープンソースのグラフィック・アプリケーション開発者は、今こそ同じことをするべきではないだろうか。

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