サイバースペースで友達を見つけるビジネスとテクノロジ

読者が、巡回を日課にしているようなヘビーなブログユーザなら、インターネット上で最新のブームとなりつつあるソーシャル・ネットワーキング・ソフトウェア(SNS)の世界にも、たぶん抵抗なく入っていけるだろう。SNSはいわゆる「友達の友達」ネットワーク(Friend of a Friendを略してFOAFとも呼ばれる)の構築を可能にし、2年ほど前からRyze.comLinkedin.comAlwaysOn.comなどの代表的なFOAFネットワークが本格的に立ち上がってきた。高校生や大学生の世代をターゲットとするMySpace.comも急成長を遂げている。

このようなオンラインのパーソナル・ネットワーキング・サイトやビジネス・ネットワーキング・サイトの利用者は爆発的に増えていて、新規ユーザを毎月数万人のペースで獲得しているサイトも少なくない。出会い系的なサイトとして絶大な人気があるFriendster.comと同様、これらのサイトはどれも「6次の隔たり」という仮説に基づいている。これは、地球上からランダムに選んだどの2人でも、知人をたどっていけば、平均6人を介してお互いにつながっているという考えで、この説自体はかなり以前から唱えられており、最近では2003年にこの説を支持する研究報告が『サイエンス』誌に掲載された。

利用者が協同的に編集に参加できるフリーのWeb百科事典Wikipedia(Wikipedia自体、一種のソーシャル・ネットワーク・アプリケーションと言える)では、ソーシャル・ネットワーキングについて、 友人や親類、知人を介して個人同士をつなぎ、個人による「パーソナル・ネットワーク」の構築を可能にするプロセス、と説明されている。このようなネットワークは分岐しながら拡大できるので、参加者たちは、彼らが容認する社交範囲内のさまざまな人々とつながることが可能になる。

この「容認された」社交範囲をどう定義するかは、多数のFOAFネットワークにとって、他との差別化の鍵となる要素として一層重要性を増しつつあるようだ。マルチメディアの先駆者でMacromediaの創設者の1人でもあるMarc Canterは、最近の発言で次のように述べている。「顕在的なソーシャル・ネットワーキングは、ソフトウェアの世界で今注目の新しいトレンドと考えることもできるが、それはコンテキストを持たないソリューションである。デジタル身分証明、ソーシャル・ネットワーキングおよびWebサービスは、特定のコンテキストに置くことで初めて、その可能性をフルに活用できるようになるだろう」

Canterが1999年に設立したBroadband Mechanics社は、現在、オンライン・コミュニティのためにデジタル・ライフスタイル・アグリゲータ(DLA)と呼ばれる新世代のSNSツールを開発中である。DLAは、エンドユーザ個人や家族が所有するデジタル音楽、写真、ビデオ、ファイルのコレクションの管理を支援し、併せて、ユーザ自身のコンテンツを作成、保存、配布するホーム・パブリッシングの機能も提供する。

「今までソーシャル・ネットワーキングに欠けていたのは、人々が互いに知り合った後に続くべき活動や取引だった」とCanterは語り、Friendsterなど、多くのSNSサイトの力点は、参加者同士のより豊かなコミュニケーションを育むことよりも、最大のネットワークの構築を目指すことに置かれているように思える、と指摘する。「こういった退屈なSNSサイトに対する関心が低下しているのは当然の成り行きだろう。これだけ大勢の人たちとつながりができても、その後には何もすることがない場合が多いのだから。参加者が100万人のSNSが1つあるよりも、むしろ参加者が10人のソーシャル・ネットワークが100万できることを願いたいものだ」

顕在的SNSと潜在的SNS

Canterは、参加者が能動的に新しいメンバを招いてネットワークを意識的に築いていく必要がある顕在的ソーシャル・ネットワーク(Tribe、Friendster、Linkedinなど)を、コミュニティ主導の3行広告的システムで知られるCraigslistなどの潜在的SNSや、電子メールの使用といった人々の活動からメタデータを抽出して、それを基にソーシャル・ネットワークのマップを構築するSNSサイト(SpokeやPlaxoなど)とは別のものと考えている。Broadband MechanicsのクライアントであるAlwaysOnも顕在的ネットワークの一例と言える。AlwaysOnはテクノロジ関連の業界人をターゲットとするソーシャル・ネットワークで、ユーザは各自が作成、管理するオンライン・プロフィールで識別され、自分の顔写真を公開しているユーザも多い。それに対して、Craigslistユーザは、自らあえて名前を明かさない限り匿名である。

プライバシーをめぐる論争

信頼できるユーザ識別情報に関する考え方は、多くのソーシャル・ネットワーク・アプリケーション開発者にとって、激しい論争の的になりがちな問題である。Canterは、Sxip Networksの方法に似た商用サービスのアプローチを支持している。Sxip(「スキップ」と発音する)はMicrosoft Passportと同様の個人向け身分証明サービスで、ユーザは、識別情報プロバイダ(ホームサイト)に対して認証を行うことにより、信頼のネットワークに加わっている他のWebサイト(メンバサイト)に対して識別情報を提示することができる。これはLiberty Allianceのフェデレーション・スキームに類似した考え方だ。

Sxipの典型的な利用シナリオでは、ホームサイトがドメイン・ネーム・サービス(DNS)のルックアップを実行してメンバサイトのロゴのURLをチェックし、そのメンバサイトが実際に登録済みのSxipメンバサイトに間違いないことを確認する。Sxipの商用サービスは、Friend of a Friend(FOAF)プロジェクトによるマシン可読FOAFプロフィールの標準化に向けた取り組みに適合した形で進められることになっている。FOAFプロフィールは、vCard(電子ビジネスカード)と同様にユーザが自分に関する情報を提供する手段であり、名前や電子メール・アドレス、友人関係にある人々などの情報をXMLとRDFを使用して記述する。マシン可読FOAFプロフィールが標準化されれば、ソフトウェアが、たとえば自動検索エンジンの機能に組み込まれた形などでプロフィールを処理し、ユーザ自身の情報やユーザがメンバとして加わっているコミュニティに関する情報を取得することが可能になるだろう。Sxipはオープンソースのコードに基づいているが、所有権はカナダのバンクーバーを拠点とする小規模なベンチャー企業Sxip Networksにあり、Sxipの運営も同社が行っている。

一方で、たとえば、プライバシー問題の活動家であるDave Del Tortoは、SNSアプリケーションの信頼の輪をどう定義すべきかという問題に関して、市場の恩恵を信じるCanterとは見方を異にする。

「プライバシー問題を、必要な初期利益を常に阻害する邪魔者のように見なす考え方自体、悲しいことに、“一部の企業で利益が出てから、何かセキュアに見える仕組みを付け足せばいい”といった、ネットやWebを現在の困難な状況に陥れた姿勢と共通するものだ」とDel Tortoは話し、「セキュリティについて真剣に考えている専門家は、私が話を聞いた範囲ではほぼ全員、国際標準を強化する必要があるという意見で一致していた。これは“理想論”ではなく、実利に基づいた考え方である」と付け加えた。Del Tortoは、第三世界諸国の人権活動家に対する暗号技術の普及活動などを行っている非政府組織CryptoRights Foundationの創設者で、代表理事を務めている。

シアトルに本拠を置くCordance Corp.の最高技術責任者で、Identity Commonsグループの理事を務めるDrummond Reedも同様の意見である。「すべてのユーザが自分の個人データの流布や使用を実効ある形でコントロールできる保証がなければ、ソーシャルWebは成り立たない。そのことに異を唱えるソーシャル・ネットワーキング・サイトはなく、どのサイトも、すべてのユーザが自分のリンクをコントロールできるように大変尽力している。今必要なのは、これをIPやWebと同様にあらゆる場所で実現するためのオープン・プロトコルである」

Del TortoとReedがともに支持しているアプローチは、ソーシャル・ネットワーキング・サイトのフェデレーション(連邦)を信頼し、そのフェデレーションが、プライベートなアドレスを統一的に定義するための新しい層を、現在のインターネットで使用されているIPアドレスとDNS名の既存層に追加するという方法である。

roger.art4提案されているXRI層は、IPアドレスとDNS名からなる現在のインターネット基盤に、場所に依存しない永続的な識別子の層を追加する。具体的には、ユーザが管理する個人用のコンタクト・ゲートウェイ(i-name)がサポートされ、i-nameは「i-broker」によってホストされる。i-nameの構文とi-nameのサービスは、XRI(Extensible Resource Identifier:拡張可能なリソース識別子)とXDI(XRI Data Interchange:XRIデータ交換)の規格に基づいている。この2つの規格は、標準化団体OASISと、i-nameテクノロジを公益のために管理している国際非営利組織XDI.orgが策定中である。
それに対してCanterは、XRI/XDIを使う方法は過剰仕様だと反論している。「今のところはSxipで十分だろう。しかし、偏執狂が走り回って(XRI/XDIを宣伝して)いることを考えると、彼らに文句を言われ続けないために、いずれはOpen PeoplesDNS(DNSと類似した方法で人間の検索を可能にするプロジェクト)をやる必要があるかもしれない」

一方、Del Tortoの方もそれに応えて、Canterが提案している「Open」PeoplesDNSは「インチキなアイデアだ。自分自身のDNSサーバを立てることは、そう望むなら誰でも今すぐに可能なのだから」と主張する。「大切なのは、FOAF“ファイル”が人間に他ならないと認識することだ。個人はパブリックな面とプライベートな面を併せ持っていて、どちらの面をいつ、どのように、誰に対して、どのような理由で見せるかは、その個人が選択できなければならない。“パスワード保護”ではプライバシーやセキュリティは実現できない。我々がネット全体を未来へ向かって発展させていく中で、有益なプライバシー基盤を維持するには、i-nameのようなテクノロジで属性を暗号化することが事実上、必須要件となるだろう」

XRI/XDI推進派は「偏執狂」、というCanterの非難に対しては、Del Tortoは次のように応える。「彼はダチョウのように頭を砂の中に深く突っ込んだまま動こうともしない。さらされた尻尾の小さくて色鮮やかな羽の方は哀れなものだ。プライバシー保護のメカニズムに関するオープンな研究は絶対的に不可欠であり、自分のプライバシーを企業が“売ろう”としたなら、どんな場合であれ、彼らの正体を見抜いて、まるで、いかがわしい物売りや、その仲間や、それこそダチョウに出会ってしまったかのように、大急ぎで走って逃げるべきなのだ」

加わるべきか、加わらざるべきか

CanterとDel Tortoの激しい応酬が示しているように、プライバシーは、SNSアプリケーションの構築に携わる人々の間で最も論議を呼んでいる問題の1つである。プライバシーを規定する方法として、標準化されたFOAFプロフィールを使用して従来のDNSスタイルで検索を行うにせよ、あるいはIPアドレスとDNS名からなる現在のインターネット基盤に新たな識別子の層を追加するにせよ、SNS間のいかなる階層的関係や組織機構的関係にも依存しない何らかの非集中的セキュリティ・アプリケーションが必要であることに異論はないように思われる。

SNSアプリケーションが一般に広く受け入れられ始めた今、オンライン・グループに参加したい、あるいはSNSのツールやサービスやアプリケーションを利用してみたいと考えている多くの人々にとって、ユーザのプライバシーを尊重する姿勢がはっきりと示されることは、言うまでもなく、極めて重要な意味を持つだろう。

もちろん、やはり言うまでもなく、往年のコメディアンGroucho Marxが言い放ったように、「私のような者を会員にするクラブには入りたくない」という少数のひねくれ者はいつの日にも居なくなることはないだろう。

Roger Smith:『Software Development』誌の元テクニカル・エディタで、現在はサンフランシスコ在住のフリーランス・ライター。

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