カリブ海に広がるLinux

オランダ領アンティル諸島は、5つと半分の島々からなっている。現在でもオランダ王国の一部であり、防衛と外交交渉をオランダに頼っているが、それ以外では自治を認められている。従来、Linuxやオープンソースとは無縁の世界だったが、その歴史が11月10日(水)に変わる。キュラソーのStimul-IT社が、この島で前代未聞のフリー/オープンソースソフトウェアカンファレンスを開催することになっている。

上記のカンファレンスリンクをたどっていくと、出席者にMicrosoft社の友人たちの名前も見える。政府が後援するフリー/オープンソースソフトウェアカンファレンスには、地域を問わず、必ず人を送るのが同社の方針らしい。こうしたイベントにMicrosoft社が顔を出すのはけしからんと考える人もいるが、私自身は彼らと討論するのが好きである。Microsoft社の人々はいつもほとんど同じことを言うし、それよりも何よりも、値段で「フリー」ソフトウェアを打ち負かすことに――とくに低所得国では――たいへんな困難を感じているのがわかって楽しい。

私はLinux LiveCDを持参するつもりだ。それをせっせとコピーして、できるだけ多くの人に再配布するよう、現地の人々に勧めよう。Microsoft社の人々にも、WindowsとOfficeで同じことをするよう勧めてみよう。どういう反応が返ってくるか、これも考えてみるだけで楽しい。

小さな島も愛を求める

私をこのカンファレンスに招待してくれたのは――1つお断り:私の講演料はなしだが、旅費はカンファレンス側に負担してもらう約束である――現地でITコンサルタントをしているLinux推進者、Ace Suarezである。Aceとは、2003年6月にトリニダード島で開かれた同様の(ただし、Microsoft社抜きの)カンファレンスで出会った。

Aceは、「Linux」という言葉さえめったに聞かれない土地でLinuxを広めようと活動している。地元企業だけでなく、プロプライエタリソフトウェアに手が届かない一般大衆にもフリー/オープンソースソフトウェアをもたらそうと努力している、真のパイオニアである。カンファレンスでは企業への配備が話題の中心になるが、私自身は滞在中に1度は公開討論会をやってみたい。

石油と観光(アルバ島のほうが有名だが、キュラソー島は豊かな歴史を誇り、シュノーケリングとダイビングでは世界屈指の名所でもある)という一応の収入源はあるが、やはり低所得地域であり、国外へ出ていく人のほうが入ってくる人より多い。よい職につくことを望む住民は、オランダ本国へ行かないと望みがかなわない。Aceは同志と力を合わせて、この状況を打破しようとしている。ある程度の水準のIT産業が地元に根づけば、頭脳優秀な若者が国を出ていかなくても働く場所が得られる。その意味で、フリー/オープンソースソフトウェアへの期待は大きい。フリー/オープンソースなら地元での開発が簡単であり、キュラソー経済から資金を流出させるプロプライエタリツールより費用効果も高い。さらに、Linuxならパソコンの値段が(図書館など公共施設に置かれるコンピュータの値段も)安くてすみ、低所得層の人々がコンピュータ技術を磨くうえでの支障が少なくなる。プロプライエタリソフトウェアの世界では、基本的なオフィス業務やWebデザインをこなすだけでも、$1,000(以上)のソフトウェアが必要である。生産的なプログラマを生み出すのに、どれだけの費用がかかるかわかったものではない。

現在、キュラソーではLinuxがまったく知られておらず、Aceによると「地元のどの本屋を探しても、Linux関係の本は1冊も見当たらない」という。Stimul-ITカンファレンスがこの状況を一変させる起爆剤になってほしいものである。

世界制覇へ、1度に1島ずつ

Linuxには、Windowsを支える巨額のマーケティング予算がない。だが、代わりに、その普及のためならいつでもどこへでも出かけていくという熱心な人々がいる。その人々の一部はそれをGNU/Linuxと呼び、「フリーソフトウェア」こそが聖杯で、「オープンソース」などは、真のソフトウェアの自由を嫌う企業サイドとの妥協の産物だと言う。これに対し、もっと鷹揚に構えて「Linuxで何ができるか試してみよう」と言い、哲学的純粋主義より、とにかくドアを閉じられないよう半歩踏み込むことが大事だと考える人もいる。

こうした食い違いはあっても、フリー/オープンソースソフトウェアの根本にある思想は人々の共感を呼ぶ。共感した人々は、自分でも無償でその思想を広めていこうとする。これに対し、カンファレンスで出会うプロプライエタリソフトウェア擁護派の人々は、1人の例外もなく、仕事だから来ていると言う。

世界中にLinuxの小さな島が点在する。その島の数は、静かに、着実に増えつづけている。ときおり、そうした島の住人が世界の別の地域へ旅をし、そこで新しい島が誕生するのに手を貸す。これがLinuxの強みである。大々的な広告を打とうが打つまいが、Linuxは国また国、会社また会社にゆっくりと浸透し、手から手へ伝えられていく。

Microsoft社は、Linuxの「ウィルス的」性格について怖い話を広めようとしている。同社の念頭にあるのはGPLだが、Linuxが真にウィルス的であるのは、実はその広がり方である。プロプライエタリソフトウェアベンダの目には、オープンソースカンファレンスとそこに出席し発言する人が、いわば癌細胞に見えるだろう。それも、PRという化学療法では退治できない、たちの悪い癌細胞である。

というわけで、仲間の癌細胞諸君、これからも増殖にがんばろうではないか。キュラソーの様子は、また今度報告する。最近、同様の感染に関与したという方は、ぜひ体験談などを投稿してほしい。それを読んで学び、ひょっとしたらわれらが小さな「病気」をもっと速く広める力になってくれる人が出てくるかもしれない。

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