Sunの無意味な発表

昨年、IBM社は、フリーソフトウェアコミュニティとの協力関係において重要な前進を果たした。同社の500の特許の包括ライセンスをあらゆるフリーソフトウェア開発者たちに提供したのだ。これは、何千という数にのぼるであろうIBM社のソフトウェア特許すべてが対象ではない。また、IBM社がまだフリーソフトウェアコミュニティに協力していない分野もある。たとえば、フリーBIOSをThinkPadに移植するのに必要な情報はまだ提供されていない。それに、同社は今も信頼できないコンピューティングを推し進めている。それでもこれは前進に違いない。

先日、Sun社が一見よく似た発表を行った。これによれば、同社は「Common Development and Distribution License(CDDL)に基づいてSun OpenSolaris関連の特許へのフリーアクセス」を私たちに許可したという。だが、こんな発表は何の意味もなさない。CDDLはソフトウェアの著作権に関するライセンスであって、特許ライセンスの手段ではない。これは特定のコードだけに適用されるものだ。(著作権と特許では、社会に課す要件が本質的にまったく違う。)

では、実際これはどういうことなのか。この発表をよく読んでみたが、これは何も新しいことを発表していないと思う。前に発表されたSolarisソースコード・リリースのことを、Sun社独自のライセンスCDDLに基づくフリーソフトウェアとして、違う言葉で仰々しく言い直しただけだ。Solarisのほかには、このライセンスを使うフリーソフトウェアパッケージはほとんどない。あるいはまったくない。また、Sun社は、私たちが自分のフリーソフトウェアに同じ技術を実装しても訴えないとはいっていない。

Sun社も、いつかはその言葉に実体を与えて、IBM社のように本当の前進を見せるかもしれない。ほかの大手企業も同様の動きを見せるかもしれない。これによって、フリーソフトウェアでソフトウェア特許の危険がなくなるだろうか。ソフトウェア特許の問題は解決するだろうか。とんでもない。どちらもあり得ない。

特許権者であるすべての大手企業がこうした行動に出るわけでないことは明らかだ。実際のところ、大量の特許を持っていて、絶対にこの行動に出ない企業が1つある。それはMicrosoft社で、私たちの敵を自認している。Microsoft社は、有用なフリーソフトウェアを事実上違法にするのが大好きで、弁護士を雇って、政府から与えられたあらゆる手段を使うための予算もたっぷりある。

だが、危険なのは、私たちをことさら敵とみなすこういう輩だけではない。万人の敵である特許権者たちも危険だ。彼らは特許ゴロとも、特許寄生虫ともいうべき会社で、持っている特許だけが資産であり、脅迫だけを商売にしている。こうした特許寄生企業は何も生み出さず、何かを生み出している他人の血を吸うことしかしない。連中が獲物を選ぶ際には、蚊ほどのやましさしも持ち合わせないから、血を吸う価値がある者はみな危ないといえる。

たとえば、元Microsoft幹部Myhrvold氏が設立した会社は、(ソフトウェア特許に限らず)特許の買収に3億5,000万ドルをつぎ込むとうれしそうにいっており、つまり、そこらじゅうで人を脅したり威嚇したりできるわけだ。もちろん、こうした寄生企業は自分たちの活動をそういうふうには表現したがらない。マフィアが金を払わないと襲うといって地元の商店を脅すとき、それを「保護」代と呼ぶのと同じで、Myhrvold氏の会社は特許を「賃貸」するという言い方をする。彼らはこの”特許保護たかり”とも呼ぶべき商法が成功すると考えている。そのためには、大勢の人間が犠牲にならなければならない。

ソフトウェア特許の危険は、フリーソフトウェアに限った話ではない。だから、ソフトウェア特許と対立するのはフリーソフトウェア開発者に限定されない。巨大企業は別としても、コンピュータに関わる者は誰でも損をすると思わなければならない。たとえば、プロプライエタリソフトウェアの開発者は、特許を侵害する確率より、特許の犠牲になる確率の方が高い。私はプロプライエタリソフトウェアが倫理的に正しいとは思わないが、プロプライエタリソフトウェアの開発者も同じ特許の危険にさらされているのは事実で、多くの人がそれを知っている。

では、フリーでもプロプライエタリでもないソフトウェアすべてについて考えてみよう。私用のソフトウェア、一人のクライアントが使うためだけに開発されたソフトウェアだ。ほとんどのソフトウェアは、私用ソフトウェアだ。このようなソフトウェアの開発者も、そのユーザも、特許技術を使用したかどで訴えられる危険がある。海賊版作成者も含め、ソフトウェア特許権者は皆、コンピュータユーザもソフトウェア開発者も訴えることができる。良心の呵責もないある特許権者などは、開発者を脅すためにそのユーザを脅すのが通例だ。

IBM社が同社の特許500件については訴えないとしてくれたことには、率直に感謝できる。もしSun社が同じようにするなら、Sun社にも感謝できるだろう。だが、広いソフトウェア分野から地雷の破片を1つ除去したからといって、そこが安全になるわけではない。こうした部分的な方策にだまされて、コンピュータ業界が特許システムを容認してもよいなどと思ってはならない。ソフトウェア特許との闘いは、欧州でもどこでも、これからも続く。

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