政治活動におけるオープンソースの決定的勝利

政治活動においては、柔軟性、スピード、コストが命だ。候補者にとって大事なのはプロセスより結果である。オープンソースソリューションは、この種の環境に不思議とぴったりはまる。

ニューヨーク州ベスレヘムは人口31,000人の町だ。2年おきに町政執行官を選出する。私は選挙運動事務所幹部の一員となって、最小のコストと最大の柔軟性で自分たちのメッセージを送り出すための戦略立案に参加した。そこでオープンソースが関係してきたのである。

当時(2003年夏)、選挙活動にオープンソースを利用するということは、多くの人にとってはまだ突飛な考えだった。このときは、経費節約の観念がそうした懸念を振り切った。印刷物についてのある会議で私はこう発言した。「市販品の代わりにオープンソースを利用すると何千ドルも節約できるとしたらどうですか。」あきれたという顔をする人物がいた。彼はFortune 500に入る大企業でIT管理者をしていてWindowsびいきだったから、Linuxやフリーソフトウェアやオープンソースがちゃんと使えるわけがないという考えだった。

私は、ソフトウェアに一銭も払わずに大量の印刷物を制作できること、それも外部に発注しないですべて自分たちでできることを説明した。地元紙の『The Spotlight』では、印刷広告はすべてAdobe Acrobat形式で制作することを規定していた。私が以前働いていた会社は数年前にAdobeスイートを購入していたので、私はそれがどれだけ高価なものか知っていた。また、そんな高価な製品を購入するなど問題外だということもわかっていた。

幸い、OpenOffice 1.1(OOo)とそれ以降のバージョンには、Adobe Acrobatファイルを作成する機能があった。OOoを使えば、すぐに選挙活動広告の試作原稿を作成し、PDFフォーマットにして電子メールで送ることができる。これは非常に興味をそそるやり方だった。ほとんどのコンピュータにAdobe Acrobat ReaderまたはXpdfが既にインストールされているからだ。OpenOfficeはWebページ作成用としてもとてもよかった。

私が候補者にこの提案を説明すると、彼女はあいまいに笑って「様子をみてみましょう」といった。あまり乗り気には見えず、うまくいくと思っていないようだった。それでもとにかく、私はこの案を進めた。まず私たちが試作版を作り、候補者が変更箇所を電子メール、電話、Faxで伝え、私が家でそれを編集した。このやり方で印刷広告に最大限の柔軟性を持たせることができ、準備期間を短縮できた。選挙活動ではこうしたことが役に立つ。このツールを使ったことが私たちには有利になった。印刷広告の仕上げをぎりぎりまで引き延ばすことができたのである。あるときは、100人の支持者たちの集合写真を撮り、1日もたたないうちにその写真を使って広告を差し替えた。すばらしい変更だった。皆、驚いたものだ。

私たちはWebサイトも運営し、電子メールやダイレクトメールも活用した。WebサイトにはApacheを使った。当時はこれが最善の選択だった。a)無料で、b)安定していたからだ。実をいえば、選挙活動中、たった1日だけサイトがダウンしたことがあったが、それはApacheではなくサービスプロバイダ側の問題が原因だった。

大量の電子メール送信には、Ximian Evolutionを使用した。今は米Novell社のものだが、これは、市場に出回っているLinux製品の中でも最も洗練されているものの1つだ。ニュースリーダー、メーリングリスト、予定表なども統合されていて、少なくとも3つの機能を自動化することで必要な人員を削減できた。そのおかげで、その分、多くの人員を電話などの活動に投入できた。これも選挙活動の成功に重要なことだ。

写真の加工にはGIMP 1.0を使用した。私がこれを会議で提案したとき、Photoshopを使うべきだという反対意見が出た。私は、これもオープンソースで十分いけると説明した。そしてそのとおりになった。写真を好きなようにトリミング、サイズ変更、再フォーマットでき、とても役に立った。何よりも、Photoshopを買わなくて済んだことがよかった。

GIMPのただ1つの難点は、ファイルをGIFで保存できないことだった。これはどうしても必要というわけではなかったし、私は代わりにPNGが大好きになった。ただ、ちらしやパンフレットを印刷するときはPNGは問題になった。PNGファイル対応のプリンタがなかったからだ。どのプリンタもJPEG用かTIFF用だった。GIMPはTIFFの生成でも問題があったので、私たちはJPEGを使うしかなかった。

ダイレクトメールの宛先管理にはMySQLを使用した。これとOOoを統合して、支持者のリストを作成できた。初めはMySQLのコマンドラインにてこずったが、私はリレーショナルデータベースの経験があったので乗り切ることができた。初心者にはお勧めしない。この点が、MySQLをMS Accessなどの商用製品と比べた場合の欠点の1つだと思う。

これらはどれも、Red Hat Linux 8に含まれているか、更新で入手したものだ。当時RH 8が好きだったことは認めよう。Bluecurveデスクトップは美しかったし、サポート情報が必要なときコミュニティの協力がとてもよかった。依存性の問題にぶつかったり何かわからないことがあったりしてGoogleで調べると、ほとんどの場合、もっと経験のあるユーザが既に答えを投稿していた。答えの見つからない問題もたまにあったので、その後DebianベースのXandrosを使うようになった。Xandrosでは、もっとシームレスなレベルのサポートがあったが、今度は有料だった。

このソフトウェアを使っている間ほとんどずっと、皆、オープンソースを使っていることに気づかなかった。私が隠したというわけではなく、こうした世界の人と一緒に仕事をすればわかるが、皆、コーディングやコンパイルといった技術的な部分に関心がないのだ。ちょうど、IT業界のほとんどの人が地方自治体の動静に関心がないのと同じように。結局、どちらの世界の人間も物事がうまく動けばよいのであって、この選挙活動においてはオープンソースが、迅速に、適切に、予算内で、きちんと仕事をした。

私たちは圧倒的勝利を収めた。献身的で強力な候補者だったことがこの勝利の鍵だったが、無償のオープンソースソフトウェアを利用してこの規模の選挙活動の運営と部材制作を行ったことも大いに貢献した。OOo、GIMP、Evolutionのようなすばらしい製品があるのだから、オープンソースデスクトップパブリッシングは実用に耐えると思う。

最後に。例のFortune 500企業のIT管理者は、今でも私のオープンソース擁護をやれやれといった顔で見ている。だが少なくとも、私はオープンソースが使えるという立派なテストケースを確立したのだ。これからも私は可能な限りオープンソースを使っていこうと思う。

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